<走姿顕心>
国内フリーエージェント(FA)権を行使していた阪神大山悠輔内野手(29)が29日に残留を決断し、日刊スポーツ独占コラム「走姿顕心」の中で結論に至るまでの胸中を赤裸々に明かした。獲得に乗り出した巨人は6年24億円超を用意していた。それでも主砲は年俸3億4000万円、5年総額17億円プラス出来高払いで残留を決断した。この日のうちに両球団への報告を済ませ、阪神球団が発表。前代未聞のTG争奪戦が繰り広げられる中、主砲は一体、何を判断材料としたのか-。(金額は推定)【聞き手=佐井陽介】
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本当に最後の最後まで悩みました。決断したのは29日の朝、選手会納会から帰宅してからです。すぐに藤川監督に電話させてもらいました。監督はもしかしたら移籍も想像していたのかもしれません。「良かった! 一緒に頑張ろう!」とホッとしてくれて、心底うれしかったです。
FA宣言から2週間超、毎日毎日、自問自答し続けました。残留か移籍か。日々てんびんにかける中、正直に言えば五分五分どころか、移籍に気持ちが傾いた日もありました。人生は1度きり。一野球人として新天地で挑戦するのもプラスになる、新しい発見があると考えたのです。それでも最後、前日28日に参加した選手会ゴルフや納会で「阪神でプレーしたい」という気持ちが強くなりました。
チームメートは熟考の最中、僕の苦悩を気遣ってか、ソッとしておいてくれました。そんな中、昨夜はお酒の席で仲間の思いを聞くことができました。裏方さんは「残ってほしいけど、どういう選択肢でも応援する」と温かい言葉をかけてくれて、後輩も「もっと野球を教えてください」と。「このチームメート、裏方さんたちのためにもう1度頑張りたい」と素直に思える1日になりました。
悩んでいる最中はもう大変でした。自分の知らないところで臆測や誤報が飛び交う毎日。まだ何も決めていないのに「決断したと聞きました」と電話がかかってきたこともありました。球団納会への不参加も、表に出ることでまたいろいろ報じられることを避けたかっただけでした。一時期は「一体どうしたらいいんだ」と恐怖すら覚えましたが、これも勉強になったとプラスにとらえて前に進んでいきたいと思います。
決断の決め手は本当に1つだけではありません。ただ、お金だけが判断材料でなかったのは確かです。まずは監督、コーチ、スタッフ、裏方の皆さん、そしてチームメートともう1回優勝、日本一を一緒に達成したい、その気持ちが強かったこと。あとはファン感謝デーで多くの方々が僕の赤いタオルを広げてくれたことが本当にうれしくて、赤いタオルをもっともっと増やしたいなと感じました。
ファン感謝デーへの参加に不安がなかったと言えばウソになります。どんな厳しい言葉もしっかり受け止めようと覚悟していました。それなのに、見渡せば赤タオルが数え切れないほど振られていて…。あの光景は生涯、忘れることはないと思います。ハイタッチの際も温かい言葉をかけてもらい、名前を呼ばれた時も大歓声で…。そんな感謝の積み重ねも残留という決断につながりました。
阪神はFA宣言した後も一貫して「残ってほしい」と伝え続けてくれました。一方で、獲得に乗り出してくれた他球団の方々にも本当に感謝しかありません。FA宣言する時は「手をあげてくれる球団はあるのだろうか」と心配もありましたが、自分は幸せものだと感じるぐらい、ありがたい評価と言葉をもらいました。この感謝はこれから一生懸命にプレーする姿を見せることで伝えていくしかないと考えています。
もちろん、もう来季に向けてスイッチの切り替えは済んでいます。5年契約を結ばせてもらいましたが、今まで通り1年契約のつもりで1日1日を大切にしていくつもりです。実はもともと「藤川監督はどんな野球をするのだろう」と興味を持っていました。現役時代がかぶっている監督は初めてですからね。今は「早く藤川監督と野球をしたい」という気持ちだけ。25年もタイガースの一員として、また仲間とともに頂点を目指していきます。(阪神タイガース内野手)