

秋の彼岸に実家へ寄ると、親から遺言の下書きを見せられることがあります。「介護をすること」「兄弟仲良く」と並んでいても、遺言として効くのは法律が定めた事項です。財産の行き先は条文で効き、気持ちや願いは付言事項として残す部分です。
父の遺言の下書きを見せられた50代の長女の戸惑い
「父が遺言の下書きを見せてくれたのですが、『長男は母さんの介護をすること』『葬式は家族だけで』『兄弟は仲良く』とあって、書いても効くのかと戸惑いました。」50代の会社員の長女が渡された紙には、自宅を長男に、預金を娘たちにという分け方の後に、家族への頼みごとが続いていました。父は書けば守られると信じている様子でした。
遺言で効力が生じる事項は、法律が条文で決めている
法律は、遺言で効力が生じる事項を条文ごとに定めています。中心は民法上の財産の行き先で、共同相続人の相続分や遺産の分割の方法を定めること、財産の全部または一部を渡す遺贈です。遺言執行者の指定のほか、認知は遺言によってもでき、推定相続人の廃除の意思表示や、未成年後見人の指定も遺言で行えます。

介護の頼みや葬儀の希望は、付言事項として理由を添える
父が書きたかった単なる介護の頼みや葬式の希望、兄弟仲良くという願いは、法律が遺言で定められるとする事項にありません。函館地方法務局の文例集は、感謝の気持ちや想いを伝える文書を付言事項と呼び、法律に定めのあるものではなく、記載は任意だと説明しています。書いても法律上の拘束は生まれず、気持ちとして伝わります。
ただ、付言事項には役割があります。同じ文例集は、一部の人に多く相続させるなら、その理由を付言事項として伝え、遺産争いを防ぐことが重要だと案内しています。自宅を長男に渡す理由が母の介護なら、それを付言に書くと、ほかの子も納得しやすくなります。介護を法的な負担として組み込みたい場合は、単なる付言ではなく、負担付遺贈など別の設計を検討する余地があります。ただし、書き方を誤ると効力に争いが出るため、公証役場や専門家に確認するのが安全です。
効くことと気持ちを分けて、形式を整える段取り
順番は三つです。まず、書きたいことを法律で効くことと気持ちや希望に分けます。次に、効くことは誰に何を渡すかを書き、推定相続人には「相続させる」または「遺贈する」、推定相続人以外には「遺贈する」と記し、遺言執行者も決めます。そのうえで、気持ちや希望は付言事項に理由を添えて書きます。
最後が形式です。自筆証書遺言は、気持ちを書く付言事項も本文と同じく自書が要ると東京法務局が注意しており、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用して保管された遺言書は家庭裁判所の検認が要りません。公正証書遺言は公証人が法定の方式に従って作成します。
親の想いは、条文に乗る部分と手紙になる部分に分けて残す
遺言で効くのは、誰に何を渡すか、誰が手続を担うかという法律が定めた事項です。単なる介護の頼みや葬儀の希望、兄弟仲良くという願いは、付言事項として理由とともに書けば、争いを避ける助けになります。まずは効く部分と気持ちの部分に分けてみましょう。
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