<全国高校サッカー選手権:東海大相模2-1明秀日立>◇4日◇準々決勝◇U等々力
東海大相模(神奈川)が明秀日立(茨城)を2-1と逆転で破り、初出場で4強入りを果たした。エースFW沖本陸(3年)が1得点1アシストと全2得点に絡み、夢の国立切符をつかみ取った。選手権初出場での準決勝進出は6大会ぶりで、首都圏開催となった1976年(昭51)以降は9例目。夏の甲子園8強だった名門野球部を上回る快進撃で、相模旋風が新春の高校サッカーを面白くする。
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「監督、これってベスト4ですか…?」
「だな…」
有馬監督は現実をすぐには受け入れられなかった。そして、夢の国立進出に歓喜する選手たちを抱き締めた。激戦区神奈川を勝ち抜いたとはいえ、全国では無印のダークホース。「夢のようなひとときでした。野球や柔道ではなく、東海大相模のサッカーが国立に行くなんて…」。自嘲気味にそう言って笑い飛ばした。
2011年(平23)に監督をしていた東海大五(現東海大福岡)から異動。「相模にサッカー部なんてあるんですか?」。当時、異動をうながした校長にそう話したのは有名な話だ。就任2年目、部員たちを連れて国立で選手権を見せた。「あいつら、お菓子食って、ジュース飲んで」。まるで遠足だった。「こんなところでサッカーしたらすげぇんだろうな」。夢のような世界だった。それが現実となったのだから無理もない。思い出が次から次へと頭の中を駆け巡っていた。
地道な長年の強化が実を結んだ。今大会3戦目にして相模が志向する少ないタッチで中盤をかいくぐり、多くの選手がペナルティーエリア内へ進入する形が随所に出た。最前線に起点を置かず流動性を促すゼロトップ。そのチームの象徴、2年から10番を背負う沖本が3戦目にして目覚めた。
170センチと小柄ながら前半40分にクロスボールを頭で合わせて今大会初ゴール。後半25分にはシュートを狙ったボールがMF高畑へのパスとなり、勝ち越し点となった。「エースは苦しい時にチームを助けるのが仕事。それができて良かった」。昨年1月に左足中足骨を骨折、全治3カ月となった。だが、指揮官は「沖本は面白い。あいつがいるから今年は全国に行ける」と言い続けた。信頼に応えるようにエースは苦境から復活。インターハイ出場に続いて、選手権予選でも4試合4得点で全国への扉を開いた。この日も先攻される苦境の中で「絶対に取ってやる」と意地を見せた。
11日の準決勝は、優勝候補だった大津を破った流通経大柏が相手。準々決勝でも上田西から8点を奪っている。有馬監督は「あんなところ(国立)でボコられるのは怖い。バレるまで12人でやろうかな、4-4-3とか」と笑った。それでも強度の高い相手とも戦えるよう大学生と多くのトレーニングマッチを組んだ。従来にはないフィジカルメニューも増やし、対策に抜かりはない。「もう立ち向かっていくしかない」。おごりも慢心もない。個性派・相模は無欲のままにぶつかっていく。【佐藤隆志】
○…今大会話題の超絶ロングスローワー、DF佐藤碧が剛腕を見せつけた。前半からビュンビュンと明秀学園日立ゴール前に鋭い弾道を投げ続ける。2-1とリードした終盤には、ロングスローからゴールネットを揺らしたが、誰も触れずに直接ゴールに飛び込んだためノーゴールになったほどだ。今大会は地元開催ということで大歓声を浴び「アドレナリンが出ています」。剛腕ぶりばかりが注目されるが左足キックや1対1の強さも抜群。有馬監督は「あれは将来すごい選手になる。期待している」と太鼓判を押した。