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メカノクロミック分子を用いた高分解能・可逆な機械的圧力測定フィルムの開発


~メカノクロミズムの薄膜での定量的な研究~

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2022年7月19日
記者会、記者クラブ 各位
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202207193986-O3-0CdE3MsS
メカノクロミック分子を用いた 高分解能・可逆な機械的圧力測定フィルムの開発 ~メカノクロミズムの薄膜での定量的な研究~

【本研究のポイント】
・メカノクロミック分子を薄膜化し、押圧に対する色の変化を定量的に議論した。
・薄膜を押圧することにより黄色から緑色へ直線的に変化し、50nmの高い空間分解能を示した。
・本研究は、機械産業等で用いることができる、安価で繰り返し使用可能な空間分解能の高い「クロミック圧力測定フィルム」を実現する。

  【研究概要】  
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科/未来社会創造機構マテリアルイノベーション研究所の松尾 豊 教授は、地方独立行政法人東京都立産業技術研究センターの小汲 佳祐 副主任研究員(名古屋大学工学研究科 社会人博士後期課程3年)らと共同で、押圧により見た目の色の変化を与えるクロミック分子を用いて、空間分解能が高く、かつ可逆性のある機械的圧力測定フィルムを新たに開発しました。
 メカノクロミズム注1)は機械的応力により色が変化する現象で、センサーや記録デバイスへ応用されることが期待されています。本研究ではメカノクロミック材料を薄膜の状態で吸収色の変化を定量的に議論することに成功しました。
 「フルオレニリデン-アクリダン」というクロミック分子を、真空蒸着や樹脂への混練等により薄膜化し、機械的圧力測定フィルムに応用する研究を行いました。薄膜を機械的押圧による黄色から緑色への変化を数値化し、ナノサイズの型で押すことで、50 nmの高い空間分解能を示すことを明らかにしました。押圧により緑色に変化した部分にエタノールを噴霧すると元の黄色に戻り、可逆性があることも示しました。
 本研究は、機械産業等で用いることができる、安価で繰り返し使用可能な空間分解能の高い「クロミック圧力測定フィルム」を実現するとともに、ナノ・マイクロ機械工学に発展に寄与します。
 本研究成果は、2022年7月6日付イギリス王立化学会の材料化学誌「Journal of Materials Chemistry C」に掲載されました。

【研究背景と内容】
メカノクロミズム現象は、その刺激応答性から、圧力センサー、記録デバイス、ディスプレイデバイスなどへの応用が期待されています。これまで、メカノクロミック分子の色の変化についてはほとんど定性的に議論されてきました。これは定量的に刺激を加える方法や色の変化を検出する方法が確立されていないことが原因でした。
我々は、以前の研究でフルオレン注2)とアクリダン注3)という骨格を二重結合で架橋した構造をもつ「フルオレニリデン-アクリダン」化合物が、分子構造の変化に起因したメカノクロミズムを示すことを報告しました(図1)。「フルオレニリデン-アクリダン」は、機械的刺激により分子構造が折れ曲がり、型からねじれ型に変化することにより、見た目の色が黄色から緑色へと変化します。本研究ではこの「フルオレニリデン-アクリダン」を用い、これまで不明であった圧力応答性や応答の空間分解能について定量的測定を行いました。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202207193986-O4-pUscW003

図1.「フルオレニリデン-アクリダン」のメカノクロミズムの原理

 
定量的かつ均一に機械的刺激を加えるため、フルオレニリデン-アクリダンの薄膜サンプルを真空蒸着にて作製しました。蒸着膜はねじれ型構造の青色膜として得られ、この青色膜をメタノールの蒸気にさらすと一晩程度で折れ曲がり型構造の黄色膜へと変化することを発見しました(図2a)。黄色薄膜に対し、平坦なシリコンモールドをナノインプリント注4)で押しつけることで、定量的に垂直応力を加えました。黄色薄膜は加えた応力の強さに応じて、黄色から緑色への変化を示しました(図2b)。

 
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図2.(a)蒸着膜のメタノール暴露による時間経過(i)暴露前(ii)1.5時間(iii)3時間(iv)12時間(b)ナノインプリントによる垂直応力(i)0 MPa (ii)100MPa(iii)150MPa(iv)200MPa
(v)250Mpa(vi)300MPa(vii)350MPa(viii)400MPa(ix)450MPa

