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プライバシー保護連合学習技術「DeepProtect」「eFL-Boost」を活用した不正送金検知の実証実験を実施


2025年7月22日
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)
国立大学法人神戸大学
株式会社エルテス
株式会社テラアクソン

ポイント

■ 銀行3行と連携し、プライバシー保護連合学習技術「DeepProtect」と「eFL-Boost」を活用した不正送金検知の実証実験を実施

■ 継続学習のシナリオを採用し、両連合学習技術で不正口座検知の再現率向上を確認

■ 本研究で得た成果を基に他業種への展開を目指す

 

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー)、理事長: 徳田 英幸)、国立大学法人神戸大学(学長: 藤澤 正人)及び株式会社エルテス(代表取締役: 菅原 貴弘)は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業の支援を受け、プライバシー保護連合学習技術「DeepProtect」及び「eFL-Boost」を活用した安全な組織間データ連携技術の社会実装の研究を実施しました。本研究では千葉銀行、中国銀行及び三井住友信託銀行と連携し、銀行の実データを利用した不正送金検知の実証実験を行いました。

 この実験では日々進化する犯罪手法に対応するため、新しいデータを追加で学習できる継続学習のシナリオを採用し、DeepProtectとeFL-Boostの双方で、3銀行の個別学習で得られたAIモデルと、3銀行の連合学習で得られたAIモデルの検知結果を比較しました。その結果、3銀行の個別学習で得られたAIモデルよりも、連合学習で得られたAIモデルの方が、不正口座を見逃さず検知できた割合(再現率)で平均18ポイント程度の改善が得られました。併せて性能改善への取組として疑似取引データを生成し、そのデータを学習した場合の検知精度を検証した結果、1銀行で適合率が改善しました。

 さらに、実証実験の後続フェーズとして株式会社テラアクソン(代表取締役 経営責任者: 安田 鉄平)と共に協力銀行1行での行内実証実験を開始しています。今後は本研究で得た成果を基に他業種への展開も視野に入れ、引き続き研究を進めていきます。

 

背景

 NICT、神戸大学及びエルテスは、かねてより複数の組織が有する膨大なデータを連携し、プライバシーを保護しつつAIを活用して金融取引における異常・不正検知を行うセキュアなビッグデータ解析技術の研究開発に取り組んできました。2016年には振り込め詐欺等の金融分野における不正取引の検知を実現するシステムの構築を目標に、JSTから支援を受けてCRESTスモールフェーズとして要素技術の開発を始め、2019年よりCREST加速フェーズとして実証実験を含めた社会実装に向けた取組を研究開発と共に進めてきました。

 2022年にはプロジェクト継続に値するとして再度JSTより支援を受け、研究課題「組織間連合学習による不正送金検知システムの社会実装」に取り組み、DeepProtect(NICTが開発した深層学習ベースの技術)とeFL-Boost(神戸大学が開発した勾配ブースティング決定木ベースの技術)の二つのプライバシー保護連合学習技術を共同で研究開発すると共に、千葉銀行、中国銀行及び三井住友信託銀行の協力を得て今回の実証実験を行いました。

 

今回の成果

 本研究では不正取引に使われている銀行口座をAIで検出する実証実験を行いました。3銀行で互いにデータを直接提供することなしに、共同でAI(学習済みモデル)を構築し、データ解析を可能にする連合学習技術として、NICTはDeepProtect、神戸大学はeFL-Boostを用いました(図1参照)。双方の技術を比較することで、相対的な性能を明らかにすると共に、課題の特性や用途に合わせてそれぞれを使い分けられるよう、実験を通じて得たデータを収集しました。また、日々巧妙化する犯罪手法の変化に対応するため、新しいデータを追加で学習できる継続学習が可能になるようにそれぞれの連合学習モデルを改良しました。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202507152174-O1-6Sl1Z54p

図1. DeepProtectとeFL-Boostの比較と金融分野の適用例

 

 その結果、3銀行の個別学習で得られたAIモデルよりも、連合学習で得られたAIモデルの方が、DeepProtectとeFL-Boostの双方に対して、再現率で平均18ポイント程度の改善が得られました(図2参照)。また、いずれの銀行においても、約89%以上の再現率で検知可能であることが示されました。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202507152174-O2-f560C1Hu

図2. 個別学習と連合学習の再現率の比較

 

 さらに、学習モデルの性能改善への取組として、不正取引は通常取引に比べて割合が極めて少なく、一般的に学習に使えるデータが少ない問題に着目し、実データに加えて凍結口座の疑似取引データを人工的に生成し、これを学習したAIモデルに対して、不正検知実験で性能評価を行いました。その結果、1銀行で適合率が改善しました。

 また、実証実験終了後に、本研究で開発した継続学習型のDeepProtectとeFL-BoostをAIエンジンとして組み込んだAI不正検知システムを、神戸大学発ベンチャーであるテラアクソンが協力銀行1行に提供し、不正モニタリング業務(加害口座と被害口座の検知など)を継続的に実施する、銀行の実環境下での実証実験を開始しています。今後の運用を通じて性能検証や問題点の洗い出し、システム改善を行っていきます。

 

今後の展望

 本研究で得た成果を基に、連合学習技術を金融の分野だけではなく、データのプライバシー保護を必要とする様々な業種(医療、健康、流通など)への展開を目指していきます。具体的には、これまでのプロジェクトで開発されたDeepProtect やeFL-Boostに対し、本研究で開発した継続学習化機能や性能改善機能を活用し、社会課題の解決を目指して企業等との連携を進めていきます。さらに、当実証実験を通して得られたユーザーのニーズへの対応及びDeepProtectやeFL-Boostの機能拡張技術などへの応用を図るため、引き続き基礎研究を進めていきます。

 

各機関の役割分担

・NICT: DeepProtectの研究開発、実証実験計算基盤運用・保守、実証実験の運営・実施

・神戸大学: eFL-Boostの研究開発、実証実験の企画・実施、データ解析

・エルテス: 実証実験の運営

・テラアクソン: 実証実験の企画・実施支援、データ解析支援、行内実証実験用システムの導入・実施

 

関連する過去のNICTのプレスリリース

・2025年7月1日 放射線画像診断支援AIの実用化に向け高機能暗号を用いた異分野融合型の共同研究を開始

 https://www.nict.go.jp/press/2025/07/01-1.html

・2025年6月10日 プライバシー保護連合学習技術「DeepProtect」を活用した銀行の不正口座検知の実証実験を実施し、検知精度向上を確認

 https://www.nict.go.jp/press/2025/06/10-1.html

・2022年3月10日 プライバシー保護連合学習技術を活用した不正送金検知の実証実験を実施

 https://www.nict.go.jp/press/2022/03/10-1.html

・2020年5月19日 プライバシー保護深層学習技術を活用した不正送金検知の実証実験において金融機関5行との連携を開始

 https://www.nict.go.jp/press/2020/05/19-1.html

・2019年2月1日 プライバシー保護深層学習技術で 不正送金の検知精度向上に向けた実証実験を開始

 https://www.nict.go.jp/press/2019/02/01-2.html

 

なお、本研究は、JST、AIP加速課題(AIP Accelerated Program)、JPMJCR22U5 の支援を受けたものです。

 

 

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