
2025年中に実施される可能性があるのは、次のような2種類の社会保険に加入するのかを判定する時の賃金要件、いわゆる「106万円の壁」の撤廃です。
健康保険(加入する上限年齢は75歳)
厚生年金保険(加入する上限年齢は70歳)
厚生労働省からは社会保険の改正案だけでなく、公的医療保険(国民健康保険、健康保険、後期高齢者医療など)の改正案も示されています。その中で医療費の負担増になるのは、1か月(1日~月末)の医療費の自己負担が所定の自己負担限度額を超えた時に、その超えた分が払い戻しされる高額療養費の改正です。
改正が実施される予定の2025年8月以降に社会保険に加入すると、医療費の負担増を軽減できると思うのですが、その理由は次のようになります。

医療費の支払いを低くする高額療養費
医療費の自己負担が3割の方が入院して、手術などに100万円かかった場合、入院時の食事代などを除いた自己負担は原則として30万円です。公的医療保険には共通して高額療養費があるため、この制度を上手く活用できれば、医療費の自己負担は更に低くなります。
高額療養費とは1か月(1日~月末)の医療費の自己負担が、所定の自己負担限度額を超えた時に、その超えた分が申請によって払い戻しされる制度です。自己負担限度額は年齢や収入で変わりますが、例えば70歳未満で年収が約370~770万円の方に適用される自己負担限度額は、次のように8万7,430円になります。
8万100円+(医療費の100万円-26万7,000円)×1%=8万7,430円
この例では医療機関の窓口に30万円を支払っているため、申請すると21万2,570円(30万円-8万7,430円)が、高額療養費として後日に払い戻しされます。ただ健康保険証の利用登録を済ませたマイナンバーカード、いわゆるマイナ保険証を使って受付した時には、後日に払い戻しを受ける必要はありません。
またマイナ保険証を使える医療機関で、健康保険証や資格確認書を提示する際に、「限度額情報の提供に同意する」と口頭で伝えた時にも、同様の取り扱いになります。その理由としては医療機関の窓口での支払いが、自己負担限度額までになるからです。
かつては入院する前に保険者(市区町村、健保組合など)に申請して、限度額適用認定証の交付を受けないと、このような取り扱いはできなかったのです。しかし現在はマイナ保険証を使わなくても、医療費の支払いを自己負担限度額までにできるため、払い戻しを受けるケースは少なくなっています。
高額療養費の改正は3回に分けて実施される

2025年8月以降に実施される予定の高額療養費の改正は、厚生労働省が発表した資料などを見てみると、次のように3回に分けて実施されるようです。
【1回目の改正:自己負担限度額の引き上げ】
2025年8月に実施される予定の1回目の改正は、自己負担限度額を全体的に引き上げします。
例えば上記と同じ条件だった場合、計算式に登場する8万100円は8万8,200円に引き上げされるため、医療費が100万円だった時の自己負担限度額は次のようになります。
8万8,200円+(医療費の100万円-26万7,000円)×1%=9万5,530円
そのため改正前と比較すると、月8,100円(9万5,530円-8万7,430円)ほどの負担増になるのです。
【2回目の改正:自己負担限度額の細分化】
70歳未満で年収が約370~770万円の方に適用される自己負担限度額は、同様の計算式で算出します。しかし2026年8月に実施される予定の2回目の改正では、計算式に登場する8万8,200円を、次のように年収によって細分化するのです。
約370~510万円:8万8,200円
約510~650万円:10万800円
約650~770万円:11万3,400円
【3回目の改正:自己負担限度額の更なる引き上げ】
2027年8月に実施される予定の3回目の改正では、年収によって細分化された自己負担限度額を、次のように更に引き上げするのです。
約370~510万円:8万8,200円
約510~650万円:11万3,400円
約650~770万円:13万8,600円
以上のようになりますが、石破総理は「1回目を予定通りに実施し、2~3回目は再検討」と述べていたので、この通りに実施されない可能性もあります。
医療費の負担増を軽減できる1つ目の理由
年収130万円未満などの要件を満たして、配偶者などが加入する健康保険の被扶養者になると、保険料を負担しなくても2~3割の自己負担で診療を受けられます。
ただ次のような2種類の保険給付を受給できるのは、健康保険の加入者だけになるため、健康保険の被扶養者は受給できません。
(A)傷病手当金
業務外の病気やケガで4日以上仕事を休んだ時に、最長で1年6か月に渡って、休職前に支払われていた給与の3分の2程度が支給される保険給付です。
支給対象が業務外の病気やケガに限られるのは、業務上の病気やケガで仕事を休んだ時には労災保険から、休業補償給付が支給されるからです。
(B)出産手当金
出産で仕事を休んだ時に、出産日以前42日(多胎妊娠は98日)から、出産の翌日以後56日まで、休職前に支払われていた給与の3分の2程度が支給される保険給付です。国民健康保険や後期高齢者医療の加入者も原則的には、これらの保険給付を受給できないため、健康保険に加入した時のメリットになります。
一方で厚生年金保険に加入した時のメリットは、病気やケガが一定の障害状態に該当した時に、国民年金の障害基礎年金に上乗せして障害厚生年金が支給される点です。傷病手当金や障害厚生年金を受給できると、医療費の支払いに使える資金が増えるので、社会保険に加入すると2025年8月以降の医療費の負担増を軽減できるのです。
また厚生年金保険に加入すると、原則65歳から受給できる老齢厚生年金が増えるので、高齢になった時の医療費の増加に備えられるのです。
医療費の負担増を軽減できる2つ目の理由
夫が健康保険に加入し、妻が被扶養者になっている場合、妻が入院した時の自己負担限度額は、夫の収入を元にして算出します。一方で「106万円の壁」の撤廃や収入の増加などにより、妻が健康保険に加入した場合、妻の収入を元にして自己負担限度額を算出します。
健康保険に加入した時に妻が70歳未満で、年収が約200万円より低いケースだと、2025年8月以降の自己負担限度額は月6万600円という場合が多いのです。そのため健康保険の被扶養者の時よりも、自己負担限度額が下がる可能性が高いため、社会保険に加入すると2025年8月以降の医療費の負担増を軽減できるのです。
なお健康保険に加入する子が高齢の親を被扶養者にした場合、子の収入を元にして親の自己負担限度額を算出するため、親は医療費の負担増の影響を強く受けます。
こういったケースでは社会保険に加入するよりも、医療費のために貯蓄したり、がん保険や医療保険の保障内容を見直したりして、医療費の負担増に備えるのです。