「生誕100年 瀬戸内寂聴物語」2023年4月29日刊行 徳島新聞の評伝連載を単行本化
一般社団法人 徳島新聞社
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「生誕100年 瀬戸内寂聴物語」は、徳島市出身の作家で僧侶の瀬戸内寂聴さん(1922~2021年)の99年の生涯と文学作品の魅力を紹介する評伝です。100歳まであと半年余りで亡くなった寂聴さんの波乱に満ちた人生をたどる内容になっています。徳島新聞に2022年1月から12月まで、担当記者の柏木康浩により計41回にわたって掲載された記事を一冊にまとめました。
若き日に、幼い娘と夫を捨てて出奔した寂聴さん。その背景には、どんな思いがあったのでしょうか。恋や不倫を重ねながらも人気作家として文壇での地位を確立した51歳の時、なぜ突然出家という道を選んだのでしょうか。その理由を詳しく追います。
出家後は、僧侶として京都の寂庵に拠点を構え、法話や社会活動を通じて、人々の心に寄り添い続けました。湾岸戦争時には、断食をして反戦や平和を訴えました。東日本大震災が起こった時には、いち早く被災地に駆け付け、被災者を励ましました。
亡くなる直前まで、現役の作家を続けたのは、小説を書くという煩悩だけは捨て去ることができなかったからだと、本人も述懐しています。
代表作「夏の終り」「場所」や仏教三部作から、源氏物語の現代語訳まで、作家としての業績も分かりやすく紹介しました。
古里への恩返しとして、「寂聴塾」という形で文化の種をまいたり、人形浄瑠璃やオペラの台本を執筆したりするなど、晩節にもエネルギッシュな生き方は変わりませんでした。
まえがきは、作家の太田治子さん、あとがきは、徳島市出身の漫画家で寂聴さんの代表作「美は乱調にあり」の漫画作品を出版した柴門ふみさんが寄稿しています。
貴重な写真も満載しています。寂聴さんの折々の言葉や詳しい年表も付け、本書はまさに瀬戸内寂聴を知る入門書として、資料的な価値も高い一冊となりました。
B6判、224ページ、定価1430円(税込み)
申し込み・問い合わせは下記まで
〒770―8572 徳島市中徳島町2丁目5の2
徳島新聞社お客さまセンター
☎088(655)7340 ファクス088(623)9288
本書「生誕100年 瀬戸内寂聴物語」の特色
★どこから読んでも面白い。よく分かる
新聞連載をまとめているため、1回読み切りで、目次や見出しと照らし合わせながら、興味のあるページから読み進めることができます。新聞記者が分かりやすい言葉を使い、各回1200文字程度でまとめており、読みやすいのも特徴です。
★テーマごとに読める
寂聴さんの100年近くにおよぶ生涯を時系列で追うのではなく、テーマごとに生き方を追っているため、興味が持ちやすい構成となっています。
★本書のテーマ別内容
恋、出家、東日本大震災、戦争、源氏物語、徳島ラジオ商事件、瀬戸内家の人々、阿波踊り、人形浄瑠璃、晩節の挑戦(オペラ、俳句)、仏教三部作、小説家、顕彰
★本書で取り上げた瀬戸内文学
「夏の終り」「場所」「美は乱調にあり」「諧調は偽りなり」「かの子撩乱」「遠い声」「花芯」「いずこより」「比叡」「草筏」「蘭を焼く」「花に問え」「手毬」「白道」「風景」「死に支度」「いのち」「あこがれ」「源氏物語現代語訳」「寂聴巡礼」「烈しい生と美しい死を」「モラエス恋遍路」「愛怨」「寂聴自伝 花ひらく足あと」「ひとり」「その日まで」など。
★僧侶、社会活動家としての魅力もたっぷり
寂聴さんは楽しい法話で国民的な人気がある僧侶でした。東日本大震災編では、人々の心に寄り添い続けた愛の言葉も詰まっています。「余生を復興支援に懸けてもいい」という決意と被災者への共感は、読者の心を熱くすることでしょう。また、戦争編では、大陸からの引き揚げや空襲による実母の死の体験から、平和や反戦活動に全力を注ぐようになった経緯が分かります。「青鞜」の女性たちをテーマにした伝記小説をたくさん書いた経験が、女性差別との闘いや男性社会に敢然と立ち向かった活力につながったことも理解できます。
★3つの古里を愛しました
