日本の酪農経営 実態調査2023 日本の酪農家の85%が赤字経営 その内4割以上が月額「100万円以上」の赤字に
2023年3月17日
一般社団法人中央酪農会議
日本の現役酪農家に聞く、「日本の酪農経営 実態調査(2023)」
日本の酪農家の85%が赤字経営
その内、4割以上が月額「100万円以上」の赤字に
酪農家の6割が離農を検討するも
「生活維持」「借入金返済」「日本の食の基盤維持」等のため経営を継続
一般社団法人中央酪農会議(所在地:東京都千代田区)は、日本の酪農家157人を対象に酪農経営に関する実態調査を行いました。
その結果、飼料価格や燃料費・光熱費の上昇、子牛販売価格の下落等で経営は悪化、酪農家の84.7%が赤字経営で、その内、4割以上は1カ月の赤字が「100万円以上」に及んでいます。改善の目途も見えず離農を考えてはいるものの、「生活維持」「借入金返済」「日本の食の基盤維持」のために経営を続けているという実態が浮かび上がりました。
この状況を変えるため、最も求める対策としては、 「飼料価格の抑制」と「生乳価格の上昇」が挙げられています。
日本農業研究所の矢坂雅充研究員は、「日本の酪農のためには長期的なビジョンと消費者のみなさんの理解が不可欠」とコメントしています。
日本の酪農は存続の危機
●日本の酪農家が経営する牧場の84.7%は過去1カ月の経営状況が「赤字」。
●赤字経営の酪農家の4割以上は1カ月の赤字額が「100万円以上」(43.6%)。1カ月で2,000万円の赤字の牧場も。
●酪農家の86.0%が借入金を抱え、その内、6軒に1軒は「1億円以上」(17.0%)。
上がる飼料価格の打撃で家計へも影響。6割近くの酪農家は離農も検討
●酪農経営への打撃要因は「飼料価格の上昇」(97.5%)、「子牛販売価格の下落」(91.7%)。
●経営悪化により、「牧場投資の減少」(68.8%)、「借入金増加」(58.6%)、「牛の飼育頭数減少」(21.0%)など影響あり。経営だけでなく、「家族の生活費削減」(55.4%)と家計にも影響している酪農家が半数以上。
●精神的に辛いのは「経営環境が改善する目途が見えない」(81.5%)、「借入金が増えること」 (60.5%)。
●酪農家の要望は、「飼料価格抑制」(91.7%)、「生乳販売価格上昇」(89.2%)、「子牛販売価格上昇」(77.7%)。
●酪農家の約6割(58.0%)が「離農」を検討するも継続している理由は、「生活維持」(85.4%)や「借入金返済」(64.3%)だけでなく、酪農家の半数が「日本の食の基盤維持」(50.3%)のために酪農を続けている。
「日本の酪農経営 実態調査」調査概要 ■実施時期:2023年3月2日(木)~3月13日(月) ■調査手法:アンケート調査 ■調査対象:国内の酪農家157人 ■調査主体:一般社団法人中央酪農会議調べ ★構成比(%)は小数第2位以下を四捨五入しているため、合計が100%にならない場合があります。
日本農業研究所・矢坂雅充研究員 「日本の酪農のためには長期的なビジョンと消費者のみなさんの理解を」
日本の酪農家157人に聞く、酪農家の経営実態
日本の酪農業が存続の危機に! 酪農家の85%が「赤字経営」。その内、4割以上が月「100万円以上」の赤字に。
現在、酪農業を営んでいる全国の酪農家157人を対象に、経営状況に関するアンケート調査を行いました。
まず、経営する牧場の過去1カ月の経営状況を聞くと、全体の84.7%が「赤字」と答えました[図1]。赤字と答えた133人に1カ月の赤字の金額を聞くと、「100万円以上」と答えた人が43.6%にも上り、赤字金額が最も大きい酪農家では1カ月の赤字額が2,000万円となっています[図2]。
また、借入金の有無を聞くと86.0%の酪農家が「借入金がある」と答え、その累積金額を聞くと、7割近くが「1,000万円以上」(66.7%)と答え、借入金のある酪農家の6軒に1軒は「1億円以上」(17.0%)の借入金を抱えています[図3]。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202303174019-O2-CCVbB7lD】
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202303174019-O4-GZ05AKvd】
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202303174019-O9-UuQ36fOK】
飼料価格は上昇、借入金では賄いきれず家計にも影響
酪農経営を続ける中で打撃となっていることを聞くと、「飼料価格の上昇」(97.5%)が最も多く、次いで「子牛販売価格の下落」(91.7%)、「燃料費・光熱費の上昇」(85.4%)が挙げられました[図4]。
また、経営悪化によって受けた影響は「将来に向けた牧場の投資の減少」(68.8%)や 「借入金の増加」(58.6%)にとどまらず、2割が「牛の飼育頭数の減少」(21.0%)と答えており、酪農家の経営基盤が大きく揺らいでいます。さらには、「家族の生活費削減」(55.4%)や「子どもの教育費削減」(15.3%)など家計の切り詰めに踏み込まざるを得ない酪農家も多数います[図5]。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202303174019-O3-9v5FWi17】
