
取材歴40年の編集委員が今年のプロ野球の注目ポイントを3つ紹介していきます。1回目は「長嶋茂雄賞」。日本野球機構(NPB)は今季から、昨年6月3日に89歳で亡くなった長嶋茂雄さんの名を冠した賞を新設しました。NPB所属の野手の中から、プレーだけでなく人々を魅了する姿勢で球界発展に寄与した1人を選出します。ただ、投手に贈られる「沢村賞」のような選考基準は今のところなく、イメージが先行しています。「長嶋賞」にふさわしい選手とは-。長嶋さんとゆかりのある3人に聞きました。【取材・構成=沢田啓太郎】
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長嶋さんに憧れて野球をはじめ、ドラフトでプロへの道にも導いていただきました。長嶋さんの1つ1つのプレーには、男女問わず吸い込まれる力がありました。エラーでさえ、見ている人を楽しませてくれたのですから。
今のところ、数字的な選考基準はないと聞いています。ただ、私は数字的な目安は必要と思います。長嶋さんはプレーに華があっただけではなく、バットマンとしても超一流でした。そこへのリスペクトは忘れてはいけないと思います。
打率なら3割、ホームランなら最低20本で、打点は80~100。これくらいの数字は求められるのではないでしょうか。しかも「安定感」が必要だと思います。長嶋さんは現役時代、この日しか球場に来られないかもしれないファンをがっかりさせないため、ケガをしていても不調でも、グラウンドに立ちました。1年間、安定したパフォーマンスを見せてくれることも重要なファクターです。
もし昨シーズンに「長嶋茂雄賞」があったら、阪神の佐藤輝明選手がふさわしいでしょう。私の現役時代にあったら? 選手、コーチとして長嶋監督のもとで野球をやってきましたが、やっぱり大砲が好きなんです。松井、清原、江藤…。大きいものを打てるバッター、長打力のあるバッターが好きでした。私は年間13本塁打が最高で、2ケタホームランは2回しかない。残念ながら、私はふさわしくないでしょうね。
数字の裏付けに加えて、チャンスに強いとか、ファンを魅了するプレーという点が選考にかかわってくるでしょう。とにかく長嶋さんはファンの目をすごく意識していました。グラウンドに立つと、取材に来たカメラマンがどんな絵(写真)をほしがっているか、考えて行動しているように見えました。ファンを喜ばせるための、グラウンド内外での振る舞いも重要ですね。
こう考えると、なかなかハードルが高いと思われるでしょうが、私はそれでいいと思います。無理に選出するくらいなら、「今年は該当者なし」でもいいと思います。長嶋茂雄の価値を落とすことがあってはいけない。それくらいの重みを、選ぶ方も選ばれる方も、ファンの方々にも感じてほしい。榊原定征コミッショナーは「長嶋さんが築いたプロ野球の魅力を次世代に伝える賞にしたい」とおっしゃっていましたが、同感です。権威のある賞にしていただきたいです。(日刊スポーツ評論家)
◆篠塚和典(しのづか・かずのり)1957年(昭32)7月16日、千葉県生まれ。銚子商から75年ドラフト1位で長嶋巨人に入団。首位打者2回(84、87年)、ベストナイン5回、ゴールデングラブ賞4回。94年に引退し通算1651試合、打率3割4厘、92本塁打、628打点。引退後は巨人コーチを歴任し、現在は野球評論家。
◆長嶋茂雄賞 公式戦とポストシーズンで走攻守に顕著な活躍を見せ、ファンの心を動かすプレーでNPBの価値向上に貢献した野手1人に贈られる。25年11月の12球団実行委員会で新設が承認された。選考委員はいずれもプロ野球OBの王貞治氏、山本浩二氏、岡田彰布氏、栗山英樹氏、松井稼頭央氏の5人。日本シリーズ終了後に選定され、表彰式は「NPBアワード」で行われる。記念品、メダル、副賞300万円が贈られる。
