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マルチホップ無線通信規格「Wi-SUN FAN」とスマートホーム機器の相互運用規格「Matter」を統合したIoT接続基盤を開発


ビル照明の遠隔制御実験により「Matter over Wi-SUN FAN」の基本機能を実証



2026年10月21日

京都大学 原田博司研究室



 



国立大学法人京都大学の原田博司 情報学研究科教授、額見怜央 同博士課程学生の研究グループは、国際無線通信規格「Wi-SUN FAN」と、スマートホーム機器の制御や機器間の相互運用性を実現するアプリケーション層の国際標準規格「Matter」を組み合わせた新たなIoT接続基盤「Matter over Wi-SUN FAN」を開発しました。本研究では、マルチホップ無線通信を実現するWi-SUN FANのボーダールーター機能またはルーター機能を備えたMatter対応機器と、機器の初期設定・認証を行うコミッショニング機能を備えたスマートフォンアプリケーションを開発しました。これらを用いて、京都大学構内の4階建ての建物において、ビル照明の遠隔制御を模擬した実証実験に成功しました。本システムは、Wi-SUN FANのマルチホップ無線通信による通信範囲の拡大と、周波数ホッピングによる同一周波数の利用に起因する干渉の低減を可能とします。さらに、開発したコミッショニングプロセスによって初期設定を完了したMatter対応機器を、異なるメーカーが提供する複数の市販Matter対応スマートホームコントローラーに、コントローラー側を改造することなく同時に追加登録することに成功し、既存のMatterプラットフォームとの相互接続性を確認しました。本成果により、既存のMatterプラットフォームを活用しながら、Wi-SUN FANによる広域かつ干渉に強い無線通信を利用できるようになり、今回の照明制御に加え、スマートホーム、ビル管理、エネルギーマネジメントなどへの幅広い応用が期待されます。 



 



 



 ポイント



・スマートホーム機器の相互運用性を実現する国際標準規格「Matter」の通信基盤に、マルチホップ無線通信規格「Wi-SUN FAN」を採用した新たなIoT接続基盤「Matter over Wi-SUN FAN」を開発。 



・Wi-SUN FANのマルチホップ無線通信による通信範囲の拡大と、周波数ホッピングによる無線通信の干渉低減を実現。 



・京都大学構内の4階建て建物で照明の遠隔制御を実証するとともに、複数の市販Matterコントローラーとの相互接続にも成功。 



 



1.背景 



 近年、スマートホーム機器の制御や機器間の相互運用性を実現するアプリケーション層の国際標準規格「Matter」の普及が進んでいます。Matterは、異なるメーカーの機器を共通の仕組みで接続・制御できることを特徴とし、照明や空調などのスマートホーム機器に加え、ビル管理や蓄電池、電気自動車(EV)の充電設備などを対象とするエネルギーマネジメントへも応用領域が拡大しています。Matterの通信基盤としては、Wi-FiやThreadなどの無線通信技術が利用されていますが、これらで利用される2.4 GHz帯では、他の無線システムとの干渉や、通信距離の制約、壁や建物による電波の減衰などが課題となります。特に、屋外や離れた建物に設置された機器との安定した通信を確保するためには、これらの課題への対応が必要となります。これらの課題を解決する通信手段として、2.4 GHz帯よりも低い920MHz帯等の周波数帯を利用する国際無線通信規格「Wi-SUN FAN」に着目しました。Wi-SUN FANは、20ホップを超える多段中継に対応したIPv6マルチホップ無線通信により、屋内外にまたがる広範囲の通信ネットワークを構築できることに加え、周波数ホッピングにより同一周波数の利用に起因する干渉の影響を低減できる特徴があります。さらに、Wi-SUN FAN 1.1では最大2.4 Mbpsの高速伝送にも対応しています。このため、Wi-SUN FANをMatterの通信基盤として利用することにより、Matter対応機器の通信範囲の拡大と通信の安定性の向上が可能になると考えられます。しかし、Wi-SUN FAN上でMatterを動作させるためには、Wi-SUN FANへの証明書を用いた認証によるネットワーク参加と、Matter対応機器の初期設定・認証を行うコミッショニング(利用者がスマートフォンアプリ等で機器を認証し、ネットワークに登録する初期設定手続き)を連携させるとともに、ネットワーク上の機器やサービスを発見する仕組み(サービス発見)や、異なるネットワーク間で機器への通信を可能とする仕組み(IPv6到達性)を実現する必要があります。さらに、Matterの特徴の一つである、一つの機器を異なるメーカーの複数のプラットフォームから共通して管理・制御できるマルチアドミン機能(一つの機器を異なるメーカーの複数のプラットフォーム/コントローラーに同時に登録し、それぞれから共通して管理・制御できるMatterの機能)を利用するためには、Wi-SUN FAN上のMatter対応機器を複数の既存Matterコントローラーに登録し、それぞれのプラットフォームから利用できることを確認する必要があります。 



 



