【同志社大】糖尿病を予防する新規RNAを発見
2021年6月18日
報道関係者 各位
同志社大学生命医科学部 三田雄一郎助教 同大学院生命医科学研究科 野口範子教授 研究グループ
糖尿病を予防する新規RNAを発見 ―生活習慣病を予防する新たな戦略開発に期待―
本研究成果のポイント
・糖尿病を悪化する悪玉“セレノプロテインP”を低下させる新規RNAを発見しました。
・新規RNAは、セレノプロテインPタンパク質を低下させる活性を持つことから、L-IST(Long Non-coding RNA-Inhibitor of Selenoprotein P Translation)と命名しました。
・L-ISTを増加させる食品由来成分として、緑茶に含まれるエピガロカテキンガレートを同定しました。
概要
私たちが着目している“セレノプロテインP”は、体にとって必要なタンパク質ですが、増えすぎるとインスリンの効果を弱めて血糖値を増加させる作用があることから、糖尿病で増加するセレノプロテインPは病態を悪化する“悪玉”であることが分かっています。そのため、セレノプロテインPを一定に保つことが健康を維持する上で重要と考えられます。同志社大学生命医科学部の三田雄一郎助教、同大学院生命医科学研究科の野口範子教授と東北大学大学院薬学研究科の斎藤芳郎教授のグループは、セレノプロテインPと似た構造を持つ機能未知の遺伝子CCDC152を発見しました。本研究から、CCDC152遺伝子はRNAとして作用し、セレノプロテインPタンパク質を下げる機能を持つことが明らかとなりました。この機能から、CCDC152をL-IST(Long Non-coding RNA-Inhibitor of Selenoprotein P Translation)と命名しました。さらに、糖尿病予防効果が知られている緑茶成分エピガロカテキンガレートがL-ISTを増加させ、セレノプロテインPを下げる作用があることが分かりました。今後、L-ISTを増加させることにより、生活習慣病を予防・治療する新たな戦略開発が期待されます。
本研究は、文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(A)や新学術領域(生命金属科学)、AMED 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業により実施しました。この研究成果は、日本時間の2021年6月18日(金)午前9時5分に英国科学誌『Nucleic Acids Research』にオンライン掲載されました。
研究の詳細
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202105315646-O6-fbqS2z3U】
研究の背景
肝臓で合成され血液中に分泌される“セレノプロテインP(SeP)”は、必須微量元素セレンを含むタンパク質で、各臓器にセレンを運ぶ重要な役割を担うタンパク質です。しかし、糖尿病患者では、SeP mRNAが増加し、それに伴ってSePタンパク質が増加することが分かっています。増加したSePは、血糖値を下げる作用を持つインスリンの分泌を抑制し、筋肉でのインスリンの効果を弱めることから、血糖値を増加させる“悪玉”として作用することが明らかになっています。そのため、血液中のSePタンパク質を一定の値に保つことが生活習慣病の予防、健康維持に重要だと考えられます。
研究の概要
同志社大学生命医科学部の三田雄一郎助教、同大学院生命医科学研究科の野口範子教授、東北大学大学院薬学研究科の斎藤芳郎教授らの研究グループは、SeP遺伝子の配列についてデーターベースを用いて解析した結果、SePと似た構造を持つ遺伝子CCDC152を発見しました。CCDC152遺伝子は、その存在は知られていましたが、その機能は知られていませんでした。CCDC152遺伝子の機能について調べるため、SePを発現する肝臓由来HepG2細胞への作用を解析しました。HepG2細胞にCCDC152遺伝子を発現させた結果、SeP mRNA量は変化しませんでしたが、SePタンパク質の発現量を減少させることが分かりました。SePタンパク質を低下するメカニズムを詳細に解析した結果、CCDC152はRNAとして作用し、SeP mRNAに結合して、SePタンパク質の合成を抑制することが分かりました。これらの結果から、CCDC152遺伝子はSePタンパク質の合成(翻訳)を抑制するRNA分子として機能するため、L-IST(Long Non-coding RNA-Inhibitor of Selenoprotein P Translation)と命名しました。最後に、L-ISTを増加させる化合物を探したところ、緑茶に含まれるエピガロカテキンガレート(EGCg)がL-ISTを増加させる作用があり、SePタンパク質を低下する作用があることが分かりました。
社会的意義と今後の展望
SePは、各組織に必須微量元素のセレンを運ぶ重要な役割を担っている一方で、過剰になると糖尿病を悪化する悪玉となります。そのため、血液中のSeP濃度を一定に保つことが健康維持に重要であると考えられます。これまでに、高血糖や高脂肪によりSePタンパク質の発現が増加することが分かっていますが、SeP発現を低下する機構の存在はあまり知られていませんでした。本研究によるL-ISTの発見から、SePの暴走を防ぎ、糖代謝を一定に保つ体の仕組みが明らかになりました。また、L-ISTを増加させ、SePを低下する食品由来成分EGCgが本研究で初めて発見されました。緑茶は、古くから糖尿病の予防効果があることが知られていましたが、L-ISTを介したSeP発現低下作用が予防効果に寄与している可能性が考えられます。今後、SePレベルの高い糖尿病患者や糖尿病予備軍に対するEGCgのサプリメントを用いた治療や、EGCgをリード化合物としたL-IST発現増加薬などの開発が期待されます。本研究から、SePを標的とした生活習慣病の新たな予防・治療戦略が提示されます。
【論文題目】
Title: Identification of a Novel Endogenous Long Non-coding RNA that Inhibits Selenoprotein P Translation
Authors: Y Mita, R Uchida, S Yasuhara, K Kishi, T Hoshi, Y Matsuo, T Yokooji, Y Shirakawa, T Toyama, Y Urano, T Inada, N Noguchi, and Y Saito
Journal: Nucleic Acids Research
DOI: 10.1093/nar/gkab498
用語の説明
セレノプロテインP(SeP):必須微量元素セレンを含むタンパク質で、肝臓で主に合成され、血液中に分泌される。分泌されたSePは、各臓器にセレンを運ぶ役割を果たす。これまで、糖尿病患者においてSePが増加し、増加したSeP(過剰SeP)がインスリンの効果を弱めること(インスリン抵抗性)や、インスリンの分泌を抑制し、糖尿病態を悪化することが知られている。
セレン:必須微量元素の一つであり、生体内ではタンパク質に含まれる。セレンを含むタンパク質の中には、活性酸素を還元・無毒化し、活性酸素から生体を守る抗酸化作用を示すものが知られる。一方で、セレンは反応性の高い元素で、毒性も高いことも知られている。
mRNA:DNAの持つ遺伝情報を元に合成される核酸。mRNAの配列を元にタンパク質が合成される(翻訳と呼ばれる)。これまで多くの遺伝子は、タンパク質として機能すると考えられていたが、近年RNAとして機能する遺伝子も数多く知られるようになった。
エピガロカテキンガレートEGCg:緑茶に豊富に含まれる成分で、活性酸素を除去する抗酸化作用や糖尿病予防効果が知られる。多くのサプリメントも開発されている。
【本件に関する問い合わせ先】
三田 雄一郎(同志社大学生命医科学部 助教)
電話:0774-65-6258
E-mail:ymita@mail.doshisha.ac.jp
野口範子(同志社大学大学院生命医科学研究科教授)
電話:0774-65-6262
E-mail:nnoguchi@mail.doshisha.ac.jp
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