インベスコ・アセットマネジメントのグローバル・マーケット・ストラテジストである木下智夫が「アメリカ大統領選後のアメリカ株式の見方」について解説します。
Q:アメリカの大統領がトランプさんに決まりましたが、テレビを見ていると関税をめちゃくちゃ上げて世界が混乱しそうだとか予定される人事ですでに問題がある人をポジションにつけようとしているというような報道も多く何か問題があるかのような気がするのですが、株式市場ではどのような見方をしているのでしょうか?
確かにマスコミの報道では トランプ氏の勝利に対してかなり戸惑ったような報道も多かったと思います。金融市場ではトランプ氏の勝利に対して比較的冷静な反応を示してきたように思います。全体として株式市場の反応は悪くなかったようです。
中身を見ますとトランプ氏の勝利がプラスに効くところ、マイナスに効くところ、それぞれが株価に反映される状況になったと思います。アメリカを代表するS&P500種指数を見ると大統領選挙前から直近までの間に5%上昇しているという状況です。
Q:株式市場ではトランプさんになることで「買い」という判断なのでしょうか?
概ね好反応であったと思います。特に上昇が目立ったのは金融セクターと資本財や消費財といった景気敏感セクターでした。
Q:株式市場は概ね好感しつつも業種によって分かれたということですね! どうして金融セクターや景気敏感セクターが上がったのでしょうか?
はい。そこがやはりトランプ氏の政策と関係があるところだと思います。トランプ氏の政策と言うと どういう政策を思い浮かべますか? トランプ氏は様々な政策提案をしてきたわけですが、金融市場に与えるインパクトを考えると4つの政策が重要だと思っています。「追加関税」「移民制限策」「規制緩和」「減税政策」です。
追加関税は海外からの輸入品に関税をかけることですから消費者にとっては物の値段が上がることになります。一方で移民制限策というのは主にメキシコを通じての移民を制限することになりますのでこれは働き手が少なくなります。労働市場がタイト化することで賃金が上がりやすくなるわけですね。これもインフレ的な政策であると言えます。
一方、規制緩和の方では現在 金融とかテクノロジー、あるいは原油・ガスの分野での規制緩和が言われてますが、原油・ガス分野では トランプ氏は政策提言の段階で「もっと掘って掘りまくれ」というような政策を標榜してきました。
エネルギーの価格を下げようとしているわけなんですけれどもこういった緩和が株価、特にエネルギーセクターにはプラスに効いています。金融分野でもM&Aの規制緩和あるいは暗号通貨の分野での規制の緩和などがマーケットではかなり期待されています。
テクノロジー分野でもイーロン・マスク氏が閣僚になる可能性があるなど大幅な規制緩和が期待できると考えられています。
減税政策は「2018年・前回のトランプ政権時にできた減税策を延長しよう」という内容なんですが、個人消費などにはプラスになるという判断で株式市場が反応したということになります。
これらの政策、特に減税政策についてはアメリカの財政赤字を拡大させる効果もありますのでこれは言ってみれば赤字拡大。アメリカの国債が今までよりも多く発行されることになります。需要と供給の関係が少し崩れてしまいますので長期金利には上昇要因になってしまうというマイナスの面も指摘できると思います。
Q:そうなるとインフレ要因や金利高要因になる政策と株高要因の政策が入り混じっているわけですね。具体的にどの政策から進んでいくのでしょうか?
効果を見る上では政策の実現度合いが今後重要な焦点になっていくと思われます。
トランプ氏が提案している政策のうち追加関税政策と移民制限策は大統領の権限だけで進めていける政策ですから比較的早い時期に実施されるのではないかと思います。
特に追加関税については早ければ4~6月期にも実施されると思います。
立法措置が必要になるような減税政策や規制緩和の政策については共和党が”トリプルレッド”になったことでトランプ氏にとってはスムーズな政策運営につながり実現の可能性が高くなるんじゃないかなと思います。
Q:トリプルレッドとは何ですか?
