<槙野智章引退試合>◇14日◇ノエビアスタジアム神戸
引退試合の主役が退場する、異例の終幕となった。
後半アディショナルタイムに「MAKINO JAPAN」がPKを獲得すると、元日本代表DF槙野智章(37)の妻で、俳優の高梨臨(35)が10番を背負って交代出場。槙野から手を肩にアドバイスを受けたキックは真っ正面で、容赦なく神戸GK前川にキャッチされたが、動き出しが早かったとして、やり直しになった。
ゴールライン上から、に変更されたキックを左隅へ成功させると、今度こそ選手全員で喜んだ。ところが…。この際、選手が集まったコーナーのフラッグを槙野が抜いて喜んでしまったため、村上伸次主審から“真顔”でイエローカードが掲示された。
直後も“悲劇”は続く。突如、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)のチェックが入った。どよめく場内に流された確認映像は21年のJ1リーグ名古屋グランパス-浦和レッズ戦(豊田ス)だった。
3年前、村上主審のラストマッチで槙野がイエローカードを受けた場面だ。
当時は、村上氏が試合終了の笛を吹くと、名古屋と浦和の選手たちがそれぞれ1列に並び、花道をつくった。最後に仁王立ちしていたのが、当時浦和の槙野。ユニホームを脱ぎ、待ち受けていた。
白いアンダーシャツには「村上さんの笑顔が 僕たちを気持ちよく プレーさせてくれました。 最高のレフェリングをありがとう! おつかれ様でした。 浦和レッズ 槙野智章」のメッセージがあった。
村上主審は笑顔でイエローカードを出し、両チームの選手から胴上げされた。感動のラストだっただけに“恩返し”のイエロー取り消しもあるのか。注目されたが、結果は退場処分だった。
村上主審がマイクを握って状況を説明する。
「槙野選手に対して3年前、過度な喜びでイエローカードを出しました。合計2枚で退場となります」
頭を抱えながらも、槙野は大爆笑。サプライズについて「あると思います」と天津木村風に予告していた男は、村上主審から「成功を願う」と英語で書かれたグリーンカードをもらい、当時と同じように、選手からガード・オブ・オナーで槙野が送り出されて試合の幕が閉じた。
引退試合では日本初!? 世界でも初!? 極めて異例の、主役退場が「大感謝祭~1日限りのワッショイ劇場~」のフィナーレだった。
なお、槙野はフェアプレー順守で知られており、サンフレッチェ広島時代の10年と浦和時代の18年に、時には強引なファウルも辞さないDFながら「警告も退場もゼロ」というクリーンな記録を打ち立てている。