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<皮脂RNAモニタリング技術>乳幼児のアトピー性皮膚炎で皮脂RNA分子の変化を確認


2020年10月16日

花王株式会社



花王株式会社(社長・澤田道隆)生物科学研究所は、乳幼児アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis:AD)患児から採取した皮脂RNAの解析により、乳幼児ADで特徴的に変化する分子が、皮脂RNAにおいても変化していることを確認しました。また、TARC (thymus and activation-regulated chemokine)※1の発現情報から、健常児とAD患児を判別できる可能性を見いだしました。

さらに、あぶら取りフィルム一枚から、皮脂RNAに加えて、皮脂タンパク質を抽出し解析する技術を新たに構築しました。

今回の研究成果は、「JSA/WAO Joint Congress 2020(第69回日本アレルギー学会学術大会)」(2020年9月17日~10月20日、オンライン開催)にて発表しました。

※1 ADの炎症反応を誘導する分子。血液検査においてすでにADの診断・病勢マーカーとして使われている



背景

乳幼児期に発症するADは、皮膚のあれやかゆみなどにとどまらず、乳幼児期、小児期にみられる食物アレルギーや喘息といったさまざまなアレルギー(アレルギーマーチ)に関連することが知られています。乳幼児ADの発症は、その後の食物アレルギー発症の強いリスク等につながることから、できるだけ早くADの症状を見つけ出し、適切な治療を行なうことが必要です。しかし、ADの診断は、乳幼児期に多発するさまざまな皮疹との見極めが難しく、医師によるAD診断までに長期間の皮膚状態の観察が必要になる場合もあるなど、医師や乳幼児、保護者に大きな負担が生じることが問題となっています。

花王が2019年に報告した皮脂RNAモニタリング技術は、肌を傷つけることなく、顔の皮脂から簡便に皮脂RNA※2を採取し、解析できる技術です※3。今回は、この技術を用いて、乳幼児ADにおける皮膚の分子変化をとらえることができるか、検証を行ないました。

※2 Skin Surface Lipids-RNA(SSL-RNA)

※3 2019年6月4日ニュースリリース:皮脂中に人のRNAが存在することを発見  独自の解析技術「RNA Monitoring(RNAモニタリング)」を開発 https://www.kao.com/jp/corporate/news/rd/2019/20190604-001/



皮脂RNAによる乳幼児ADの皮膚状態の解析

  皮膚科医による問診および皮膚の診察により選ばれた健常乳幼児20名、軽症を中心とした乳幼児AD患児16名の顔から皮脂を採取し、皮脂RNAの解析を実施しました。取得した3,217種のRNA発現情報を比較したところ、健常群とAD群では、皮脂RNAの発現情報が異なる傾向が認められました。

そこで健常群とAD群の間で異なる挙動を示すRNAの機能を解析した結果、AD群では炎症反応に関連するRNA群の発現が上昇し、バリア機能に重要なRNA群の発現が減少していることが確認されました。バリア機能に関連する分子の中には、小児ADで特徴的に強く減少することが報告されている、脂質の合成/代謝に関連するRNAも含まれており、この技術で乳幼児ADに特徴的な分子群の変化をとらえられている可能性が示されました(図1)。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202010145694-O4-3Qwhog1e



視覚的に判別が難しい、症状が軽い乳幼児AD患児を、皮脂RNAを用いて検出できる可能性が示されたことから、皮脂RNA情報だけを用いて健常とADの皮膚状態を判別できるかどうかの検証を行ないました。まず、ランダムフォレストと呼ばれる機械学習方法を用いて、AD患児を判別するのに重要なRNAを選抜しました。その結果、現在すでにADの診断・病勢マーカーとして使われているTARCと呼ばれる分子が、その判別に最も重要であることが示されました。そこで、皮脂RNA中のTARCの発現情報を用いて健常児、および乳幼児AD患児の判別モデルを作成したところ、89%の精度(感度:75%、特異度:100%)※4で両者を判別できる可能性が示されました(表1)。

※4 感度 :AD患児の内、皮脂中のTARCのRNA発現量に基づく判別式により、正しくADと判別させた人数の割合

特異度 :健常児の内、皮脂中のTARCのRNA発現量に基づく判別式により、正しく健常と判別させた人数の割合

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202010145694-O5-kS4018u4

一枚のあぶら取りフィルムから皮脂RNAと皮脂タンパク質を同時に解析する新しい技術の開発

これまでの皮脂RNAモニタリングでは、皮脂RNAを抽出、精製する過程で使用されなかった残渣(残りかす)は廃棄されていました。その中にはタンパク質が豊富に含まれていますが、その精製、分析方法はこれまで確立されていませんでした。しかし、この残渣からタンパク質の発現情報を解析できるようになれば、あぶら取りフィルム一枚からRNAとタンパク質といった幅広い生体情報を同時に取得することが可能になると考えられます。そこで花王は、残渣からのタンパク質抽出、解析方法を検討し、皮脂タンパク質※5を網羅的に解析する方法を確立することに成功しました(図2)。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202010145694-O6-J6gUwY48

この方法を用いて、乳幼児の皮脂RNA抽出後の残渣からタンパク質を抽出し解析したところ、約 800 種ものタンパク質分子を検出することができました。その中には、RNAの解析では検出が難しかった分子も多く含まれていたことから、RNAと併せてタンパク質を解析することで、 より深い生体機能の理解に繋がると考えられます。 

さらに、健常児と乳幼児AD患児の比較において、ADで変動することが報告されている分子の発現情報が皮脂タンパク質でも変化していることが確認され、皮脂タンパク質解析でも乳幼児ADの状態をモニタリングできる可能性があることが示されました。



まとめ

かゆみなどを訴えにくい乳幼児の皮膚、体内状態の客観的な把握は、乳幼児だけでなく保護者においても重要な役割を果たします。今回、花王は皮脂RNAを用いて乳幼児ADで特徴的に変化するRNA分子をとらえられることを見いだし、皮脂RNA情報だけでもADを判別できる可能性を示しました。

また皮脂RNA抽出工程で生じる残渣を再利用し、皮脂中のタンパク質発現情報を解析する技術を新たに構築しました。皮脂中のRNA、タンパク質、これら2つの生体情報を最大限に活用することで、乳幼児ADの精緻なモニタリング、および本質的な理解が可能になると考えます。

 今後は、国立成育医療研究センターと共同で、生後6カ月以下の乳児を対象に、皮脂RNAおよび皮脂タンパク質を用いた早期発症型ADの研究を進めていく予定です。



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