次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が成長企業経営者と対談を行い、その経営戦略に迫る。今回はVALUENEX株式会社の中村代表にお話を伺った。
早稲田大学大学院理工学研究科修了後、三菱総合研究所入社、途中、東京大学工学部助手に就任。2005年に工学博士取得。2006年に株式会社創知(現VALUENEX)設立、代表取締役社長CEO就任(現任)。2014年米国シリコンバレーに当社現地法人を設立。2018年、当社東証マザーズにIPO。早大大学院理工学術院非常勤講師を兼務。2018年度特許情報普及活動功労者受章。2019年Japan-US Innovation Award企業に選定。
VALUENEXは独自の自然言語処理アルゴリズムを駆使し、大量かつ多様なテキストデータの関連性を1枚の俯瞰図として可視化することで、技術や市場情報を直感的かつ客観的に理解することのできるソリューションを提供しています。
従来の方法では見えづらいデータの全体像を迅速に理解し、ビジネス戦略における事前調査からアクションプランの立案まで、企業の幅広い意思決定のシーンで活用できます。
これまでの事業変遷について
冨田: まずは、創業からの事業変遷について教えていただけますか?
VALUENEX株式会社 代表取締役社長・中村 達生氏(以下、社名・氏名略):当社は2006年に「これからは情報の検索ではなく、解析が重要になる」という考えのもと、事業を開始しました。当時は「ビックデータ」という言葉もなく、周囲からも理解を得られず、コンセプト自体もマーケットになかなか受け入れられませんでした。このコンセプトの理解が得られるマーケットはアメリカにしかないと思い、2007年にサンノゼにあるジェトロのインキュベーションオフィスに入りました。このタイミングで資金調達にも成功したため、このままアメリカで事業を展開していく予定でしたが、2008年のリーマンショックの影響を受け、一時日本に帰国する運びとなりました。
それから4年後の2012年にアメリカでの事業展開に再挑戦するのですが、ビッグデータ活用も一般的になっているほど、以前とはアメリカの状況がガラッと変わっており、当社事業としてはかなりビハインドした形になりました。このビハインドを取り返し、現地で事業を展開・拡大していくためにも、2014年に現地法人を設立し、そこから2年かけて現地のベンダーとアメリカ市場向けのUI/UXの開発に取り組みました。地道な活動の成果もあり、2017年あたりからは現地で様々なネットワークが広がりはじめ、2018年に東証マザーズ市場(現東証グロース市場)に上場を果たすことができました。
スタンフォード大学との取り組み
中村:その後、2019年にスタンフォード大学主催の US-Japan Innovation Awardsで、Innovation Showcaseという権威ある賞を獲得することが出来ました。受賞によって、スタンフォード大学のネットワークを活用した営業活動やスタンフォード大学での講義の実施、学生のインターン採用と様々な方面で大学との連携が実現できました。当社のオフィスも2020年の3月にスタンフォード大学近くのパロアルトに構えたことで学生をはじめとする様々な人がオフィスに訪れやすくなり、コミュニティが生まれ、今ではラリー・ペイジさんの兄のカール・ペイジさんやNASAの元チーフサイエンティストオフィサーなどを招いて毎月ミートアップを主催しています。
冨田: これはもうスタンフォード大学の学生をインターン採用するには絶好のロケーションですね。
中村: はい、スタンフォード大学には「スタンフォードコンサルティング」という、スタンフォード大学の中でも優秀な学生たちが、企業のためにコンサルティングを実施する学生団体があるのですが、有名企業のトップ層として活躍している彼らの先輩にアクセスすることで、非常に質の高い情報を収集することが可能です。当社も時折「スタンフォードコンサルティング」に自社サービスのマーケティング調査を依頼しており、彼らのネットワークを活用しています。
加えて、パロアルトにオフィスを構え、現地のネットワークを拡大してきたことで、欧州の企業がシリコンバレーを訪れる際には、現地の商工会議所の方々が必ず当社を紹介するという、シリコンバレー訪問時のルートも確立されてきています。これまでは、私達が自ら動き回って4、5年かけてなんとかネットワークを作ってきましたが、今後は日本企業や世界中の人たちがこのネットワークをうまく活用してくれたらと思っています。今は我々から動かなくてもこの場所がハブとなって集まってきていただけるので、結果的に当社のプロモーションにもなり一石二鳥が実現できています。
エクイティを活用しようと思ったきっかけ
冨田: 冒頭、資金調達のお話もありましたが、エクイティファイナンスを活用するに至ったきっかけはありましたでしょうか?
中村:創業当時は、2億円ほどの資金調達が必要で、エクイティファイナンスを活用しました。当時は調達できなければ、約3年後には事業が潰れてしまう状況でしたので、資金調達に奔走する日々でした。
幸いにも三菱商事社や早稲田大学から十分な資金調達を実施することができたため、その後は、調達した資金を活用し、いかに売上・利益の創出及び拡大に繋げていくのかにシフトすることが出来ました。
思い描いている未来構想
冨田: なるほど。今後の事業展開についてもお伺いしたいのですが、どのような方針をお持ちでしょうか?
中村: 2010年代は様々なものがインターネットにコネクトされていき、モノや情報の分析・解析が自動化されていく世界、2020年代は生成AIが登場したことで、気づきの自動化が生まれる世界になってきています。今後10~20年は、おそらく、バイオテクノロジーや脳科学がメインストリームになる世界になってくるのではないかと思っています。
そのような世界の中で、当社はデータを保有している企業とタッグを組むことで、データを高付加価値化していくビジネスや、そこから気づきを得てコンサルティングを実施するビジネスを展開しています。今後は、その先にある「ゼロイチを作る」というアイデア創出のビジネスを推進していきたいと考えています。
冨田: なるほど、多くの新規事業やスタートアップを創出し、その中のいくつかがGAFAのような巨大企業になっていく、そのような生態系を目指されているのでしょうか。
中村: そうですね。当社のコアは人間の脳内にある大脳新皮質の機能と同じように、大量の情報の関係性を表現することにあります。バイオテクロノジーや脳科学がメインストリームとなる今後10~20年の世界においては、当社のコアを最大限に発揮することで普遍的な価値を提供できると考えています。
- 氏名
- 中村 達生(なかむら たつお)
- 会社名
- VALUENEX株式会社
- 役職
- 代表取締役社長