2016年を振り返ってみると「給付減、負担増」の傾向
昨年の2016年を振り返ってみると、
・ 公的医療保険(健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療)
・ 公的介護保険の改正
が、注目を集めた一年だったと思います。
例えば公的年金では、野党が「年金カット法案」と批判する年金制度改革法案が、大きな注目を集めました。
また公的医療保険では、70歳以上の現役並み所得者に適用される「高額療養費」の見直しが注目を集め、公的介護保険では65歳以上の現役並み所得者に適用される自己負担の、2割から3割への引き上げが注目を集めました。
もちろん改正はこれだけではありませんが、公的年金、公的医療保険、公的介護保険の改正に関する全体的な傾向は、「給付減、負担増」という暗いものです。
明るい話題としては、公的年金の受給資格期間が原則25年から10年に短縮され、公的年金を受給しやすくなったことぐらいだと思います。
2017年から順次実施されていきます
このように2016年に注目を集め、実際に法改正されたものが、2017年から順次実施されていきます。
「給付減、負担増」という改正の全体的な傾向から考えると、2014年あたりから問題になっている「老後破産」が、より深刻化していくのではないでしょうか?
節税しながら老後資金の準備ができるiDeCoの加入資格が拡大
公的年金、公的医療保険、公的介護保険に関しては上記のように、暗い話題ばかりでしたが、公的年金を補完するため、個人が任意で加入する「私的年金」に関しては、明るい話題もあります。
それは2017年1月1日から、国民年金の保険料の免除者など一部の方を除いて、個人型の確定拠出年金(以下では愛称に決まった「iDeCo」で記述)に、誰でも加入できるようになるというものです。
これにより今まで加入資格のなかった公務員、国民年金の第3号被保険者となり、自分で保険料を納付する必要のない専業主婦などが、iDeCoに加入できるようになります。
これがなぜ明るい話題なのかというと、iDeCoは
(2) 拠出した掛金を運用する時
(3) 拠出した掛金とその運用益を受給する時
の、3つの段階において、税制面で優遇されているからです。
つまり所得税や住民税の節税をしながら、老後資金の準備ができるというのが、iDeCoの特徴になります。
最近の調査でも専業主婦の8割はiDeCoを知らない
先日インターネットで検索していたら、SBI証券が2016年12月6日~12月7日に、20代~40代の専業主婦(450名)に実施した、「老後のお金に関する調査」というものを見つけました。
この調査によるとiDeCoを利用してみたいと思う専業主婦は、23.6%(「利用してみたい:4.9%」と「やや利用してみたい:18.7%」の合計)しかいませんでした。
例えば配偶者控除を受けるため、年収を103万円以内に抑えている専業主婦がiDeCoに加入した場合、(1)の掛金を拠出する時については、節税できないというデメリットがあります。
こういった理由でiDeCoを利用してみたいと思う専業主婦は、2割程度に止まるのかと思っていました。
しかし、84.0%の方がこの制度について、「聞いたことはない」と回答しており、ただ単に知らないから、利用してみたいと思わないのです。
ある制度について知っている人だけが得をして、知らない人は損をするということは、よくある話だと思いますが、まさにiDeCoはそのような制度だと考えております。
雇用情勢の改善を受け保険料が値下げされた雇用保険
従来は65歳に達した日以降に、新たに雇用された方は、「1週間当たりの所定労働時間が20時間以上であること」や、「31日以上の雇用見込みがあること」という要件を満たしても、雇用保険に加入しません。
しかし2017年1月1日以降は、このような要件を満たすと、雇用保険に加入する必要があります。
一見すると負担増となり、暗い話題のような気がしますが、例えば月給が20万円の場合、雇用保険の保険料は月800円、厚生年金保険の保険料は月1万8,182円になりますので、社会保険と比較すると、大きな負担ではないのです。
しかも厚生年金保険の保険料は、2017年9月に値上げされますが、雇用保険の保険料は雇用情勢の改善を受け、2016年4月に値下げされておりますので、iDeCoの適用拡大と同じように、決して暗い話題ではないのです。
65歳以上の方が受給できる雇用保険の保険給付が拡大へ
雇用保険に加入する65歳以上の方が失業した時に、「原則として離職する前の1年間に雇用保険の被保険者期間が、通算して6か月以上あること」などの要件を満たしていると、「高年齢求職者給付金」という失業手当を受給できます。
また2017年1月1日以降は、この失業手当に加えて、次のような雇用保険の保険給付を、新たに受給できるようになります。
求職活動支援費
公共職業安定所の紹介により、一定以上の遠方にある会社の面接などを受ける時に、そのための交通費や宿泊費が支給される制度です。
なお2017年1月1日以降は上記の他に、公共職業安定所の職業指導により、教育訓練を受けた時に、入学金や受講料の一定割合が支給されたり、面接や教育訓練のため、 保育サービスなどを利用した時に、その利用費の一定割合が支給されたりします。
移転費
公共職業安定所の紹介した職業に就くため、もしくは公共職業安定所長の指示した公共職業訓練を受講するため、その住所や居住地を変える必要がある時に、本人や家族の移転に必要な費用が支給される制度です。
教育訓練給付
厚生労働大臣が指定する講座を受講し、それが修了した時に、教育訓練施設に支払った学費の、一定割合が支給される制度です。
育児休業給付
1歳または1歳2か月未満の子を養育するため、育児休業を取得し、給与が一定割合以上支払われなくなった時に、給付金が支給される制度です。
介護休業給付
一定の家族を介護するため、介護休業を取得し、給与が一定割合以上支払われなくなった時に、給付金が支給される制度です。
iDeCoと雇用保険を活用した自助努力が老後破産を制する
老後はまだ先という世代の方は、税制面で優遇されているiDeCoを活用して、老後資金を少しずつ準備していけば良いと思います。
またすでに年金をもらっている世代の方は、保険料が値下げされたうえに、受給できる保険給付が拡大され、コストパフォーマンスが良くなった雇用保険を、上手に活用しながら、少しでも働く期間を延ばしていけば良いと思います。
2017年以降については、こういったそれぞれの世代における自助努力が、老後破産を制するのではないでしょうか?(執筆者:木村 公司)