 
紫外可視分光光度計注5)を用いた測定により、垂直応力を加えた薄膜サンプルは、黄色~緑色の波長範囲の反射ピークが応力の強さに応じて減少していました(図3a-b)。また、表面電位顕微鏡(Kelvin Force Microscope=KFM)注6)を用いて、メカノクロミズムを分子構造の変化に起因した電気特性の変化として捉えると、応力の強さに応じて表面電位が高くなることを明らかとしました(図3c-d)。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202207193986-O7-UHaKQN8h

図3.「フルオレニリデン-アクリダン」のメカノクロミズムの定量的測定(a)UV-Visスペクトル 茶:0 MPa、橙:100MPa、赤:200MPa、紫:300MPa、青:400 MPa、緑:450 MPa(b)541 nmの反射率と垂直応力の相関図(c)KFM画像(d)表面電位と垂直応力の相関図。
突起幅を調製したシリコンモールドを作製しナノインプリントで押しつけることで、垂直応力の加わる範囲を制御した薄膜サンプルを準備しました。このサンプルに対し、KFMを用いた測定により、「フルオレニリデン-アクリダン」のメカノクロミズムの空間分解能を調査しました。結果から「フルオレニリデン-アクリダン」のメカノクロミズムは、50 nm以下の優れた高分解能を示すことが証明されました(図4)。また、垂直応力を加えた緑色薄膜はアルコールの蒸気暴露や噴霧により黄色へと戻ることがわかりました。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202207193986-O8-BH888JIl
図4.フルオレニリデン-アクリダンのメカノクロミズムの空間分解能調査

【成果の意義】
 従来のメカノクロミック材料の研究において、ほとんど行われていなかったメカノクロミズムの定量的測定を行いました。「フルオレニリデン-アクリダン」のメカノクロミズムは50nm以下の高分解能をもつことを明らかとしました。ナノメートルスケールの優れた分解能特性は、「フルオレニリデン-アクリダン」のメカノクロミズムが1分子ごとの構造変化に由来していることを証明しており、圧力測定フィルムなどのセンシング材料への発展が期待されます。

【付記】
本研究は、令和3年度から始まった科研費挑戦的研究(萌芽)『圧力により吸収色が変わるフルオレニリデン-アクリダンの学理構築とセンサー応用』(21K18956)の支援のもとで行われたものです。

【用語説明】
注1) メカノクロミズム:
 外部からの機械的刺激により化合物の色が変わる現象。多くのメカノクロミック材料は発光色が変化するが、「フルオレニリデン-アクリダン」は吸収色が変化する。
注2) フルオレン 注3) アクリダン
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202207193986-O9-juwn42Fj】        【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202207193986-O10-6L5Erm5p

注4) ナノインプリント:
 パターンのあるモールドを基板に押しつけることで、パターンを基板に転写するスタンピング技法を行う機械。主に半導体材料分野の研究・開発で用いられる。

注5) 紫外可視分光光度計:
 紫外~可視領域の波長をサンプルに照射し、透過した波長を検出することでサンプルが吸収した波長を測定する装置。本件では、積分球を用いることでサンプルの反射率を計測した。

注6) 表面電位顕微鏡(Kelvin Force Microscope=KFM):
 基準とする任意の電位との表面電位差を画像や数値として捉える顕微鏡。原子間力顕微鏡と同じく、探針と試料表面の原子間力を利用しているためナノメートルオーダーの観察ができる。

 
【論文情報】
雑誌名:Journal of Materials Chemistry C
論文タイトル:Quantitative and high-resolution mechanical pressure sensing functions of mechanochromic fluorenylidene-acridane
著者:小汲佳祐(東京都立産業技術研究センター副主任研究員/本学博士後期課程3年), 永田晃基(東京都立産業技術研究センター副主任研究員), 瀧本悠貴(東京都立産業技術研究センター副主任研究員), 三柴健太郎(東京都立産業技術研究センター副主任研究員),松尾 豊*(名古屋大学教授, *は責任著者)
DOI: 10.1039/D2TC01988D

 

 

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