
もう1つの顔が、戦うモチベーション-。阪神近本光司外野手(30)が昨年4月25日に立ち上げた一般社団法人「LINK UP」(リンクアップ)が設立から1年を迎えた。理事として参画し、離島支援を始め、母校の関学大や兵庫・芦屋市と提携するなど活動の幅は拡大中。社(兵庫)の1学年先輩で代表理事の石井僚介氏(31)と日刊スポーツなどのインタビューに応じ、二足のわらじを続ける意義を語った。28日は芦屋市内で「一歩踏み出す勇気 未来につなぐプロジェクト」の第1回を開催。名古屋移動前に立ち会い、中学生と交流した。
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異例の“二刀流”の1年が、近本を変えた。
「まずはスタートすることが大事だと思っていたので、すごく大きな1歩。その中で、自分が思っていた以上にプレーにも影響することがたくさんあって。野球に対してのモチベーションは本当に変わりました」
淡路島出身。島の外で視野を広げた自身の経験から、子どもの人生の選択肢を増やしたいと「LINK UP」を設立。新たな挑戦がプロとしての責任感を強くした。
「プレッシャーはあります。チームとして勝たないといけない、プラス個人でこういう活動をしているので」
オフには石井さんとともに、スポンサーへあいさつ回りを実施。「この活動の本当の意味は?」と聞かれるなど、1人の理事として向き合った。グラウンド外での日々が、シーズンを戦う上での新たな刺激だ。
「どうしても野球だけの生活になると、打った、勝った、活躍した、だけでしかモチベーションは変わらない。それ以外で自分の感情を揺さぶることができるのは、僕は現役選手としてはすごく大きい」
うれしい出来事もあった。今年1月、自主トレを行う沖永良部島で子どもたちとランチ会を開催。和やかにご飯を食べて交流した後、あるサッカー少年が中学から野球を始めることに決めたと聞いた。
「野球にしたからうれしかったんじゃなくて、僕たちと会って、自分の意思でこうしたいと選択肢が増えたことがすごく大きい。僕の中ではいい関わり方ができたんじゃないかなと思う」
当初始めた離島支援から、母校関学大や芦屋市と提携し「自分の想像よりもすごくスピード感もあった」と近本自身も驚く。今年は新たに、球団内に新設された野球振興室とタッグを組み、シーズン中に淡路島で野球教室を行うプランも計画する。活動の幅を広げながら、現役中に活動する意義を再確認した。
「どうしても引退すると、今僕が頑張っていることは見えにくい。でも現役だと、僕が子どもたちと関わって『じゃあ、試合行ってくるわ』で、次の日試合が見られる。4万5000人の中でプレーしている人が、今目の前にいるとなったら、子どもたちにとってはすごくインパクトがあると思う」
影響力を自負するからこそ、今は第一線でプレーすることが大きな仕事。
「プロとしての活動もしっかりするし(LINK UPを)スタートした以上、自分の全力で関わらないと、それはプロとしての行動ではないと僕は感じた。今の自分は、しっかり野球で活躍することが役割。やっぱり最後まで上を目指して、やっていく」
首位を走るチームは、29日中日戦(バンテリンドーム)から9連戦に臨む。現在チームトップの打率3割1分7厘とけん引する近本。二足のわらじで活躍を加速させる。【磯綾乃】
○…近本がタッグを組む石井さんは、社で中堅手として右翼近本の隣を守った。大学からアメリカンフットボールを始め、23年5月に引退を決めた際、近本からアタックを受け飛び込んだ。「ちゃんと中身を応援してくれる形を作っていく」と責任感は強い。毎年恒例の淡路島自主トレでは自治体と協力して名産ブースを作るなど、島全体を巻き込んだ取り組みを計画中だ。