新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業。政府からユニコーン100社創出が宣言されたこの状況下において、「現在の成長企業・ベンチャー企業の生き様」は、最大の関心事項と言える。ジャンルを問わず、一社のトップである「社長」は何を思い、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。その経営戦略について、これまでの変遷を踏まえ、様々な角度からメスを入れる。
小野里社長ご自身のこれまでについて
―― 創業から現在に至るまでの変遷について教えていただけますか?
株式会社バニッシュ・スタンダード 代表取締役・小野里 寧晃氏(以下、社名・氏名略):創業しようと思ったきっかけは、私が高校時代に父親の会社が潰れたことで、自分の人生を自分で切り開かなければならないと感じたからです。その際、ストリートで生き抜こうとバンド活動をしていましたが、音楽のセンスがなく、ストリートを支える側になろうと考えました。当時、インターネットが流行っていたので、ITを学びながらストリートを支えられると考えました。
―― その後、IT業界に入ることができたのですね。どのような経緯でIT業界に入りましたか?
小野里 はい、就職活動では300社ほど落ちましたが、最後の最後に拾っていただける会社がありIT業界にデビューできました。しかし、入社当初は水槽掃除など仕事に関係ないことをさせられ、散々なデビューでした。それでも、仕事で見返そうと思い、寝ない・帰らない・負けないという精神で頑張りました。
―― その結果、25歳で部長に任命されたんですよね。
小野里 そうです。部長になった後、ストリート文化を支援したいという当初の目的を思い出しました。当時働いていた会社がWeb制作や開発を行っていたため、アパレル業界の友人たちを支援するためにEC事業部を立ち上げました。そこから、アパレル業界のECサイトの立ち上げや改善をしていくことが最初の事業となりました。
―― その後、どのような経緯でバニッシュ・スタンダードを設立しましたか?
小野里 28歳のとき、会社の役員になる話が出てきましたが、調子に乗って辞めてしまいました。その後、スタッフや先輩たちと一緒に独立することを決め、バニッシュ・スタンダードを設立しました。設立当初はEC事業を展開していましたが、少し天狗になっていた面があり、借金が増えてしまいました。
―― 借金が増えたときに、やめようと思わなかったのでしょうか?
小野里 借金が徐々に増えていくのではなく、一気に増えたので、その時点でやめることは考えませんでした。しかし、振り返ればやめるべきだったかもしれません。
実際は、クライアントから発注されたECサイトの開発で、実装が間に合わなかったり、機能にバグがあったりといったさまざまな問題が起きていました。ECサイトはお店のようなものなので、ちゃんと動かないと大変なことになります。それが想像以上の規模で起こってしまい、1年半ものデスマーチ状態になってしまいました。
―― それは大変でしたね。創業時期にありがちなこととも言えますが、それでも一年半というのは長い期間だと思います。
小野里 本当に苦しかったです。借金が何億円もある状態はつらいですが、それ以上につらかったのは社員が次々と辞めていくことでした。私が起こした問題で会社がこのような状況になったことを、社員は許せないという気持ちでいっぱいだったでしょう。
社長としての権限や尊厳がなくなってしまったことはつらかったです。しかし、それも私が起こした問題であり、社員の気持ちも理解できました。社内で無視され始めたときは正直ムカつく気持ちもありましたが、今となっては反省の念でいっぱいです。
―― そういった状況の中で、クライアントとはどのように向き合っていましたか?
小野里 クライアントからの信頼を失ってしまっている状態で、どうやってこの状況を解決するかを考え続けました。1週間や1ヶ月なら我慢できたかもしれませんが、1年半も続いたので、非常に大変でした。
―― その後、どのようにして問題を解決しましたか?
小野里 クライアントへの責任を全うしようと、とにかくがむしゃらに仕事をし続けましたが、最後はクライアントからの肩たたきで終幕しました。自分自身にとっても最も辛い経験でしたが、クライアントにも迷惑をかけてしまったこともあり、もう二度とEC事業はしないと決めました。
事業立ち上げのきっかけ
―― 御社を立ち上げた経緯について、改めてお伺いさせていただけますでしょうか。
小野里 私は、いわゆるエリートではなく、ストリート出身です。社会的にはエリートだと思われる人たちが高い給料をもらっているのは素晴らしいことですが、一方でサービス業や小売業の人たちが評価されないのはおかしいと思っています。サービス業・小売業の他にも、例えば、介護士や保育士など、彼らがなぜ社会的に立派な仕事をしているのに低い給料で働かなければならないのか、その状況を変えたいと思っています。
―― それは素晴らしい考えですね。そういった現場の仕事に携わる人たちが報われる社会を目指すということですか?
小野里 はい、そうです。私たちがやりたいことは、好きな仕事をしている人たちが報われるように、彼らが夢中で仕事を続けられるような社会を作ることです。現場の仕事に携わる人たちの年収を1,000万円にすることが私たちの目標です。
思い描いている未来構想や今後の新規事業や既存事業の拡大プラン
―― 御社の次のステップはどのようなものをお考えでしょうか。たとえば、IPOなどが考えられますか?
小野里 はい、IPOも1つの選択肢ですし、他にも事業の拡大や認知度・信用度を上げることも重要だと考えています。
私たちは、「STAFF START」をどんな業界の人たちも使えるように、アパレル以外の業界にもどんどん普及させたいと考えています。世界中の販売員や現場の仕事を頑張っている人たちが報われるように、どんどん広めていかなければいけないと心から思っています。
―― しかし、「STAFF START」を広げていく上で難しいこともあると思います。具体的にはどのようなことでしょうか?
小野里 1つ挙げるとすれば、評価と報酬を還元する文化が全員に受け入れられない可能性があることです。そのため、まず評価をすることで投稿数が増え、売り上げが伸びることを理解してもらうことが大切です。しかし、中には「自分たちだけ儲かればいい」という考えの人もいますので、そういった人たちの心を動かすのが非常に難しい課題です。
常識や文化、人の思いを変えることは難しいですが、「好きを、諦めなくていい世の中を。」創るため、サービスの進化や啓蒙活動を続けています。
ZUU onlineユーザーへ一言
―― 最後に記事の読者に向けて何か一言いただけますでしょうか?
小野里 当社は「STAFF START」という3,000ブランド、26.9万人もの人たちが利用しているサービスを軸に、B2C領域であるファンコマースプラットフォーム「FANBASSADOR」の提供を開始しました。これは、日本全体で深刻化する人手不足を、「ファン」の力で解決するサービスです。
「STAFF START」と「FANBASSADOR」を小売業界、サービス業界、介護業界、第一産業でも何でもいいですが、現場の仕事で頑張ってるのに報われてない人たちに全て提供していきたいと思っています。これを世界中にまで持っていくのが、自分たちバニッシュ・スタンダードの存在意義です。
ビジネスがどんどん波及していく自信はあるものの、何よりやっていきたいのは、頑張っているのに報われていない人たちの気持ちを解放していくことです。なんで私が頑張ってるのに給料が20万円のままなんだろうって思ってる人は世の中にたくさんいると思うんです。
当社は心や気持ちといった不確かなものを追求する人間らしい社会に、もう一度戻せるようなITを創っていきたいと思っています。それをしないと、人間は爆発的に伸ばすことができないと思います。そして、日本にビジネスのヒーローがいないんだったら、俺たちがビジネスのヒーローになる。これが自分たちがやるべきことだと捉えています。
―― 素敵なコメントをありがとうございます。今後の御社にも注目させていただきます。
- 氏名
- 小野里 寧晃(おのざと やすあき)
- 社名
- 株式会社バニッシュ・スタンダード
- 役職
- 代表取締役