2.研究成果



 研究グループは、国際無線通信規格「Wi-SUN FAN 1.1」に準拠した無線通信機能と、アプリケーション層の国際標準規格「Matter 1.5」をベースとした機能を統合し、Wi-SUN FANを通信基盤としてMatter対応機器を接続・制御する「Matter over Wi-SUN FAN」を開発しました。本システムでは、各端末がWi-SUN FANのIPv6マルチホップ無線通信機能を利用して、Matterの認証処理およびアプリケーション処理を実行します。また、Wi-SUN FANへのネットワーク参加に必要な認証情報の発行・導入、Matter対応機器のサービス発見、およびIPv6による通信経路の確保を統合することで、Wi-SUN FAN上でMatterを動作させる仕組みを実現しました。 また、Wi-SUN FANのメッシュネットワークの形成・管理と、既存LANとの接続を行うボーダールーター(Border Router、以下BR)機能を備えたMatter対応機器を開発しました。 



 本機器は、Wi-SUN FANネットワークと既存LANとの間の通信を中継するとともに、自身もMatter対応機器として通信・制御が可能です。さらに、Wi-SUN FAN上のMatter対応機器の情報を既存LAN側に代理して通知するプロキシ・アドバタイズメント機能を実装しました。これにより、Wi-Fiなどの無線通信を介して既存LANに接続されたスマートフォンやMatterコントローラーがWi-SUN FAN上のMatter対応機器を発見し、既存のMatterの認証方式やアプリケーション機能を変更することなく、これらの機器と通信・制御できる構成を実現しました。 



 さらに、Wi-SUN FANのマルチホップ無線通信において、端末間の通信を中継するルーター機能を搭載したMatter対応機器を開発しました。本機器は、Matterのアプリケーション機能とWi-SUN FANの無線通信機能を備えており、他の端末との無線通信を中継しながら、自身もMatter対応機器として動作します。 また、Matter対応機器の初期設定・認証を行うコミッショニング機能と、登録した機器を制御するコントローラー機能を備えたスマートフォンアプリケーションを開発しました。本アプリケーションにより、Wi-SUN FANへのネットワーク参加とMatterのコミッショニングを連携させ、Matter対応機器の初回設定から照明のオン・オフ制御までを実現しました。 



 次に、開発したMatter over Wi-SUN FANシステムの有効性を実証するため、京都大学構内の4階建ての建物において、ビル照明の遠隔制御を模擬した実証実験を行いました。ボーダールーター(BR)機能を備えたMatter対応機器を4階の居室内に設置し、ルーター機能を備えた5台のMatter対応機器(R1~R5)に照明器具を接続して、1~4階の廊下に配置しました。これらの機器により、IPv6マルチホップ無線ネットワークを構築しました。開発したスマートフォンアプリケーションを用いて、これらの機器をMatter対応機器として登録した後、BR機能を備えたMatter対応機器を設置した4階の居室から、ソフトウェアによって各階の照明器具のオン・オフを定期的に制御しました。その結果、複数の階にまたがる建物内において、Wi-SUN FANのマルチホップ無線通信を利用したMatter対応機器の遠隔制御が可能であることを確認しました。 



 さらに、単一のSoC(System on a Chip)にMatterのアプリケーション機能とWi-SUN FANの無線通信機能を実装した組込端末を開発しました。この端末を用いて、複数の市販Matter対応スマートホームコントローラーとの相互接続実験を行いました。本実験では、スマートホームコントローラーとして、Apple社のApple Home(HomePod mini)、Google社のGoogle Home(Google Nest Hub 第2世代)、Amazon社のAlexa(Echo Show 5 第3世代)を使用しました。開発したコミッショニング機能によって初期設定を完了したMatter対応機器を、これら3つのプラットフォームに、既存のMatterコントローラーを改造することなく同時に登録し、それぞれから制御できることを確認しました。 



 以上の結果から、開発したMatter over Wi-SUN FANシステムにより、Wi-SUN FANのマルチホップ無線通信を利用したMatter対応機器の広域接続と、既存のMatterプラットフォームとの相互運用性を実現できることを確認しました。 



 



3.今後の展開



 今回開発したIoT接続基盤「Matter over Wi-SUN FAN」により、Matter対応機器の通信範囲を拡大し、複数階にまたがる建物内でのビル照明の遠隔制御と、既存のMatterプラットフォームとの相互接続を実証しました。本成果により、従来のスマートホーム機器に加え、屋外や離れた建物に設置される計測器、蓄電池、太陽光発電設備、EV充電設備などをMatterで接続・制御することが可能となり、家庭用エネルギー管理システム(HEMS)やビル管理システムなどへの応用が期待されます。今後は、スマートホームやビル管理、エネルギーマネジメントなどの各分野における実証を進め、スマートシティを支えるIoT接続基盤としての実用化を目指します。 



 



詳しくは



https://www.dco.cce.i.kyoto-u.ac.jp/ja/PL/PL_2026_10.html



をご覧ください。



 



 



 



 



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