<潜入:DeNAのスカウティング手法・前編>
26年ぶりの日本一に輝いたDeNAで光ったスカウティング力。中川颯、佐々木ら他球団からの新加入組やジャクソン、ケイら新外国人、度会ら新人が軒並み戦力としてチームの底上げに成功した。
野球経験はなく、長く金融業界など別業種で活躍してきた長谷川竜也編成部長(36)は野球のうまさだけで評価しない「第3世代のスカウティング」で新たなメソッドの確立を目指している。その狙いと思いに潜入した。【取材・構成=小早川宗一郎】
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長谷川編成部長は新しいスカウティング手法「第3世代のスカウティング」の確立から、球界全体の成長の可能性を見いだしている。
「野球をとりまくさまざまな環境が変わった今、我々プロ野球界のスカウトも大きな変化を求められている時代に突入したと感じています。それならば、新しいスカウティングスタイルを僕たちから確立しようと『第3世代のスカウティング』に取り組んでいます。野球がうまい選手をとるのではなくて、プロ野球で、ベイスターズで、成績が残し続けられる選手を評価しようというものです」
第1世代、第2世代を終え、第3世代はネットが発達し、情報が民主化された現代のことと定義づける。
「今やSNSが発達して選手本人もファン1人1人も発信ができる時代になりました。そうなると昔のような『隠し玉』というのはほとんどありません。トラックマンなど、データを測る機器も進化していて、選手の能力を測ることに関して、差が生まれにくい状況になっています」
ではどこで差をつけるのか。次なる判断基準はどこなのか。
「ざっくり言うと、野球に夢中で居続けられる選手。そのうえで、チームのために、ベイスターズの勝利のために、野球ができる選手です」
例えばアマ選手のスカウティング。23年のドラフトでは高卒の武田を除いた5選手が1軍で活躍した。ヒントはグラウンド内だけではない。プロ入り前の選手のどこを見るのか。
「試合前後、ベンチの中の様子もそうですし、高校生なら球場の外で着替えたりする時の様子もそうですし、もちろん普段の練習の姿勢だったり、本人とは接触できないので周りの方からのヒアリングだったり。その選手の母校である中学校に訪問して当時の担任の先生にお話を伺ったこともあります。ベイスターズのスカウト陣はグラウンド内だけでなくそのような点にも力をいれて毎日のように見続けてくれています」
人の人生を左右するスカウトという職業は、救うこともあれば狂わせてしまうこともある。だからこそ、精度を高めて、洗練させていかなければならないという危機感がある。
「例えば僕は、山本由伸選手をなぜドラフト1位にできなかったのか、という部分は、プロ野球のスカウティングに関わる人間として、野球の神様から突き付けられた宿題だと思っています。プロ野球界として、あれだけの選手は本来なら7、8球団競合にしなくちゃいけない。でもなぜそれができなかったのか。我々スカウトが真剣に向き合わなければいけないことだと思っています」
スカウトも選手と同じように、自主トレーニングをして地力を高め、「見抜く力」を養わなければならない。その一環として、昨年12月には初の試みとして海外サッカー3チームを訪問した。費用は球団負担。希望者を募ってベルギーのシントトロイデン、スペインの中堅クラブ・ビジャレアル、イングランドの名門アーセナルと立場や規模が異なるチームを視察した。
「世界最先端、自分たちの想像を超えるものはどこにあるだろうと思った時に、グローバルなスポーツで競争力も高い本場ヨーロッパのサッカーだなと。ヒントをもらえるものがあるんじゃないかと思って僕の方から提案させてもらいました」
いち早く次世代のスカウティングへとアプローチをかけるDeNA。競技の枠を飛び越え、サッカーの最先端のスカウティングを目の当たりにしたスカウトは、刺激を感じるとともに未来への可能性も見いだした。(続く)