4人に1人以上が高齢者
内閣府が発表している高齢社会白書(平成28年概要版)によれば、日本には3,392万人の高齢者(65歳以上)がいて総人口1億2,711万人に占める比率は27%で、4人に1人以上が高齢者という計算になる。
65歳以上が高齢者という定義づけは、平均寿命が年々伸びていく中、70歳前後で元気に働いている人たちが多いことを鑑みると近い将来見直される可能性がある。
75歳以上の人たちを高齢者と見なすのであれば、1,641万人で総人口に占める比率は12.9%、概ね8人に1人ということになる。
600万人の「独居老人」
高齢社会白書によれば、高齢者の単身世帯(おひとりで暮らしている65歳以上の高齢者)は、平成26年末の時点で約596万世帯であることが分かった。
つまり「独居老人」の人たちが日本にはおよそ600万人もいるということだ。近年、「独居老人」という言葉を新聞やニュースで聞くことは多い。
生涯独身率も近年上昇しており、配偶者を亡くして独り身になった人だけでなく、生涯を独身のまま過ごす割合も増えていることから、今後も「独居老人」の数は増加する一方だと思われる。
亡くなった人の遺産を国が「相続」
ところで、身寄りがいない独居老人の方が亡くなった場合、つまり相続人が全くいない(両親は既に他界し、生涯独身で兄弟姉妹がおらず、生涯独身、養子縁組もしていないと仮定する)場合、故人が残した財産はどうなるのだろうか?
民法第959条によると
となっている。
亡くなった人の遺産を国が「相続」する案件が年々増えていという日経新聞の記事(2017年4月15日電子版)を読むと、未婚率上昇や高齢化で受け取り手がいないケースが増えていることが背景にあるとのこと。
遺産が国庫納付される金額は年間400億円にもなり、この10年で約2.5倍に拡大した。
国による相続額はさらに膨ら見込みで、政府内には国の相続財産を「隠し財源」として注目する向きもあるようだ。
財政難に悩む政府にとっては朗報かもしれないが、なんとも皮肉なことである。
「独居老人」から国が相続するまでの流れ・手続き
記事の中で興味深かったのは、身寄りのいない故人である「独居老人」から国が相続するまでの流れ・手続きだ。
親族や身の回りの世話をした人などの相続する人がいない、もしくは、法定相続人が相続を放棄したようなケースでは、公的に選任された「相続財産管理人」が遺産を整理し、最終的に国庫に引き継ぐことになる。
自宅などの土地建物といった不動産は、換金して計上するのが一般的で、相続額が0円の場合もあれば1億円を超えることもあるようである。
記事では、家庭裁判所から相続財産管理人に選任された弁護士が、故人の家財の片付けやお寺での納骨法要に何度も立ち会ったというエピソードを紹介している。
相続手続きする人自体がいない場合
身寄りの全くいない人が亡くなった場合は、相続手続きする人自体がいない可能性がある。その場合は故人へ債権を持っている利害関係者や検察官が家庭裁判所へ連絡すると以下の手続きが開始されることになる。
1. 相続財産管理人が選ばれる
故人に身寄りがない場合、利害関係者などが家庭裁判所に申し立てを行う。この申し立てにより、弁護士や司法書士などが「相続財産管理人」として選ばれる。
尚、家庭裁判所は、相続財産管理人が選ばれたことを官報に公告(広告期間は2か月)する。公告期間中、もし相続人がいたら申し出ることができる。
2. 財産管理人が債権者などに財産を分配
上記の公告から2カ月経っても相続人が現れない場合、相続財産管理人は、相続人が本当にいないかどうか、さらに2ヶ月間の公告をする。
この公告では、官報に「相続債権者受遺者への請求申出の催告」という掲載がされる。
その結果、相続人がいなかった場合は財産管理人が債権者に財産を分配することになる。
3. さらに相続人を探す
この後、さらにもう一度、相続人を探す期間がある。
相続財産管理人もしくは、検察官が家庭裁判所へ要請した場合には、さらに、6か月以上の公告をして相続人が名乗り出るのを待つ。
この公告では、官報に「相続権主張の催告」という掲載がされる。
それでも、相続人が現れなければ、「相続人不在」ということで確定がされる。
4. 特別縁故者への分配
「相続人不在」が確定した後、親族などの法定相続人ではないが、相続人と深い縁があった特別縁故者へ財産を分配する。
特別縁故者に該当する人は、相続人不在が確定してから3か月以内であれば、「財産の分配」を請求することができる。
尚、特別縁故者とは、内縁関係にあった妻、同じ家にずっと同居していた友人など「生計を同じくしていた者」や個人の介護や病気の看護をしていた人が該当するが、最終的には家庭裁判所が特別縁故者にあたるかどうかを決める。
休眠預金活用法が成立
もう一つ、筆者が日経新聞記事で関心をひかれたのは、
という言及だ。
それは、銀行などの金融機関で10年以上放置された「休眠預金」のことだ。
2016年末に休眠預金活用法が成立したことにより、10年間手つかずの預金は2019年からは、NPO法人や自治会など公益活動を担う団体に助成したり融資したりして、その休眠預金を活用できるようになる。
これまで、休眠預金はそのまま銀行の収入となっていたが、その資金を世の中に還流させる道が開けたというわけだ。
独居老人600万人が残す遺産の行き先
金融庁の試算によると、休眠預金は払い戻し要請がある分を差し引いても年間600億円前後生まれるとのこと。
相続人不在で相続財産が国庫へ納付される分と合わせれば、年間1,000億円もの資金が、国の一般会計予算とは別に、日本社会のために活用できるという計算になる。
国家の山積する諸課題に対応するために、年間1000億円という規模は決して潤沢とはいえないが、財政が厳しくなる中、政府は「少子化対策や働き方改革の追加財源」として羨望のまなざしを送りたくなることだろう。
という現実は、急速に少子高齢化が進むわが国にとって歓迎すべきことなのか、それとも憂慮すべきことなのか、日本の将来像についていろいろ考えさせられる記事であった。(執筆者:完山 芳男)