大統領選挙では共和党が勝ちました。共和党の色が赤色なのでトリプル”レッド”ということなのですが、今回は上下両院も共和党が多数派となりました。「大統領府」「上院」「下院」という3つの重要な政策を決めるところが全て共和党になったという意味でトリプルレッドと呼ばれる形になりました。
もし仮に民主党が全て勝っていたとしたら“トリプルブルー“になっていました。このトリプルレッドになったことでトランプ氏は今後政策を進めていく上でかなり議会の承認が得やすくなったと言うことができると思います。
Q:そうしたトランプさんの政策を受けながら米国株式市場がどうなっていくのか見通しを伺いたいと思います。まず経済状況について見通しを教えてください。
現在アメリカ経済に対しては過去の金融引き締め政策の悪影響が少しずつ出てきている状況だと考えています。労働市場が軟化に向かっていることも条件のひとつですが、2024年末から2025年の前半にかけてアメリカの景気に対して下押し圧力が強くなる状況です。
FRBが2024年9月以降に利下げを開始したわけですが、利下げを積み重ねていくことで景気に対しては盛り上げる力を発揮していきます。総合的に捉えると2025年の前半はほぼ潜在成長率通りで推移するのではないか、2025年の後半に入りますとやや景気が盛り上がるような展開になると考えています。
Q:経済状況はいったん潜在成長、普通の感じの成長スピードに戻りつつ、その後また成長の度合いを高めていきそうだということですね。この場合 株価はどのようになるのでしょうか?
2025年前半は景気の動きが潜在成長 実力どおりの水準でいきますから、あえて言うと「経済環境は強くもなければ弱くもない」という環境だと思います。企業業績を見る上でも「強くもなく弱くもない」ということですから2025年の前半はレンジ相場(一定の変動幅の中で価格が上がったり下がったりを繰り返す状態)になると考えています。
それが過ぎて2025年後半になると経済環境が改善してきますのでそれに合わせて株式の先行きに対する期待感も高まる形で2025年後半は 株価が緩やかに上昇するような局面に転換していくと考えています。
Q:ここからしばらくは上がったり下がったりしてレンジ相場となるものの2025年後半からは緩やかに上昇していくとみられるということですね。上昇していきそうだ ということで安心しました。ただ 今後注意すべき点は何になるのでしょうか? ニュースなどを見るうえで注目すべき点を教えてください。
インフレが高まってしまうリスクに注意が必要だと思います。今アメリカのインフレ率を「コアのインフレ率」で判断すると食料品やエネルギーを除いた全体的なインフレ率を見ますと前の月と比べて0.3%上昇する動きが続いています。0.3%と言うと1ヵ月あたりだと大したことないと思うのですが、1年続くと3.6%まで物価が上がる状態になってしまうということでFRBにとってはまだ容認できる水準ではありません。
これからFRBは「インフレが少し落ち着いていく」ことを確認しながら利上げ/利下げ判断をしていく必要があるのですが、1月からのトランプ政権での政策は追加関税、あるいは移民制限という形でインフレ的な政策が入っているので、これがどうインフレ率に影響をもたらしていくのかに注視していく必要があると思います。
Q:やはりインフレに注意すべきなのですね。次に為替についても教えてください! 日本人投資家としては外貨の資産を持つことで為替リスクにもさらされる一方上手くいくと為替でも利益がとれるということで見通しを伺っておきたいです。
為替も重要ですね! 為替についてご覧いただきたいのはFRBの政策金利の推移とそれを金融先物市場がどのように織り込んでいるかを示したこちらのチャートになります。ご覧いただきますとトランプ氏が大統領に当選したことでインフレを引き起こしやすい環境になり、そういう政策が導入される可能性が高いということで金利が思ったよりも下がらない見通しに変わってきています。
物事はリスクとともにオポチュニティ(機会)、どれだけのリターンが得られるかというところも大事で、この2つのバランスをとって投資していくことが必要になってくると思います。
先ほどの話にもありましたようにアメリカの経済は 2025年中は若干減速し株式市場もレンジ相場が想定されるわけですけれどもその後、少しずつ景況感が盛り上がってきて株価も緩やかに上昇していく展開を見込んでいます。
2024年の株式市場と比べると 2025年はマクロの大きな動きが株価をドライブする環境にはありませんので、その意味では2025年はこれまで以上に個別の銘柄に注目する成長性がある銘柄をしっかりと選んで成長性がある銘柄をしっかりと選んで投資していくことが重要になると思います。
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