これまでの事業変遷について
——事業変遷についてお聞かせいただけますか?
上田 最初は専門学校や短期大学で保育士の養成から事業をスタートしました。その後、子育ての新制度が導入され、認可保育所を小規模で駅前に設立できるようになる規制緩和があったことを機に、事業を保育所の経営へシフトしました。現場で働く保育士を育てることは、わが国で課題となっている児童の短睡眠傾向や父親の育児参加率の低さ等にも直接介入出来る可能性がある仕事ですので、事業代表者として大きなやりがいを感じています。
——保育所の自己評価についても拝見しましたが、興味深いですね。
上田 保育所の評価を見える化することで、より良いサービスの提供につなげられると考えています。現在では心理的安全性を確保し「話・助・挑・新」の各側面で各拠点がより良い保育サービスを提供できるよう工夫出来る管理者(園長)のリーダー教育を行っています。事業経営は今やコンセプトの時代ですが保育所のインサイトとして「働く女性の自尊心の向上」があるような気がしています。今後はスクリプトベースのPDCAを元に父親の育児参加や家事の分担をいかに円滑に行うかなど、順を追ってクリエイティブな活動につなげていきたいと考えています。
——認可保育所は行政に従わなければならない立場ですが、その中での経営の難しさについて教えてください。
上田 行政の基準に従わなければならないため、顧客第一主義を貫くことに矛盾や障壁も多く、制度不備も散見されるため、他業種の方が思う程容易ではありません。しかし、最低限の品質を保ちながらも、より良いサービスを提供することが求められるのは当然であり、大学院時代に精神科医の元で子育て中の母親のメンタルヘルスを学んだことや、子育て政策の動向を注視して分析しながら運営理念や運営手法を熟慮し、様々なことに対応しています。
——経営の中で、主体性の育成が重要だと伺いましたが、それについて詳しく教えてください。
上田 主体性は、子どもにも社員にも重要な要素です。経営者の皆さんであれば社員の「言い訳」を無くすことの重要性をよく理解していると思います。言い訳を容認すればそこで成長は止まります。しかし逃げずに向き合うためには主体性がどうしても必要です。現在の超競争時代ではかつての教育で主体性を抑え周囲と調和することが最重視されていた時代とは真逆の状況にあり、社員全員が個性と主体性を活かし、チームでMECEに能力を発揮することで様々な課題を解決しなくてはなりません。そのため、保育事業でも関わる全ての人の主体性を共同体の中でより有益なものに磨き上げるリーダーの努力は不可欠だと感じています。
自社事業の強みについて
——これまでの実績を踏まえ、自社事業の強みについてお聞かせください。
上田 日本ではコンセプト経営が難しいとされていますが、私たちはそれを実践している点が強みです。例えば日本は世界的に女性の自尊心が低く、父親の育児参加率も低い。そのような中でロジカルシンキングが十分に浸透しておらず、解決に向けて現場レベルや政治レベルで何をすべきかがが議論されていない。それでも私たちは保育所の役割である母子保健に関するリテラシーの発信源として「理想の人生へ向かう過程で体得する生活習慣改善」という健康教育理論への共感を高め、保育士不足下の困難な環境でもコンセプト経営を成功させています。 「すべての子どもに満ち足りた時間を」というキャッチフレーズを掲げていますが、このコンセプトにどこまで近づけるかを今後も探求していきたいと考えています。
——具体的にはどのようなことを実践されているのでしょうか?
上田 例えば、スターバックスが単にコーヒーを売るだけでなく「サード・プレイス」を提供しているように、私たちも認可保育の本質を追求しています。保育とは何か、子どもたちにとって、そして親にとっての価値は何かを常に考えています。この問いへの答えが、前述の「子育て中の母親の自尊心の向上」であるという仮説の元、「父親の育児参加率の向上策」や「父親と家事を分担する円滑な方法」等のアンケート調査によるロールモデルの発見と保護者へのフィードバックを行っています。 私たちが探求しているのは「子育てを通じて得られる幸せのリテラシー」のようであり、保育事業に携わることで得られた数々の学びが、最終的には社員一人ひとりのの上品さやプライドにも繋がるのではないかと考えています。
ぶつかった壁やその乗り越え方
——これまでぶつかった壁やその乗り越え方について教えてください。
上田 保育業界に対するメディアでの取り上げ方が悪いという問題があります。誤解を招く報道がされると、社員たちにも悪影響が出ます。もともと保育や教育関係者は聖職者というイメージがありました。しかしどの業界でも人手不足は深刻で保育士不足も同様です。普段は全国の保育所で平穏で良い保育が行われていると思いますが、事故等が起きると制度不備等の構造的な課題が背後にあったとしてもで現場の保育士が悪いとなっていまう点で、メディアの報道のあり方や一部の世論の見識の浅さから、保育士が花形職業ではなくなってきてしまっていると感じます。これを払拭するための活動として「子どもが本当に保育所で楽しんで過ごせる」保育プログラムを導入し、子どもが喜ぶ姿をブログやYoutubeで発信しています。また、Youtubeでは次世代のための政治変革が不可欠と考え、主に地方行政の課題を様々な心理や経営に役立つ情報とともに興味が持てるよう政治に関して配信しています。お陰様で現在登録者数は5万人を超え、社内外から一定の評価を得ることに成功し、現社員はエンゲージメントを高く保って業務にあたっています。
——保育士不足の行政の対応についてはどうお考えですか?
