セミナー 「ウクライナにおけるインフラ破壊と環境に配慮した復興の現状:現場からの報告と提言」を開催
2024年1月31日
公益財団法人日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202401305921-O2-hjC89oOO】
セミナーで使用されたスライドより (C) Carl Bruch , photo from NBC
公益財団法人日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団(所在地︓東京都港区、理事長:中島治男、略称:日本GIF)は、2023年12月22日(金)10時から、Zoomを利用したオンライン形式にて、米国・環境法研究所(Environmental Law Institute 略称:ELI)の国際部長であるカール・ブルック博士を講師にお迎えし、「ウクライナにおけるインフラ破壊と環境に配慮した復興の現状:現場からの報告と提言」と題してセミナーを開催しました。
開催趣旨
当財団の長年の協力者であるELIの国際部長であるカール・ブルック博士が、2023年10月、ウクライナの首都キーウを訪問しました。ロシアの攻撃により、ウクライナの、特に南部と東部のインフラは広範囲に甚大な被害を受けました。戦況は足踏み状態ながら、終戦を待たずにすぐにでも復興を進める必要があります。その過程で、東日本大震災などで培った日本の災害復興の技術や経験を提供することは、日本の国際貢献となります。
インフラ再建は迅速に行うべきであるとともに、環境への影響も考慮する必要があります。ブルック博士は環境法の分野で国際的に著名であり、ウクライナ当局から、復興計画を策定する際に環境への配慮がどのようになされるべきかについて、専門家としての助言を求められました。
ウクライナの復興に日本が貢献するためには、まず復興の基本方針やルールについて知る必要があります。本セミナーでブルック博士は、ウクライナ政府やパートナーとの議論に基づき、ウクライナのインフラ破壊と政府の復興計画に関する最新情報を提供しました。また、ブルック博士と司会者とのディスカッションや、参加者との質疑応答を通じて、復興と環境保護の調和を具体的に実現するための方法について、ブルック博士の見解を伺いました。
講演要旨
1. ロシア侵攻のインフラへの影響
1-1. ダム
・ウクライナにおける電力の10%は水力発電
・今回の紛争ではダムが標的のひとつとされ、水力発電による電力は約半分に減少
1-2. 原子力発電所
・ウクライナには原子力発電所が5つ(うち4つが稼働)
・ロシア軍はザポリージャ(稼働)とチェルノブイリ(未稼働)の発電所を侵攻
1-3. 産業用の電力供給施設
・2023年11月6日までに、92回の爆撃
・ウクライナの電力インフラ全体の40%以上が被害を受け、約30%が破壊
1-4. 水道
・侵攻開始から3カ月でおよそ60回の水道施設を狙った攻撃
・600万人が水道の利用を制限され、キーウ市民の80%が少なくとも2回の断水を経験
1-5. 道路
・侵攻開始から2カ月以内に約8,000キロメートルの道路が損傷または破壊
・修復には8,750億ユーロ、少なくともおよそ2年が必要
1-6. 橋
・約300基の主要な橋が破壊
1-7. その他
・インフラの被害総額は、2023年3月の時点で1,438億米ドル
・教育施設、文化・スポーツ・観光・宗教施設は22億米ドルと推定
2. 被害状況の把握手法
・キーウ経済学校がドローンと衛星画像により詳細な攻撃状況を把握
・AIモデルとGISにより、写真や動画、Google Mapのデータから、建物をデジタル化、建物の種類、高さ、損傷のレベルを戦前戦後で比較
3. 持続可能な再建のために
・経済協力開発機構(OECD:Organisation for Economic Cooperation and Development)は、火力発電所を太陽光発電や風力発電に置き換えるなど、二酸化炭素の排出量を抑える開発計画(グリーンリカバリー)を提案
4. 侵攻の説明責任の問題、国際法の現状と課題
・ウクライナは、ロシアがジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪、侵略罪等を侵していると国際刑事裁判所に訴えている
・ジュネーブ条約では国家に義務を課している。また、国際刑法では、国家が個人を保護することが規定されている。このため、ロシアの攻撃に対して責任を問う法律が適用されると考えられる
5. まとめ
・グローバルなインフラは重要な役割を担っている。大規模インフラの重要性を世界が把握すれば、平和に繋がる。不法な侵略やインフラへの攻撃が、事実上の不処罰となれば、侵略の継続を助長してしまう。
・環境、ダム、原子力の問題は、関連する他のインフラにも繋がっていく。ウクライナの復興を、グリーンエネルギーを重要視した再建にするためには、不確定な事項や解決すべき点があるため、話し合いを重ねることが重要である。
◇
講演後の質疑応答では、グリーンリカバリーや金融の問題、環境被害の評価方法について等、多くの質問が飛び交いました。「復興におけるAIの活用」に関する質問に対して、「AIは被害の査定やその他の復興や修復に活用されている」と回答がありました。
セミナー終了後のアンケートによると、「戦争の被害(環境)」、次いで「戦争の被害(インフラ)」や「グリーンリカバリー」のパートへの関心が高かったことがわかりました。参加者からは、「ウクライナのインフラ破壊、環境破壊についての報道を目にしていたが、その被害救済の法的な根拠に触れたものはなかったため、興味深かった」等の回答が寄せられ、ブルック博士の現地状況を目の当たりにしたリアリティある報告への、高い関心が見て取れました。
セミナー概要
主 催:公益財団法人日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団(日本GIF)
日 時: 2023年12月22日(金)10:00~11:30
名 称: 緊急オンラインセミナー「ウクライナにおけるインフラ破壊と環境に
配慮した復興の現状:現場からの報告と提言」
開催形式: Zoomを利用したオンライン形式(ウェビナー)日英同時通訳あり
講演者: 米国・環境法研究所(ELI)国際部長 カール・ブルック博士
司会者: 中山 幹康(日本GIF専務理事)
参加費: 無料
動 画: https://gif.or.jp/seminar_youtube/ukraine_eli-2/
講師略歴
カール・ブルック(Carl Bruch)博士
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202401305921-O5-ejALN65o】
米 国・環境法研究所(Environmental Law Institute 略称:ELI)国際部長。環境法を機能させることに重点を置いて研究している。アフリカ、ラテンアメリカ、中東、アジアの国々で、水資源、生物多様性、森林、その他の自然資源を効果的に管理するための法律、政策、制度的枠組みの策定と実施を支援。紛争後の平和構築を支援するための天然資源管理手段、環境ガバナンスと制度、武力紛争時の環境被害の防止、軽減、補償方法に関する権威である。
ELIでの勤務に加え、国連環境計画(UNEP)と世界環境法連合(E-LAW)の弁護士でもある。アメリカン大学国際サービス学部の非常勤教授として、環境平和構築に関する修士レベルのコースを教えている。
専門分野:
武力紛争と環境:武力紛争と環境-国際紛争、国内紛争、紛争後
気候変動:適応のための政策-法律と制度
国際:グッドガバナンス-透明性、市民参加、説明責任、国際環境法と制度-遵守、開発、実施、執行
法律:遵守と執行
水:海洋と水質および権利
学歴:
J.D., Northwestern School of Law of Lewis &Clark College, 1996
M.A. in physics, University of Texas at Austin, 1992
B.S. in physics (additional majors in anthropology and mathematics), Michigan State University, 1989
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202401305921-O4-4nJCaHyP】
セミナーで講演中のCarl Bruch博士
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