<SHO-BLUE ワールドチャンピオン特別編>
日刊スポーツでは今季、毎週火曜日に「SHO-BLUE」と題した企画を掲載してきた。ドジャーブルーの青きユニホームで挑戦を続ける大谷翔平投手(30)の世界観に、さまざまな角度からアプローチしてきた。「SHO-BLUE WORLD CHAMPION 特別編」として、夢の1つ「世界一」を実現させた大谷選手のメジャー挑戦7年間をあらためて読み解いていく。最終回はエンゼルス時代から取材を続けるMLB担当の斎藤庸裕記者が思う「大谷翔平とは」。
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包み隠すことない大谷の素性、その一端が、少しずつ見えてきている。超人的なパフォーマンスで数々の功績を残し、世界的なアスリート、スーパースターとしての風格を備える。求められる仕事や立場をわきまえ、公に自分をさらけ出すことは極めて少ない。同僚や監督からエピソードを聞くことはあるが、今季は「素の大谷」を実際に感じることがあった。
他選手とは異なり、試合前にメディアに開放されるクラブハウスで個別取材はできない。大谷に限ったことではないが、一対一で行うインタビュー以外で、選手の素の人間性を知るのは至難の業。その機会も簡単に得られるものではない。ただ、数少ない対面での会話で新たに分かったことがあった。スターならではのオーラはもちろんあるが、ニコニコと笑う姿に、記者の気がほぐれた。囲み取材であまり表情を崩さない大谷が、よく笑っている、そんな印象だった。
メジャー1年目からロサンゼルス在住の現地記者として大谷担当を務める縁に恵まれた。一体、どんな人なんだろう。観察から始めた。質の低い質問や偏った見方で反省することも多々。その繰り返しで理解を深めるつもりだったが、エンゼルス時代の6年間で年々進化を遂げる大谷は、どこか遠く手の届かないところに行ってしまった、そういう感覚にさえなった。
もちろん本音が分かりにくい面はまだあるが、今年は明らかに違った。新しい家族を得て、同僚に山本が加入し、何事にも爽快で潔いロバーツ監督ら同志に囲まれ、心境の変化も少なからずあっただろう。喜怒哀楽が比較的分かりやすく、くみ取れるようになった。
待望のポストシーズンの戦いでは、さらにそれが顕著に。地区シリーズ第5戦で山本とパドレス・ダルビッシュの投げ合いを「個人的に楽しみ」と言った。勝てば突破、負ければ敗退の大一番にもかかわらず、ファン目線で胸を躍らせた。試合では雄たけびを上げ、感情を豊かに表現。不運なプレーに怒りをあらわにすることもあった。
ワールドシリーズ制覇後、シャンパンファイトで思う存分はしゃいだ一方、記者会見では冷静沈着な姿に戻っていた。100%全開で喜んでいるようで、そこまで余韻に浸っているようには見えなかった。二刀流復帰で投手としても貢献していくことで、ドジャースの黄金時代を築く。その青写真を描いている。
その上で、課題も残った。今季は鉄人のごとく出場を続けたが、最後の最後で左肩を負傷。ケガなくシーズンを乗り切ることを毎年掲げるだけに悔いが残ったに違いない。そういう感情が、言葉や表情によく、見え隠れしている。
毎年、想像を超えるパフォーマンスで周囲を驚かせる。世界一に貢献して1つの目標を達成したのは、むしろ連覇という新しい目標へのスタートラインだった。技術だけではない。大谷の新しい一面が、どんどん浮かび上がってくる。だから、大谷翔平は“見ていて楽しい”。この言葉に尽きる。【斎藤庸裕】