寂聴さんは徳島に生まれました。京都・寂庵をついのすみかとし、出家した中尊寺や住職を務めた天台寺がある岩手県を大切にしました。徳島、京都、岩手の3つが寂聴さんの古里なのです。本書では、京都や岩手の逸話も数多く登場します。
★平野啓一郎さんのインタビュー。柴門ふみさん、太田治子さんも寄稿
晩年の寂聴さんと最も親しかった芥川賞作家の平野啓一郎さんにインタビューした詳報が、本書後半のハイライトとして、掲載されています。また、「美は乱調にあり」を漫画化して出版した徳島市出身の柴門ふみさんが「あとがき」を寄せてくれました。「まえがき」は、太宰治の娘で、寂聴さんにデビューを後押ししてもらった作家太田治子さんが寄稿し、ぜいたくな構成となっています。
★番記者が執筆したため、取材時の逸話も多彩
晩年、寂聴さんに密着した番記者が書いた文章のため、取材時のエピソードや、素顔の寂聴さんの表情も感じることができます。ロングインタビュー「瀬戸内寂聴が語る『わが徳島』」や、記者による随想も掲載され、寂聴さんの肉声や表情が文章の中で生き生きとよみがえります。
生前、インタビュー取材でその真相を尋ねたことがある。「信じられないかもしれませんが、私たちはその頃、プラトニックな関係でした。精神的な愛で結ばれていた」
-「この道」には、「青鞜」で活躍した女性たちがたくさん登場した。寂聴さんがその時代に生きていたら?
必ず「青鞜」に入っていた。もっと極端に言えば、私があの時代に生きていたら、伊藤野枝になっていたし、管野須賀子になっていた。殺されていたわね、きっと。
★貴重な写真も満載
幼少時や女学校時代、見合い写真や北京での一コマ、出家前の写真など、貴重な写真も満載しています。法話での笑顔、ビールを片手にくつろいで取材に応じる姿、阿波踊りを踊る姿、反戦を訴え寂庵で断食する姿、遅すぎた無罪判決への無念の涙など、写真もぜいたくに盛り込みました。
★折々のことば
寂聴さんといえば、軽妙な話術で人気を集めました。名言や失言も合わせ、出家時から最晩年まで、印象的な言葉を読みやすくまとめています。
「どん底の状態は続かない。必ず希望は見えてくる。私の余生は被災地の復興支援にかけてもいい」(2011年5月、東日本大震災の後、徳島市での講演会で)
「こうなったら100歳まで生きて芥川賞をもらう」(2011年11月、泉鏡花文学賞を受賞して)
★詳しい年表。資料的な意義
寂聴さんの誕生から死去まで、また生誕100年となった2022年までの歩みをたどる年表が、巻末に16ページにわたって展開されています。読みやすく、資料的な意義も高い一冊となっています。
★引用も多く瀬戸内文学の魅力が分かる
実は寂聴さんの文学作品の魅力は、現代ではあまり知られていないことが多いのです。本書ではデビュー当時から絶筆まで引用を多く用いており、文学的表現の魅力に触れることができます。瀬戸内文学をあらためて読むきっかけとなることでしょう。書影写真も多用しており、小説や随筆への関心も増します。
〈私の恋や情事の数は世間が勝手に想像し噂しているほどに多くはない〉
「東京へは行けないんです。許してください。他の人を愛してしまいました」
〈今でも、私が彼の無垢の人生の出発点で彼の運命を狂わせてしまったと信じこんでいる。凉太への理不尽な情熱のため私は安穏な家庭を自ら破壊した〉
〈新しい情事の相手は、これまでのどの男よりも強引でしたたかであった。妻子を溺愛しながら、常に複数の情事を重ねていた〉
「私は小説家になるために、家も子供も捨ててきたから…うしろめたさが今も抜けない」
〈七十年、小説一筋に生き通したわがいのちを、今更ながら、つくづくいとしいと思う。あの世から生れ変っても、私はまた小説家でありたい。それも女の〉
〈人がこの世に生まれるのは、愛するためです。愛すれば、苦しみが生まれます。でも、愛さずにはいられない。永遠から見れば、ほんの瞬きするような短い今生でも、愛する人にめぐり逢えた喜びに、まさるものはありません〉
〈幼い昔、春は巡礼の鈴の音が運んで来るものだと思いこんでいた〉
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