
<全国高校野球選手権秋田大会:金足農2-1鹿角>◇22日◇決勝◇こまちスタジアム
全国舞台でも、兄を超える。金足農(秋田)を18年夏の甲子園準Vに導いたオリックス吉田輝星投手(24)の弟大輝投手(3年)が22日、鹿角との決勝で延長10回を128球の熱投で7安打1失点完投。サヨナラ勝ちで、兄も成し得なかった同校初の2年連続出場を果たした。重圧を乗り越えてエースとして大きく成長し、再び聖地へ。もう1度カナノウ旋風を巻き起こし、兄も届かなかった日本一を目指す戦いに挑む。
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やっとたどりついた、1年前と同じ秋田の頂点。見えた景色は違った。サヨナラ勝ちを見届けると、吉田は白いマウスピースをのぞかせ歓喜の輪に駆けだした。2年生だった昨夏と違い、大黒柱としてつかんだ甲子園。「本当に厳しいことを仲間全員で乗り越えてきた。本当にめっちゃくちゃうれしいです」。緊張から解き放たれ、みんなと笑顔で人さし指を突き上げた。
堂々たるマウンドだった。好フィールディングに巧みなけん制で進塁を防ぎ、果敢に内角を攻めた。完封目前の9回2死。ツーシームで空振り三振に仕留めたかと思いきやワンバウンドで暴投となり、振り逃げで出塁を許すと、その後に守備陣も乱れ追いつかれた。だが、優しい表情を仲間に向けた。「自分がその前に抑えていれば良かったこと。あとは抑えればいい」。
冷静にチームメートを落ち着かせ、傾き掛けた流れを切った。延長10回タイブレークでは無死一、二塁から気迫十分の投球で無得点に抑え、劇的幕切れへの道筋をつくった。
連覇までは平らな道のりではなかった。新チーム結成後、昨秋は4回戦敗退。主将としてチームを導こうとするも、思い通りにいかない。春の大会を迎える前に主将を交代してエースに専念したが、それでも今春はベスト8。「正直悔しい思いもしましたし、心が折れそうにもなりました」。プレッシャーや焦りに苦しむ日々。「正直このままじゃ負けるなと思っていて。夏の大会前もメンタルがボロボロで入りました」。
復活の鍵は「兄」だった。つらい時も「超すために」と、兄が投げる動画を見つめてモチベーションにつなげた。4月23日の誕生日には、兄が甲子園で「カナノウ旋風」を起こした時と同じモデルのグラブをもらった。大会前には「また甲子園に行けよ」とエールを受けた。「約束を果たせた。(2連覇したと)あんまり上からいくと怒られるから(笑い)、普通に優勝したよって伝えたいです」。
周囲にも背中を押された。「保護者の方とか友達や先輩、学校全体ですごく応援してくださった。そういうところが自分の自信ややる気につながったんじゃないかな」。兄はもちろん、多くの支えに感謝した。
ただ、これが終着地ではない。「絶対に勝って、輝星よりもいい結果を残さなきゃいけないと、今日また強く思いました」。兄を超える大輝の物語には、まだ続きがある。【高橋香奈】
▽金足農・吉田の父正樹さん(49)(スタンドから観戦)「去年は先輩たちに連れていってもらったけど、自分たちの力でつかんだ優勝だね。(甲子園では)去年は初めてのマウンドで緊張している感じがあったから、今年はのびのびと自分らしくプレーしてもらえたら」
◆金足農 1928年(昭3)に金足農業学校として開校。1948年(昭23)に金足農業高等学校と改称された。生徒数は494人。野球部は41人(マネジャー4人)。甲子園出場は春3度、夏8度目。主な卒業生はヤクルト石山泰稚、オリックス吉田輝星ら。秋田県秋田市金足追分字海老穴102の4。工藤雅文校長。