
<高校野球埼玉大会:昌平5-1花咲徳栄>◇19日◇越谷市民球場
越谷市民球場は満員だった。暑く、熱かった。
0-1で敗れる直前の9回2死、柳健太内野手(3年)が敵失で出塁し、酒井煌太主将(3年)が代打へ向かう。
花咲徳栄野球部の1、2年生部員の保護者だろう。一塁側スタンドで応援補助の氷のうなどを作っていた女性が、階段の途中で試合を眺め、願うように手を組んだ。
するとそこに高齢の男性がやって来た。暑さからか、ふらつくように階段の手すりをつかみながら、女性に体が当たる。
女性はきっと、同点の瞬間を見たかったことだろう、でも。
「大丈夫ですか!? ここ、どうぞどうぞ」
男性を気づかって手すりをつかみやすく、試合を見やすい場所を譲った。そして、女性は1段2段と下がって、わずかな隙間から戦況を見守る。
酒井の同点打がセンター前に落ちたのは、その直後だった。3年生の保護者たちはもちろん、その女性をはじめとした1、2年生の保護者たちも手を取り合って、涙を流して喜んだ。
全国に名を知られる強豪校だ。野球部員の全員がベンチには入れない。3年間一度もベンチに入れない部員も、中にはいる。それでも束になって戦う。勝てば皆がうれしいから。
延長タイブレークの末、試合には敗れた。でも同点に追いつき、花咲徳栄を1つにしたのは柳、酒井と2人の3年生だ。
岩井隆監督(55)もその一打を「彼らの意地というかね、それだけだと思いますね」とたたえた。その意地には、勝利を願った全ての人の思いもこもっていた。【金子真仁】