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202303174019-O6-5mfi1wKI】
経営悪化による精神的苦痛は「改善の目途が見えないこと」
酪農家が望む取り組みは「飼料価格の抑制」と「生乳販売価格の上昇」
悪化する経営状況による精神的苦痛としては、「経営環境が改善する目途が見えない」(81.5%)という理由がトップで、「借入金が増えること」(60.5%)や「生まれた子牛が売れない」(45.2%)が挙げられました[図6]。
また、今後、酪農経営継続にあたり、酪農家が望む取り組みとしては、「飼料価格の抑制」(91.7%)、「生乳販売価格の上昇」(89.2%)、「子牛販売価格の上昇」(77.7%)が挙げられました[図7]。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202303174019-O8-e5v3HXWp】
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202303174019-O7-OiRMa870】
6割が離農を検討するも、「日本の食の基盤を維持する」という強い責任感から酪農経営を継続
農業の仕事に従事する人が、農業をやめたり他の職種に就いたりすることを「離農」と言います。酪農経営を続ける中で離農を考えた経験を聞くと、24.8%が「よくある」、33.1%が「たまにある」と答え、6割近くの酪農家(58.0%)が離農を考えています[図8]。
では、なぜ酪農経営を続けているのか、その理由を聞くと、「自分自身・家族の生活を維持するため」(85.4%)、「借金を 返済するため」(64.3%)という理由に加え、酪農家の半数が 「日本の食の基盤を維持するため」「飼育している牛に愛着がある から」(同率50.3%)と答えています[図9]。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202303174019-O10-w08cdOhI】
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202303174019-O11-3X98L54n】
社会に訴える酪農家の声
酪農経営が悪化する中で、社会に伝えたいことを酪農家に聞きました。
「このままでは、破産してしまう」、「休みもなく、利益もないのなら続ける意味もあるのかと考えさせられる」、「もっと、酪農を理解してほしい、知ってほしい」と悲痛な声が上がっています。
<酪農家の声の一例 ※抜粋>
●このままでは、破産してしまう。
●数年後どうなるかが本当にわからない状況。休みもなく、利益もないのなら続ける意味もあるのかと考えさせられる。20~40代の若い経営者は特にそう感じていると思う。
●もっと、酪農を理解してほしい。知ってほしい。
●牛乳・乳製品の消費に協力してもらいたい。
●牛乳は、牛を飼い、多大な手間をかけて得られるものです。工業製品の様にはいかない事を御理解いただきたい。
日本の酪農家の経営実態
2022(令和4)年以降、酪農家の減少が加速
下記は指定生乳生産者団体の受託農家戸数の変化です。厳しい経営環境の中で、2022(令和4)年以降に、酪農家の件数の減少が加速していることがわかります。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202303174019-O5-kVN674r1】
安全で安心なおいしい牛乳の安定供給のために
長期的なビジョンを持った政策と消費者のみなさんの理解が重要です
このまま事態を放置し、日本の酪農が衰退し、いつでも当たり前のようには新鮮な牛乳を飲むことができないということになってもいいのでしょうか。食料に関する安全保障という側面から考えると、世界の牛乳・乳製品はほとんどが自国で消費されており、 輸出に回る量は多くありません。つまり日本が今後長く、安定的に輸入していけるという確証はありません。
日本の酪農を今後も維持していくためには、一定の酪農生産規模を確保するという長期ビジョンを持った農業政策がますます重要になってきます。また、酪農乳業界だけでなく、流通業者や消費者自身なども、日本の酪農を維持していこうという意識を 持つことが必要です。
公益財団法人 日本農業研究所
経済学博士 矢坂 雅充(やさかまさみつ) 研究員
主な研究課題は、日本の酪農・乳業政策と食品の安全・信頼性確保政策。WTO体制下での日本の酪農・乳業政策を、多様な観点から分析している。また、農業を核とした循環型社会システム、農業の 多面的機能、農産物の価格変動リスク対応策などの研究を進めている。
前職は東京大学大学院経済学研究科准教授。
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