starthome-logo 無料ゲーム
starthome-logo

関節炎を抑える新たな化合物を発見


炎症に関わる酵素「ナルディライジン」の働きを止める初の低分子化合物



2026年10月9日

滋賀医科大学

岐阜薬科大学

岐阜大学



関節炎を抑える新たな化合物を発見 — 炎症に関わる酵素「ナルディライジン」の働きを止める初の低分子化合物 —



 



 



研究のポイント



・炎症やがんなどに関わる酵素「ナルディライジン(NRDC)」の働きを抑える化合物「R5-1」を、約3万3千種類の化合物の中から発見しました。NRDCを標的とする低分子化合物の報告は世界で初めてです。



・R5-1は、酵素がタンパク質を切る「刃」の部分ではなく、そこから離れた場所に結合して働きを鈍らせる、珍しいタイプの阻害剤であることが示唆されました。



・関節リウマチのモデルマウスにR5-1を投与すると、関節の腫れなどの症状が有意に軽減しました。関節リウマチなど炎症性疾患の新しい治療薬開発の出発点となることが期待されます。



 



 



概要



 国立大学法人滋賀医科大学 薬理学講座の西 清人 助教、西 英一郎 教授、整形外科学講座の天野 泰孝 助教(研究当時)、今井 晋二 教授らの研究グループは、岐阜薬科大学 生化学研究室の河野 真也 大学院生、五十里 彰 教授、国立大学法人東海国立大学機構岐阜大学大学院 連合創薬医療情報研究科の遠藤 智史 准教授、京都大学、神戸学院大学との共同研究により、酵素「ナルディライジン(NRDC)※1」の働きを抑える化合物「R5-1」を発見しました。



 NRDCは、タンパク質を切断する「はさみ」のような酵素(プロテアーゼ※2)で、細胞の核の中では遺伝子のスイッチ(転写※3)の調節にも関わっています。これまでの研究で、NRDCをもたないマウスでは関節炎やがんが起こりにくいことが分かっており、NRDCは新しい治療の標的として注目されてきました。しかし、NRDCの働きを薬で抑える手段(阻害剤※4)はこれまで存在せず、「薬で狙える標的なのか」を確かめることができませんでした。



 本研究グループは、NRDCの「はさみ」の働きを光の強さで測る方法を確立し、理化学研究所の協力のもと、約3万3千種類の化合物から、NRDCの働きを抑えるものを探索しました(ハイスループットスクリーニング※5)。段階的な絞り込みの結果、R5-1を最有力候補として選び出しました。R5-1は、細胞の中でNRDCによる遺伝子スイッチの調節を打ち消し、さらに関節リウマチのモデルマウス※6に投与すると、関節の腫れなどの症状を有意に軽減しました。



 本成果は、NRDCが薬の標的にできる分子であることを示すものです。今後、R5-1を出発点として改良を重ねることで、関節リウマチなど炎症性疾患の新しい治療薬の開発につながることが期待されます(図1)。



 本研究成果は、2026年9月9日付けで国際学術誌 Biochemical Pharmacology にオンライン掲載されました。



 



【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202610077501-O2-itf4cJ8q】



図1:本研究の概要



 



 



研究の背景



 関節リウマチは、免疫の異常(普段は細菌やウイルスなど外から侵入した異物のみを攻撃する免疫系が、自分自身の関節を攻撃してしまうことで生じる自己免疫疾患)によって関節に炎症が起こり、痛みや腫れ、さらには関節の変形をもたらす病気です。治療薬は大きく進歩してきましたが、十分な効果が得られない患者さんも少なくなく、これまでとは異なる仕組みで働く新しい治療薬が求められています。



 本研究グループは、長年にわたり「ナルディライジン(NRDC)」という酵素の研究を続けてきました。NRDCは、タンパク質を切断する「はさみ」の役割をもつ一方で、細胞の核の中では遺伝子のスイッチを調節する役割ももつ、ユニークな酵素です。これまでに、NRDCをもたないマウスでは関節炎が軽くなること、関節リウマチの患者さんでは関節液中のNRDCが増えていることなどを明らかにしてきました。



 しかし、遺伝子を無くしてしまう方法では、NRDCというタンパク質そのものが無くなるため、「はさみ」としての働きが重要なのか、それ以外の役割が重要なのかを区別できません。また、実際の治療に結びつけるには、薬(化合物)でNRDCの働きを抑えられるかを示す必要があります。ところが、NRDCの働きを抑える化合物はこれまで報告されていませんでした。



