木質内装建材・木の香りが精神・心理療法に与える効果を検証
2024年7月5日
住友林業
住友林業株式会社(社長:光吉 敏郎/以下、住友林業)、BrainEnergy株式会社(代表取締役:喜田 光洋/以下、BrainEnergy)、東京慈恵会医科大学(学長 松藤 千弥/以下、慈恵医大)は、うつ病に対する木の効果解明研究を進め「木の心理療法室」の効果を検証しました。本研究では木材を用いた治療環境が、うつ病患者の精神・心理療法に補助的な効果があるかどうかを調査しています。
香りについて「木の心理療法室」では「抑うつ・不安」が強い患者ほど香りがよいと回答する割合いが高いことが確認されました。うつ病の治療では、いかに適切な治療を導入し継続するかが重要な要素となります。今回の検証で木質化した環境、特に木の香りは好印象につながり、うつ病の治療を導入・継続していく上での後押しとして有効であることが示唆されました。一方、香り以外については「木の心理療法室」と「通常の心理療法室」で「室内の好ましさ」の差は認められませんでした。
3者は2020年11月から「木質内装建材や木の香りにより構築された治療環境が精神・心理療法の効果に与える影響」に関する共同研究を進め(ご参考:https://sfc.jp/information/news/2021/2021-07-19.html)、2024年6月開催の第120回日本精神神経学会学術総会※1でこの度の研究成果を発表しました。
■臨床試験概要
・対象は東京慈恵会医科大学附属病院精神神経科に通院中のうつ病性障害患者20名。
・同科内の同じ広さの2つの心理療法室のうち、1つの部屋の床、壁、机をスギ材で木質化。
・木質化した診療室と通常の白いクロス壁の診療室でランダムに振り分けた患者10名ずつに対し公認心理士が16週間かけて認知行動療法(CBT)※2を実施。
・ハミルトンうつ病評価尺度※3や近赤外スペクトロスコピー(NIRS)※4等による観察・検査を行い、治療環境の違いが精神・心理療法の効果にどのような影響を与えるかを検証。
・「室内の好ましさ」を測定するために①快適さ②香り③温度④空間⑤明るさの観点でそれぞれ7段階のスケールで測定。
<臨床試験フロー>
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202407053208-O2-v9rmP7KC】
■ 結果
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202407053208-O7-0lo5P4oZ】
・ハミルトンうつ病評価尺度の17の評価項目の内5つの評価項目(抑うつ気分、罪悪感、入眠困難、食思不振、心気症)に関しては、心理療法室の違いに関わらず認知行動療法の効果が認められた。
・NIRSでは心理療法室の違いによる統計的な有意差は認めなかったが、室内の好ましさの測定では、香りの好ましさの7段階評価において「通常の診療室」の0点に対して「木の心理療法室」は0.889点と有意に高く、好印象につながった。(上図)
・香りの好ましさは「抑うつ・不安」が強いほど高い傾向を示し※5、「香りがよい」と回答する割合が高かった。
・「室内の好ましさ」の測定①快適さ②香り③温度④空間⑤明るさの内、②香り以外では差は認められなかった。
近年、精神疾患は世界的に増加傾向で、中でも「うつ病」は大きな社会問題の一つです。抗うつ薬などの薬物療法は適切に使用することで大きな効果が得られますが、いわゆる「軽症うつ病」では必ずしも薬物療法の実証度は高くありません。また、うつ病の回復期では認知行動療法などの心理療法が有効であり、薬物以外の代替あるいは補助療法の重要性が認識されています。植物や木材と言った自然の要素には、抑うつ・不安の軽減効果が期待されており、「バイオフィリックデザイン※6」はストレス改善をサポートする手法として注目されています。
今回の共同研究の成果を活かし、さらなる探求に取組むとともに、より多くの人々に対しより良いサービスの提供、より快適な空間づくりを目指します。
※1日本精神神経学会は会員数2万名以上が入会する国内最大級の精神神経医療系の学会。第120回学術総会は2024年6月20~22日札幌コンベンションセンター/札幌市産業振興センターにて開催。年次総会には毎年7000人を上回る会員が参加し精神医学の幅広い領域での進歩を一望できるプログラムが組まれている。
※2認知行動療法(CBT):もののとらえ方、考え方に働きかけストレスに上手に対応できるこころの状態をつくり適応力を高めていく療法。
※3ハミルトンうつ病評価尺度:1960年にHamiltonによって発表されたうつ病の重症度を評価するための尺度。うつ病の症状に特徴的な項目について、医師などの専門家が項目ごとに評価をしていく心理検査。「抑うつ気分」、「罪悪感」、「入眠困難」など17項目を評価する。
※4近赤外スペクトロスコピー:近赤外線を用いて、脳内ヘモグロビンの酸素化状態の変化を測定し、脳の血液量変化を基に脳機能を間接的に計測する手法。
※5気分プロフィール検査(POMS)の「抑うつ」の項目と正の相関を示した(p=0.47)
※6バイオフィリックデザイン:「(人間は)生まれつき自然とつながりたいという欲求を持っている」という概念、バイオフィリアを空間デザインに取り入れた手法のこと。
<背景、共同研究体制>
(1) 住友林業
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202407053208-O5-wF3TY15x】
木の総合的な活用を目指し広く研究開発を進める拠点として筑波研究所を1991年に設立。筑波研究所では、「木」や「緑」のもつ機能や特性、それらが人の心やからだに与える影響を科学的に検証し快適な空間づくりに活かしてきました。本共同研究では、研究計画の作成、木質内装建材・木の香り等の環境構築の監修等を主に担当。
(2) BrainEnergy
BrainEnergyはこれまで国内・海外の医療機関や研究施設と膨大な中枢神経データを解析してきた実績があり、脳活動と身体の働きをサポートする技術開発やバイオフィリックデザインとデジタル医療技術による空間構築に取り組んでいます。本共同研究では、研究計画の作成、治療環境の監修構築、データ測定・分析評価を主に担当。
(3) 東京慈恵会医科大学
1881年に設立された私立医科大学。建学の精神である“病気を診ずして病人を診よ”の理念の下、患者中心の医療を実践しています。診療・教育・研究を柱とし、よき医療人の育成に取り組んでいます。附属病院(東京都港区西新橋)を中心に附属柏病院(千葉県柏市)など4附属病院を有し、地域の医療機関との連携力を活かした地域医療から高度医療、そして基礎研究から臨床研究に至るまで、医療・教育・研究を牽引する大学、附属病院をめざしています。本共同研究では同大学精神医学講座による研究計画の作成、医学的側面からの評価を主に担当。
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