上田 人口減少下で子育て世代の労働人口を確保するために待機児童を解消する動きが急速に加速した背景があり、この法的根拠となった保育行政の制度設計には応急的に定めたような内容が散見され、現場の運営にとって弊害となる数々の不備があります。これが認可保育所等の運営会社が上場しても株価が下がり続ける原因の一つであり、社会的投資効率が最も高いと考えられている乳幼児保育に対する国の向き合い方は実は非常に適当です。これは先進国では考えられない姿勢であり、わが国の急所のような問題です。つまり世界一早く少子化高齢社会が進展するということは少数精鋭の充実した保育や教育を行う必要があるにも関わらず、乳幼児教育に投資されていないことが大きく矛盾しています。様々な分野で同様の不備が起きているといった声が聞こえてきそうですが、政府は党利党略や政治屋たちの振る舞いに振り回されることなく、もう一度日本が世界一になれるような将来的な投資分野に積極的に予算を配分し、先進国と同様の予算配分や合理的な法制度の検討をいただきたいと切に願っています。
今後の経営・事業の展望
——今後の経営・事業の展望についてお聞かせいただけますか?
上田 経営の質を向上させることです。弊社がスケールするに値すると世間に思っていただけるように私自身が言い訳を無くし、困難な課題をどのように解決することが出来るのかを考え続け、経営にフィードバックすることで必ず質は上がります。売上等明確な数値で図れるものだけが成長ではありません。社員一人ひとりが弊社のコンセプトに誇りをもって社外に伝えられるようになることや、社員全員が個性を活かして自分らしく勤めていると感じられることも大きな成長であり、これらは評判となって必ず収支に反映されていくと思います。生活習慣改善は理想の自分に向かう過程で体得する手段です。微力ながら保育分野で子育て世代の福祉が向上するよう、健康リテラシーだけではなく「幸せのリテラシーを」発見し続け、これらを弊社に携わった方々にフィードバックすることで尽力していきたいと考えています。具体的には、睡眠習慣やメンタルヘルスの指標や自尊心の尺度等を用い、効果測定を行いながら、自分なりの信条を持って地域の子育て世帯にユーモアと幸せを提供し続けたいと考えています。
ZUU onlineユーザーへ一言
——最後にZUU onlineユーザーへのメッセージをお願いします。
上田 読者の皆さんは仕事熱心な方々かと思いますので、幸せになるために幸せを犠牲に差し出すといった資本主義の矛盾や構造不幸に直面するといったご経験があると思います。 しかし競争には必ず終わりがあります。他社が言い訳をしているポイントを見つけてそこに専心努力し続ければ必ず勝機が見出せます。また、経営者が言い訳をすればそこで成長は止まります。一方、困難に立ち向かえばこそ、次に何をすれば良いかもどんどん見えてくるはずです。 政治がこのような体たらくである以上民間企業のリーダーである私たちが主体性を持ち、社会をより良くするための取り組みを野心的に続けることが求められています。 石の上にも3年と言いますが、一つの事業を仕上げるのに10年かかると言われています。皆さんが自分らしさを活かし、「最大限にあなたらしくいること」が皆さんの本当の仕事です。その過程で健康的な生活習慣を体得し、言い訳を無くして前進する日々を楽しみましょう。いつかどこかでお会い出来たとき、あなたを支えた「ゴールデンルール」をお聞きすることを楽しみにしています。
- 氏名
- 上田 厚作
- 社名
- 株式会社ALTA
- 役職
- 代表取締役社長