 



 



研究手法・成果



① 約3万3千種類の化合物から「R5-1」を発見



 研究グループはまず、NRDCに切られると光る特殊な物質を用いて、NRDCの「はさみ」の働きを光の強さで測定する方法を確立しました。この方法を用いて、理化学研究所などが保有する33,305種類の化合物を調べ、NRDCの働きを抑えるものを探しました。見かけ上だけ効いているように見える化合物や、細胞に毒性を示す化合物、NRDCと同じ仲間の別の酵素(インスリン分解酵素:IDE)にも効いてしまう化合物などを段階的に取り除き、最終的に「R5-1」を最有力候補として選び出しました(図2)。



 R5-1は、マウスとヒトのどちらのNRDCに対してもほぼ同じ強さで働き(50%の働きを抑える濃度は約0.7マイクロモル)、同じ系統(メタロプロテアーゼ)に属する別の種類の酵素(MMP-1)には作用しませんでした。また、R5-1と構造の似た化合物38種類と比較した結果、R5-1の効果が最も優れていることが分かりました。



 



【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202610077501-O4-nYV85OS4】



図2:約3万3千種類の化合物からR5-1を選び出すまでの流れ



NRDCの働きを抑える化合物を自動測定で探し、再現性、見かけ上の効果の除外、近縁酵素への作用や細胞毒性の有無などの基準で段階的に絞り込んだ。



 



 



② R5-1は「刃」とは離れた場所から働きを鈍らせる



 R5-1がどのようにNRDCの働きを抑えるのかを、酵素反応の速さを詳しく調べる方法(酵素反応速度解析)で解析しました。その結果、R5-1は、NRDCが切断する相手(基質)と場所を奪い合うのではなく、切断の効率そのものを下げる「非競合阻害※7」というタイプであることが分かりました。



 さらに、人工知能(AlphaFold)が推定したNRDCの立体構造を用いたコンピューター解析(ドッキングシミュレーション)により、R5-1は酵素の活性中心から離れた「くぼみ」に結合することが予測されました。また、R5-1は分子が小さいわりに効率よく標的に結合する(リガンド効率が高い)ことから、今後の改良によってさらに効果を高められる余地が大きいと考えられます。











③ R5-1を細胞に投与することで、NRDCによる遺伝子スイッチの調節を打ち消した



 NRDCは、エネルギー代謝などを司る遺伝子スイッチ「PGC-1α」の働きを抑えることが知られており、この働きには「はさみ」の機能が必要です。細胞にR5-1を加えると、NRDCによるPGC-1αの抑制が打ち消されました。一方、「はさみ」の機能を失わせたNRDCでは、R5-1による変化はみられませんでした。このことから、R5-1はNRDCの「はさみ」の働きを抑えることで、遺伝子スイッチの調節に影響を与えていることが示されました。











④ 関節リウマチのモデルマウスで関節炎を軽減



 最後に、関節リウマチのモデルマウス(SKGマウス)にR5-1を週3回投与しました。その結果、R5-1を投与したマウスでは、投与していないマウスに比べて関節炎の重症度(スコア)が有意に低く、手首や足首の腫れも軽減しました(図3)。また、投与期間中に体重減少などの明らかな異常はみられませんでした。



 



【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202610077501-O5-8um4gcmg】



図3:R5-1は関節リウマチのモデルマウスの関節炎を軽減した



(左)関節炎の重症度スコアの推移。R5-1を投与したマウス(オレンジ)では、投与していないマウス(青)に比べて、投与後半で有意に低く推移した(*p<0.05)。(右)前肢の写真。R5-1投与により腫れと赤みが軽減している。



 



 



今後の展望



 本研究により、これまで薬で抑制する手段がなかったNRDCについて、その働きを止める化合物を初めて見いだし、関節炎の治療標的となり得ることを示しました。NRDCは関節炎だけでなく、がんや代謝の異常などとの関わりも報告されており、R5-1はNRDCの多様な働きを解き明かすための研究用の「道具」としても役立つと期待されます。



 一方で、R5-1は創薬の「出発点」となる段階の化合物(ヒット化合物)であり、効き目の強さや、ほかの酵素に作用しないか(選択性)、体の中での薬の動き(体内動態)など、改良・検証すべき課題が残されています。また、R5-1がNRDCのどこに結合するかは、現時点ではコンピューターによる予測であり、今後、実験による確認が必要です。ヒトでの効果や安全性についても、今後の研究で慎重に検証していく必要があります。



