
日刊スポーツの随時企画「虎を深掘り。」の25年第10回では阪神湯浅京己投手(25)の歩みを支えるこだわりの「靴」に迫りました。国指定の難病「胸椎黄色靱帯(じんたい)骨化症」から復帰した今季。「神経伝達」を意識したリハビリ期間からクッションの入っていない特殊なシューズを使用してきました。4月下旬に1軍復帰し、ここまで21試合に登板。力投を支える秘密兵器を掘り下げます。【取材・構成=波部俊之介】
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特殊な「靴」が、湯浅の歩みを支え続けている。走り込みやトレーニングなど、1歩ずつ段階を進めてきたリハビリ期間。足元から支えてくれていたのが、手術後から愛用するランニングシューズだった。
「ただ履いて歩くだけでトレーニングになる。右足の感覚がなかったからこそ、フラットなシューズを履いて1からと思いました」
湯浅が使っていたのは、ゼロシューズ(株式会社ケンコー社)という製品。内部にクッション性がなく、地面との接触をダイレクトに感じられるモノだ。クッションなしのフラットな作りは、本人いわく「はだしに近い感覚」。練習やトレーニングから愛用しており、今後も使用を続けていく考えだ。
罹患(りかん)した「胸椎黄色靱帯(じんたい)骨化症」は、骨化した黄色靱帯(じんたい)により脊髄が圧迫され、下半身のしびれや脱力などが起こる国指定の難病。湯浅自身、右足の感覚が消えるような症状があった。だからこそ、リハビリ期間は体にあらゆる刺激を加える「神経伝達系」を意識した練習に着手。脳から筋肉へ伝わる神経伝達を促進させることで、あらゆる動きの精度を高めにかかった。
自らメニューを考えた。時には手指を器用に扱うボルダリングにも挑戦。意識的に細かな刺激を体に加えてきた。そうした中で出会ったゼロシューズは、掲げていた目的に対して最適なアイテムだった。
「足裏の機能を高めたり。右足のしびれとか、しびれてて感覚がなかったからこそ、足から見直そうと思っていろいろやりました」
足裏は、体の中でも多くの末梢(まっしょう)神経が集中している箇所。身体の着地や姿勢の状況などを感知し、脳に伝える「センサー」のような機能も持ち合わせている。しかし、衝撃を緩衝するクッション材が多く組み込まれた靴では、地面からの「情報」がダイレクトに足裏に伝わりにくい。反応が鈍くなることで時に無理のある体勢で姿勢を支えたり、足をくじくことなども起こり得る。
一方でゼロシューズは足裏の機能に重きを置いた製品。同商品を担当する面川聡さん(47)は「(足裏の機能が高まると)『ここに力を入れるとバランスを崩さなくなる』と脳から体に情報が出しやすくなる。すると変な部分を無理に使って立たなきゃいけないことも減るので、ケガも防げるし大きくバランスを崩す前に体の補正ができる。自分自身の素の状態を強くしていくイメージのシューズです」と説明した。
まさに湯浅が目指していた「神経伝達の促進」を足裏から高めていくことができるシューズ。出会いは元同僚の日本ハム斎藤からの紹介だった。自ら同社に連絡を入れ、数種類を使い分けながら使用開始。練習時などに履いているだけで神経を刺激できる、一石二鳥の商品だった。
「本当に少しのデコボコも感じやすい。自分の足で、はだしで走っている感覚。いろんな感覚を入れることによって神経とかも刺激されるので」
4月下旬の1軍合流ながら今季はすでに21試合に登板し、防御率1・93。2軍でのリフレッシュ期間を挟み、25日に再び1軍に合流した。根底にあるのは、リハビリ期間中から語ってきた向上心だ。「元に戻すんじゃなく、もっと感覚が良くなるように何ができるか」。足元から見つめ直し、1歩ずつ進んできた日々。再び戻ってきた1軍でも、高みを目指して腕を振る。