重信川水系 自然再生プロジェクト
自然再生プロジェクトの効果検証に環境DNA分析活用の有効性を示す
従来、生物の新しい生息場所を造成する自然再生プロジェクトの評価は、周辺での過去の生物捕獲記録を参照するのが一般的。今回、環境DNA分析によって、現実的に求めうる生物種構成の目標設定の有効性が明らかに。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202304285331-O1-P030PIv6】
本件のポイント
◆ 自然再生プロジェクトの効果を評価するためのより現実的な生物種構成(ターゲットイメージ)の目標設定に関して、環境DNAメタバーコーディング法① の効果的な利用方法を提案
◆ 愛媛県・重信川水系の調査地域② において、コップ一杯の水から生態系情報を明らかにする環境DNA分析は、捕獲調査よりも包括的かつ現実的な短期的対象種の推定を可能にし、さらに種内系統の検出による高解像度のモニタリングが可能であることが判明
◆ 大学が進める産学連携の一環として、中央復建コンサルタンツ株式会社③ と共同で研究を実施
◆ 本研究成果は、生態学と保全生物学分野の国際科学ジャーナル『Global Ecology and Conservation』誌に掲載
本件の概要
龍谷大学 生物多様性科学研究センター④ の伊藤 玄客員研究員をはじめとする研究グループは、重信川水系の自然再生プロジェクトの効果を評価するためのより現実的な魚類群集組成の目標を設定することを目指して、環境DNAメタバーコーディング法の効果的な利用方法を提案する論文を、国際科学ジャーナル「Global Ecology and Conservation」に発表しました。
現在、河川などの環境修復の一環として魚類の新しい生息場所を造成する事業が各地で実施されていますが、その新しい生息場所にどんな魚類が戻ってきたら事業は成功したといえるのか、という目標設定は、周辺での過去の生物捕獲記録(歴史的情報)を参考に決めることが普通です。
本研究では、愛媛県・重信川水系の中流域に位置する自然再生エリア(開発霞)②)を対象に、2020年に採水による環境DNA調査と捕獲調査を実施。環境修復の効果を追跡するために、環境DNA分析の適用が目標種選定にさらなる効果をもたらすかどうかを検証しました。分析の結果、環境DNAメタバーコーディング法は、捕獲調査よりも包括的かつ現実的に求めうる短期的目標種(生物種構成)の推定を可能にし、さらに捕獲調査では見逃されたドジョウMisgurnus anguillicaudatusの種内系統の存在を確認できたことから、高解像度のモニタリングが可能であることが示されました。自然再生プロジェクトにおける環境DNA技術の有効な活用を提案するという点で、重要な論文です。
1.発表論文(英文)
標 題:Using eDNA metabarcoding to establish targets for freshwater fish composition following river restoration
和 訳:環境DNAメタバーコーディング法を用いた河川改修後の淡水魚組成の目標設定について
著者名:伊藤 玄(責任著者) a b, 山内 寛c, 重吉 美和c, 芦野 洸介c, 與那城 千恵c, 朝見 麻希 b, 後藤 祐子 b, Jeffrey J. Duda d, 山中 裕樹 a b
所 属:a 龍谷大学先端理工学部・b 龍谷大学生物多様性科学研究センター・ c 中央復建コンサルタンツ株式会社・d 米国地質調査所・西部漁業研究センター
掲載誌:Global Ecology and Conservation /Volume 43, June 2023(Elsevier B.V.社)
U R L : https://doi.org/10.1016/j.gecco.2023.e02448
2023年3月31日(金)Web掲載(現在は2023年4月6日記録版)
2.用語解説
① 環境DNAメタバーコーディング法
環境DNA分析とは、生物を直接サンプリングせずに、水や土などの環境媒体に含まれているDNAの情報(生き物が糞や粘液として放出したもの)を基に、そこに生息する種の分布や多様性、量を推定する分析手法です。生物を捕獲することなく「水から」検出できる簡便さから、生物多様性の観測や水産資源の管理に革命をもたらすとされます。また、環境DNA分析には、種ごとの検出と全種の網羅的な検出(メタバーコーディング)の2つの方法があります。メタバーコーディング法は、環境中から決定したDNAの塩基配列をバーコードのように使って種を網羅的に判別・検出する技術で、「生物種間で共通しつつ、少しずつ異なる配列」をターゲットにしてDNA配列解読を行います。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202304285331-O3-b2gfidqs】
② 調査地域:自然再生エリア(開発霞)
今回の調査地域は、愛媛県中央部に位置する幹川流路延長36㎞におよぶ一級河川・重信川水系に位置する「開発霞(かいほつかすみ)」です。開発霞は、かつては良好な湿地環境でしたが、近年の都市化や堤防整備により生物の生息環境が劣化していました。そこで、2014~2019年に同エリアで国土交通省による自然再生事業が実施され、共同研究者が所属する中央復建コンサルタンツ株式会社によって、魚類のモニタリングが行われていました。また、重信川水系では、1994年からの河川水辺の国土交通省による捕獲調査によって収集された膨大な魚類の分布データが存在し、環境DNA分析の結果との比較検討が容易であることから、今回の研究が実現しました。
※図内の丸印は、2020年に実施した環境DNA調査の重信川水系における採水地を示す。また5地点(K1~K5)では、魚の捕獲調査も同時に実施した。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202304285331-O2-BgC2i1QI】
③ 中央復建コンサルタンツ株式会社
創業70年を超える総合建設コンサルタントのパイオニアです。国内外の鉄道・道路・橋梁などの社会インフラの計画や設計、三次元化技術、社会インフラマネジメント、まちづくりコーディネートなどの総合的な分野で、社会のニーズを先取りし、安全で豊かな未来を切り開いていきます。環境分野では、環境アセスメントや環境保全のための対応策の提案、より良い環境の創造などに取り組んでいます。
本社所在地:大阪市東淀川区東中島4-11-10
④ 龍谷大学 生物多様性科学研究センター
当センターは、これまで生物種の検出のみならず、種内の遺伝的多様性も「水から」の分析を可能にしてきました。近年では「生物の状態」まで知ることを狙い、環境RNA(環境中に含まれる生物の核酸で、DNA上の遺伝情報を有す)分析も開始したことで、総合的な生態系情報の分析へと発展しつつあります。これによりDNAだけではわからない、繁殖活動や病原菌への感染といった情報まで得られるようになると期待されます。本学の研究グループは世界的にも最古参に近く、世界をリードする研究を推し進めています。
センター所在地:滋賀県大津市瀬田大江町横谷1番5(龍谷大学瀬田キャンパス内)
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