 今後は、R5-1をもとに構造を改良した化合物の開発を進め、関節リウマチなどの炎症性疾患に対する、これまでにない仕組みの治療薬の開発をめざします。



 



 



研究支援



 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(科研費)(課題番号:JP23K07550、JP23K07966、JP25K02686)、文部科学省・日本医療研究開発機構(AMED)「次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラム(P-DIRECT)」、公益財団法人武田科学振興財団、公益財団法人鈴木万平糖尿病財団などの支援を受けて実施されました。



 また、図1に用いた質量分析装置のイラストはTogoTVより引用しました(© 2016 DBCLS TogoTV, CC-BY-4.0, https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja)



 



 



発表論文



雑誌名:Biochemical Pharmacology



タイトル:Identification of a small-molecule inhibitor of nardilysin and its pharmacological effects on transcriptional regulation and inflammatory arthritis



著者:Yasutaka Amano, Kiyoto Nishi, Hazuki Sano, Shinya Kawano, Satoshi Endo, Mikiko Ohno, Akio Shimizu, Shinya Ikeda, Yusuke Morita, Jiro Sakamoto, Yoshinori Hiraoka, Akira Ikari, Taku Kawasaki, Shinji Imai, Eiichiro Nishi



DOI:https://doi.org/10.1016/j.bcp.2026.118456



 



 



用語解説



※1 ナルディライジン(NRDC)



アミノ酸配列を認識し、タンパク質(ペプチド)を特定の場所で切断するタンパク分解酵素(プロテアーゼ)の一つ。細胞の外ではほかのタンパク質の切り出しを助け、細胞の核の中では遺伝子の働き(転写)の調節に関わる。炎症、虚血性心疾患、がん、エネルギー代謝などとの関わりが報告されている。



※2 プロテアーゼ



タンパク質を切断する酵素の総称。体の中でタンパク質の働きを調節したり、不要なタンパク質を分解したりする。



※3 転写



DNAに書かれた遺伝情報をもとにRNA(リボ核酸)が作られる過程。どの遺伝子をどれだけ使うかは、転写の段階で細かく調節されている(遺伝子のスイッチ)。



※4 阻害剤(低分子化合物)



特定の酵素などに結合してその働きを抑える物質。分子量が小さい化合物は「低分子化合物」と呼ばれ、飲み薬など多くの医薬品がこれにあたる。



※5 ハイスループットスクリーニング



ロボットなどを用いて、数万〜数百万種類の化合物の効果を短期間に自動で調べ、目的の作用をもつ化合物を探し出す手法。新薬開発の最初の段階で広く用いられる。



※6 関節リウマチのモデルマウス(SKGマウス)



免疫に関わる遺伝子に変異をもち、ヒトの関節リウマチによく似た関節炎を起こすマウス。関節リウマチの仕組みの解明や治療薬の評価に用いられる。



※7 非競合阻害



阻害剤が、酵素が切断する相手(基質)と結合場所を奪い合うのではなく、酵素の別の場所(アロステリック部位)に結合して、酵素の働きの効率を下げるタイプの阻害様式。



 



 



研究者情報(当時)



国立大学法人滋賀医科大学 薬理学講座



 西 清人、佐野 芳珠季、大野 美紀子、池田 真也、西 英一郎



国立大学法人滋賀医科大学 整形外科学講座



 天野 泰孝、今井 晋二



国立大学法人滋賀医科大学 医師臨床教育センター



 川崎 拓



国立大学法人滋賀医科大学 生化学・分子生物学講座(分子病態生化学部門)



 清水 昭男



岐阜薬科大学 生化学研究室



 河野 真也、五十里 彰



国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学大学院 連合創薬医療情報研究科/COMIT



 遠藤 智史



国立大学法人京都大学大学院 医学研究科 循環器内科学



 森田 雄介、坂本 二郎



学校法人神戸学院大学 薬学部 臨床薬学部門



 平岡 義範



 



 



 



    Loading...
    アクセスランキング
    game_banner
    Starthome

    StartHomeカテゴリー

    Copyright 2026
    ©KINGSOFT JAPAN INC. ALL RIGHTS RESERVED.