「事実婚」という夫婦関係が注目されている
テレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」のヒットにより、「事実婚」という夫婦関係が注目されております。
この事実婚について調べてみると、婚姻届は提出していないけれども、社会的に夫婦と同一の生活を、送っている状態を示すようです。
しかし同棲しているカップルでも、このような生活を送っている方がおり、一見しただけでは同棲なのか、それとも事実婚なのかが判別できません。
そこで事実婚であることを証明するため、例えば一緒に暮らし始める時に市役所へ行き、世帯主でない方の続柄を、「妻(未届)」や「夫(未届)」と記載してもらうのです。
そうなると事実婚とは、一緒に生活しており、住民票も一緒だけれども、戸籍は別のままという夫婦関係と考えられます。
実際「逃げるは恥だが役に立つ」の第1話を見ると、星野源さんが演じる津崎平匡は、新垣結衣さんが演じる森山みくりに対して、事実婚とは「戸籍はそのままで、住民票だけを移す方法」と説明していたと思います。
戸籍は一緒のままで別の人生を歩む「卒婚」
この事実婚が注目される前に、新しい夫婦関係として注目されていたのは、「卒婚」ではないかと思うのです。
この言葉は2004年に「卒婚のススメ」という本を出版した、杉山由美子さんによる造語で、例えばタレントの清水アキラさんや、加山雄三さんが実践していることで有名になりました。
この卒婚について調べてみると、結婚という形態を維持しながらも、互いに干渉せず、それぞれが自分の人生を、自由に楽しむ夫婦関係のようです。
卒婚の例
よく卒婚の例として挙げられるのは、定年退職後に夫は地元の田舎へ帰る、もしくはそこまで通い、妻は都会のもともと住んでいた家に残り、夫婦で定期的に会うというものです。
そうなると卒婚とは、基本的には一緒に生活していない、場合によっては住民票も別だけれども、戸籍は一緒のままという夫婦関係と考えられます。
このような特徴のある事実婚と卒婚ですが、社会保険や税金の面では、次のような取り扱いになっております。
社会保険の取り扱いは事実婚であっても不利はない
事実婚の配偶者であっても、社会保険(健康保険、厚生年金保険)については、法律婚の配偶者と同等の取り扱いを受けます。
例えば事実婚の妻の年間収入が、130万円未満などの要件を満たす場合には、事実婚の夫の加入する健康保険の被扶養者にできます。
また国民年金の第3号被保険者にもできるので、そうなれば法律婚と同じように、保険料を負担する必要はありません。
ただ協会けんぽや年金事務所などは、事実婚であることを確認するため、「妻(未届)」と記載された住民票や、夫婦双方の戸籍謄(抄)本の提出を求める場合が多いようなので、手続きについては法律婚より手間がかかります。
しかしこの点以外については、社会保険に加入する段階で、事実婚が法律婚より不利になることはなく、それは保険給付を受給する段階になっても同じです。
例えば事実婚の妻であっても、他の要件を満たしていれば、事実婚の夫が死亡した時に、遺族年金(遺族基礎年金、遺族厚生年金など)を受給できるのです。
卒婚により夫婦が別居しても被扶養者から外れない
健康保険の被扶養者になれるのは、健康保険の加入者の三親等内の親族、または事実婚の配偶者の父母および子(その配偶者が死亡した後も含む)のうち、次のような2つの要件を満たす方になります。
(1) 同一世帯である
健康保険の加入者と同居して、家計を共にしている状態を示します。
(2) 生計維持関係がある
健康保険の加入者の収入により、生活が成り立っている状態を示し、具体的には健康保険の被扶養者になろうとする者の年間収入が130万円未満で、かつ健康保険の加入者の収入の1/2未満であると、生計維持関係があると判断されます。
しかし健康保険の加入者の直系尊属(父母、祖父母など)、配偶者、子、孫、弟妹、兄姉については、(2)の生計維持関係だけを満たしていれば、健康保険の被扶養者にでき、また配偶者については、国民年金の第3号被保険者にできます。
そのため卒婚により夫婦が別居を始め、(1)の同一世帯の要件を満たさなくなっても、配偶者を健康保険の被扶養者や国民年金の第3号被保険者から、外す必要はないのです。
ただ別居している場合には、健康保険の被扶養者になろうとする者の年間収入が130万円未満で、かつ健康保険の加入者の援助による収入額より少ないと、生計維持関係があると判断されるので、(2)に記載した同居の場合の基準と少し変わります。
卒婚は国民健康保険の平等割が二重に徴収される可能性がある
夫婦双方が国民健康保険に加入している場合には、卒婚により別居を始めると、負担が増える可能性があります。
国民健康保険の保険料は、所得割、資産割、均等割、平等割で構成されており、このうちの平等割とは、1つの世帯ごとにいくらという形で徴収されるものです。
例えば妻がもともと住んでいた家を離れ、新たな土地で生活を始め、そこが生活の本拠になった場合、妻を世帯主とする新たな世帯が生じるので、平等割を二重に徴収される可能性があり、そうなると負担が増えるのです。
ただ平等割を徴収しない市区町村もあるので、必ず負担が増えるというわけではありません。
税金の面では事実婚より法律婚を維持する卒婚が有利
このように社会保険の取り扱いにおいては、事実婚と卒婚の間に、大きな違いはありませんが、税金の面ではかなりの違いがあります。
例えば現在話題になっている配偶者控除は、夫婦の一方が他方に、生活費の仕送りをしていれば、別居していたとしても利用できるので、卒婚の方は別居する前と同じように、配偶者控除を受けられる可能性が高いのです。
しかし事実婚の相手は、民法の規定による配偶者ではないので、事実婚の方は配偶者を対象にして、配偶者控除を受けられません。
また法律婚であれば相続時に、相続財産が1億6,000万円までなら相続税が課税されないという、税額軽減の特例を利用できますが、事実婚はこれを利用できません。
そうなると事実婚は卒婚より、実態は夫婦らしいのに、税金の面では卒婚が有利と考えられます。(執筆者:木村 公司)