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【悼む】金網越しに接した「朝8時半の男」清川栄治さん その気遣いが西武担当1年間の原点に


清川栄治さん(2018年11月撮影)

西武は13日、投手育成アドバイザーの清川栄治さんが悪性腫瘍のために5日に亡くなったと発表した。62歳だった。

近鉄、広島で中継ぎ左腕として活躍し、438試合連続救援登板という当時の日本記録を作った。指導者でも3球団を歴任。14年からは西武で投手部門を中心にコーチを務め、23年の春先から闘病を続けていた。訃報を受けて14日、西武の選手たちは喪章を付けて日本ハム戦に臨んだ。

 ◇   ◇    

清川さんの訃報を旅先で知った。どこかに覚悟があったとはいえ衝撃だった。しばし心ここにあらず。でも浮かんだ優しい顔が、現実に引き戻してくれる。

生前、清川さんは言ってくれた。「仕事も大事だけどね、自分を大事にしてくれる人たちのことは本当に大事にしなさいよ」。だから悼む思いをしばし封印し、旅を満喫した。

23年シーズン、西武取材を担当した。1月早々の新人合同自主トレ。担当1年目で、面識あるスタッフや選手は1人か2人か。覚えるため、覚えられるため、初日から報道陣一番乗りでと意気込んで通った。午前9時の練習開始に備え、午前8時半前には所沢に着くような毎日だった。

3日目、1人のスタッフが近づいてきた。右翼ポール近くの金網をはさんで話しかけられた。「いつも一番早く来てるよね」。清川さんだった。少年時代にファミスタか何かで使わせていただいた往年のリリーフ左腕。名刺を渡す。

2軍球場への報道陣一番乗りを連日続けても、ファーム投手コーチの清川さんにはいつも負けた。悠々と外野フェンス沿いを散歩していた。「清川さんも連日の早起きですね」「昔、新聞配達を少しやっていたからね。慣れてるんだよ」。凍える寒さであっても、和やかな朝が続いた。

20年シーズンから野球取材に復帰した。復帰早々のコロナ禍。プロ野球の現場での1対1の取材は、極めて難しいものに変貌した。だからこそ、金網越しでも清川さんとの1対1の時間が幸せだった。清川さん、それにルーキーで毎朝一番乗りの是沢と会話をするのが日課になった。

“朝8時半の男たち”になって、いろいろなことを話した。これまで交流があった日刊スポーツ記者のこと。清川さんの現役時代のこと。私が高校時代に一度取材した、育成投手(当時)の豆田のこと。「面白いよ。まっすぐの感じが他と違うし、あのナックルカーブもいい。支配下も狙えるんじゃないかな」。

「どこに住んでるの?」と聞かれた。通勤に片道2時間近くかかることを伝えると「無理するなよ」という流れで、冒頭のような身の上の話になった。清川さんは毎朝優しかった。紳士的でかっこよかった。振り返れば、清川さんとの交流が間違いなく、いろいろあったけれど充実した西武担当1年間の原点だった。

20年後、こんな大人になっていたい-。いつしか理想像になった。しかし。

ペナントが開幕し1軍取材が慌ただしい日々も、なるべく2軍に顔を出す。4月中旬か下旬か。そういえば最近、清川さんの姿を見ない。ウエートトレーニングの担当をし、技術指導は若いコーチに任せているのかな-。なんて思っていた。

程なくして体調を崩していると聞いた。心配でメールを送る。返事が来ない。6月に人づてで清川さんの病状を知った。懸命な闘病を続けていると知った。職務としてその事実を記事にすべきだったのか。私には書けなかった。

秋、24年から清川さんの後任となる2軍投手コーチの就任が発表された。当然返信もまだない。このままもう会えないのだろうか。

12月3日だった。

「おはようございます。お気遣いのメール、ありがとうございました。しばらくお休みしていましたが、治療、養生の甲斐ありまして、おかげ様で体調が戻ってきました」

半年近くを経て、日常に復帰したのであろう清川さんからメールが来た。うれしかった。泣きそうになったし、たぶん少し潤んだ。

「来季はアドバイザーとして職につくことになりました。『感謝』の気持ちでまた1年、いい仕事ができますよう精進したいと思います。今後ともよろしくお願いいたします」

文末には絵文字まで付いていてホッとした。あれから5カ月。久々の長期休暇を終えたらたまには連絡しようかなと思っていた。新聞社で働く人間として、新聞配達の思い出もゆっくり聞きたかった。かっこいい人生の先輩に、ここからの20年をどう生きるべきか“コーチ”してほしかった。

旅から帰宅し、5月14日付の日刊スポーツ東京本社版をめくる。4面に清川さんの笑顔が大きく映る。ふうっと長く息をはき、我に返るまでに少し時間がかかった。合掌。時計を見る。2本の針が8時半の形に近づいていた。【金子真仁】

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