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生命の遺伝情報継承に重要な相同染色体対合を促進する仕組みを発見 ~染色体異常の原因解明に将来期待~


2019年12月10日



国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)

国立大学法人大阪大学



生命の遺伝情報継承に重要な相同染色体対合を促進する仕組みを発見

~染色体異常に起因するダウン症や流産など将来における原因解明へ期待~



【ポイント】

■ 生物の遺伝に重要な相同染色体の対合に関与する新たな遺伝子領域と結合するタンパク質を発見

■ 液‐液相分離という物理的現象が相同染色体の相互認識と対合の促進に重要であることを発見

■ 遺伝情報伝達の仕組み解明に大きく前進、ダウン症などの染色体異常の原因解明に期待



 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 徳田 英幸)と国立大学法人大阪大学(大阪大学、総長: 西尾 章治郎)は共同で、分裂酵母において、遺伝情報を組み換える際に行われる相同染色体の対合という、生命の存続、継承や進化に極めて重要な意味を持つ生命現象を確実かつ安全に行う仕組みを新たに発見しました。

 今回、NICT未来ICT研究所及び大阪大学大学院生命機能研究科は、この相同染色体の対合に関与する新たな遺伝子領域とそこに結合する転写終結因子タンパク質を複数発見しました。さらに、その遺伝子領域から転写される長鎖非コードRNAと転写終結因子タンパク質との複合体が引き起こす液‐液相分離という物理現象が、染色体対合に重要な役割を担っていることを発見したのは、世界で初めての成果です。

 相同染色体対合の仕組みを解明することは、染色体異常に起因するダウン症などの病気や流産の原因解明に貢献することが期待されます。

 本成果は、2019年12月6日(金)に国際的科学誌『Nature Communications』にオンライン掲載されました。



【背景】

 NICTは、生命進化の成果に学び、未来社会を拓く新しい情報通信パラダイムの創出につながる基礎となる研究を実施しています。

 ヒトを含む全ての真核生物は、生殖細胞(精子や卵子等)を作り出す際に、減数分裂と呼ばれる特殊な細胞分裂を行っています。この減数分裂の際に、父母に由来する同種の2本の染色体(相同染色体)が接合(対合)し、遺伝情報の組換えを効率的に行います。これは、生命に進化と多様性をもたらす生物学的に極めて重要な現象です。しかし、相同染色体がどのように対合する相手を認識して接合するかということについて、これまで明らかにされていませんでした。

 これまで、NICTは、2009年に相同染色体の構造変化メカニズムに関する新たなタンパク質を発見し、2012年に第2染色体sme2領域において高頻度で相同染色体が対合することを発見し、その領域から転写される非コードRNAが重要な役割を果たしていることを発見するなど、相同染色体のメカニズムの解明に関する最先端の研究を行ってきました。





【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/201912094488-O1-6TM4SnpN

図1 NICTのイメージング技術によって観察された相同染色体(緑色)をつなぐ長鎖非コードRNA(lncRNA)(赤色)液滴の様子



【今回の成果】

 今回、NICT未来ICT研究所の丁主任研究員は、大阪大学大学院生命機能研究科の平岡教授との共同研究により、分裂酵母を生きた状態で観察し、相同染色体が高頻度に対合する染色体領域として、以前発見した領域に加え、新たに第1染色体A55領域及び第3染色体C24領域を発見しました。さらに、A55領域からはomt3RNA、C24領域からはlncRNA584という長鎖非コードRNAが合成されることを発見しました。

 観察には、分裂酵母の染色体の特定領域が光るようにした上で、独自に開発したイメージング技術を用いました(図1、図2参照)。





【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/201912094488-O2-llXnSGv4



図2 Smpタンパク質(白い点)が、sme2領域及び新たに発見した高度に対合する染色体領域A55領域とC24領域に集積する様子



 減数分裂の際、相同染色体のA55領域からはomt3RNA、またC24領域からはlncRNA584という長鎖非コードRNAが合成され、染色体上に蓄積します。この場所に局在するタンパク質を、独自開発した分裂酵母GFP融合タンパク質ライブラリーから検索した結果、転写終結因子10個を発見しました。更に解析を行った結果、そのうち6個を、相同染色体対合に必須な働きをするタンパク質(Smpタンパク質)と特定しました。

 また、これら6個のタンパク質は、長鎖非コードRNAと共に、液‐液相分離を起こす液滴を形成します。同じRNAを含む液滴のみが融合できることで、相同染色体の相互認識と対合を促進することを明らかにしました(図3参照)。転写終結因子が、非コードRNAと共に形成した液‐液相分離した液滴を、染色体上にトラップするようにつなぎ留め、非コードRNAが液滴に特異性を与え、相同染色体の相互認識の決め手になることを発見したことは世界で初めての成果です。



【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/201912094488-O3-qKKouHS0

図3 LLPSで形成された長鎖非コードRNA(lncRNA)とSmpタンパク質の液滴によって相同染色体の相互認識が果たされる



 今回の成果によって、生物が子孫を残す過程として重要な相同染色体対合の仕組みの一部が明らかになりました。今回発見したタンパク質は、ヒトを含むほぼ全ての真核生物に保存されていることから、真核生物共通の仕組みである可能性が高いです。したがって、ヒトの精子や卵子が形成される際にも、同様のタンパク質や仕組みが働いている可能性があります。今後、解析が進むことにより、ヒトの精子や卵子が形成されるメカニズム解明への貢献が期待されます。

 また、相同染色体の対合が液‐液相分離という物理的な現象で説明できることを発見したことは、生物種の種類によらない普遍的な仕組みを示している可能性があり、生物の持つ、子孫への遺伝情報伝達の仕組みの全容解明に向けた大きな前進となります。

 これにより、染色体異常に起因するダウン症や流産の原因解明に貢献することが期待されます。



【今後の展望】

 今後は、今回発見したRNAやタンパク質が、どのように液‐液相分離現象を引き起こすか、そのメカニズムを解明するとともに、RNAやタンパク質などの生体分子を利用したバイオセンサー等、生物が持つ優れた特徴を取り入れたロバストネスな情報通信技術への応用につなげていきます。





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