
【華城(韓国)13日=永田淳】東アジアE-1選手権を戦う台湾女子代表(FIFAランキング42位)に、日本育ちの選手がいる。この日は第2戦で中国代表(同17位)に2-4と惜敗したが、途中出場したMF松永早姫(29=台湾・新北航源FC)が攻守に奮闘した。なでしこジャパンと対戦した第1戦ではフル出場。なでしこ魂を持つ司令塔が、異国の地でサッカー文化を根付かせようとしている。
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チームの誰よりも高いテクニックを持つ10番が、雨中の戦いで存在感を示した。約1カ月間の遠征が続いていることで、台湾MF松永はベンチスタート。2点を先取されるとピッチに投入され、中盤の高い位置でボールに関わった。「流れが悪かったので早めに投入された。前半よりプレッシャーに強く行くようにした」という言葉通り、相手の圧を押し返そうと戦った。
千葉県出身で、なでしこリーグでプレーした後、24年2月に台湾へ渡った。「なでしこリーグで感じるべきものは、プレーした10年で感じきったなという感覚もあった。なでしこジャパンの選手たちが海外を主戦場としているのを見て、刺激を受けていた」。そんな中で、エージェントから台湾行きと国籍取得の話が舞い込んだ。祖母のルーツが台湾にあり、国籍取得ができれば代表選手としての活動もできるかもしれない状況に後押しされ、決断。今年2月のスペイン遠征直前に台湾国籍を取得し、FIFAへの登録もギリギリで完了させた。
台湾の女子リーグ1部8チームで争われ、昨季は3位。「日本人がいるチームが強い」という通り、拮抗(きっこう)した3強が上位を争っている。日本ではあまり知られていないが、近年は女子サッカーにも力が入れられている。「サッカー文化はまだまだだけど、日本よりも(待遇面での)男女差があまりない。外国人選手として台湾に来る場合、プロ契約できたり、家を用意していただいたりと、すごくいい環境でできる。チャンスがあったら台湾もいいかなと思う」。現在は日本人8人がプレーし、来月から新たな日本人選手が台湾クラブに加入予定。その流れは加速しているという。
台湾生まれの父が「特に喜んでくれた」という台湾行きと代表入りは、決して楽な道ではない。8日の会見では流ちょうな中国語も披露したが「言葉はまだまだ」。授業やチームメートとの会話で勉強中で、日々の苦労は少なくない。それでも台湾代表には可能性を感じている。「まだチーム全体でパスをつなぐ習慣や意識はなく、日本でやっている時よりもボールに触る回数は少ないけど、技術の部分を成長させて、台湾特有の体力を生かせるようになれば、良くなっていく」と明るい未来を見据える。「来年のアジア杯では、今までの台湾とは違ったサッカーを見せられるようにしたい」。日本で身に付けた技術とメンタルを武器にするエースが、台湾サッカーの未来を切り開いていく。
◆松永早姫(まつなが・さき)1995年(平7)12月26日、千葉県生まれ。修徳高、日体大FIELDS横浜から、なでしこリーグのスフィーダ世田谷に加入。愛媛FCに移籍した後、24年から台湾の新北航源FCでプレー。日体大時代の17年にはユニバーシアード代表に選出された。今年2月に台湾国籍を取得し、直後のスペイン遠征から台湾代表に入り。日本ではサイドバックを主戦場としたが、台湾ではボランチを務める。