2024年10月16日に関西経済連合会は、年金以外の所得が多い高齢者に支給される老齢基礎年金の、逓減(ていげん:次第に減らすこと)または停止を提言しました。
また同年10月18日に連合(日本労働組合総連合会)は、国民年金の第3号被保険者の廃止を政府に求める方針を決めました。
前者のように、高所得者の年金が停止になった場合、国民年金の納付期間5年延長が近づくかもしれないのですが、その理由は次のようになります。
国民年金の被保険者には3つの種別がある
原則65歳から支給される老齢年金は、1階部分の国民年金から支給される老齢基礎年金と、2階部分の厚生年金保険から支給される老齢厚生年金があります。
1階部分の老齢基礎年金を受給するには、公的年金(国民年金、厚生年金保険)の保険料を納付した期間や、免除を受けた期間などの合計が、原則10年以上必要になります。
こういった老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていれば、国民年金の被保険者の種別が次のいずれであっても、1階部分の老齢基礎年金を受給できるのです。
【国民年金の第1号被保険者】
日本国内に住んでいる20歳以上60歳未満のうち、第2号被保険者や第3号被保険者になる要件を満たさない方が該当します。
【国民年金の第2号被保険者】
加入上限が70歳になる厚生年金保険の加入者は、20歳未満や60歳以上の方も含めて第2号被保険者になるため、国民年金と厚生年金保険に同時加入しています。
ただ厚生年金保険に加入している方でも、原則10年以上という老齢基礎年金の受給資格期間を満たしている場合には、65歳以降は第2号被保険者になりません。
【国民年金の第3号被保険者】
連合の改正案では年収要件の引き下げなどで、第3号被保険者を段階的に第1号被保険者に移行し、その後に第3号被保険者を廃止するようです。
年金が支給停止になる収入の目安
2階部分の老齢厚生年金を受給できるのは、原則10年以上という老齢基礎年金の受給資格期間を満たしたうえで、厚生年金保険の加入期間がひと月以上ある方です。
そのため現状は第1号被保険者や第3号被保険者でも、過去に第2号被保険者であった方は老齢厚生年金を受給できる可能性があります。
各人が受給できる老齢厚生年金は、勤務先から受け取った給与(月給、賞与)の平均額や、厚生年金保険の加入月数で決まるため、個人差が大きいのです。
また厚生年金保険に加入している老齢厚生年金の受給者は、年金の全部または一部が支給停止になる可能性がありますが、支給停止が始まる目安は次の合計が50万円を超える場合です。
・ 老齢厚生年金(加給年金は除く)÷12
支給停止になるのは老齢厚生年金だけなので、老齢基礎年金は全額が支給されますが、高所得者の年金が停止になった場合には老齢基礎年金も支給停止になります。
2012年辺りに法案が成立した「社会保障と税の一体改革」の政府原案には、高所得者の年金を停止するための改正案が含まれていましたが、衆議院の修正で削除されました。
この改正案では所得が550万円(年収では850万円相当)を超えると、老齢基礎年金の支給停止が始まり、段階的に年金額が減っていきます。
また所得が950万円(年収では1,300万円相当)以上になると、老齢基礎年金の半額が支給停止になるため、最大の減額幅は2分の1です。
もし政府が関西経済連合会の提言を受け、高所得者の年金を停止するとしたら、これらの所得(年収)を参考にするのではないかと思います。
国民年金の保険料をひと月納付した時に増える年金額
第2号被保険者の給与から控除された厚生年金保険の保険料は、その一部が第2号被保険者と第3号被保険者の国民年金の保険料に使われます。
そのため第2号被保険者や第3号被保険者は、各人が国民年金の保険料を納付しなくても、納付したという取り扱いになるのです。
一方で第1号被保険者だけは2024度額で月1万6,980円となる国民年金の保険料を、納付書などで各人が納付します。
国民年金の被保険者の種別を問わず、20歳から60歳までの40年(480月)に渡って国民年金の保険料を納付すると、満額の老齢基礎年金を受給できます。
満額の老齢基礎年金の金額は年齢によって多少の違いがありますが、例えば68歳以下の場合は2024年度額で、年81万6,000円(月あたり6万8,000円)です。
この金額を満額の要件を満たす480月で割ると、1,700円(81万6,000円÷480月)になるため、国民年金の保険料を1月納付すると、このくらい老齢基礎年金が増えます。
全額免除をひと月受けた時に増える年金額
収入の低下などで保険料の納付が難しい学生以外の第1号被保険者は、各種の免除(全額、4分の3、半額、4分の1)や、納付猶予(50歳未満)を受けられる場合があります。
例えば勤務先から給与を受け取っている単身者(括弧内は扶養親族が1人いる方)が、各種の免除や納付猶予を受けられる前年の年収の目安は次のようになります。
全額免除、納付猶予:122万円(157万円)以下
4分の3免除:143万円(191万円)以下
半額免除:194万円(248万円)以下
4分の1免除:251万円(305万円)以下
この中の全額免除を受けた場合は国民年金の保険料を納付しませんが、1,700円の半額となる850円くらい老齢基礎年金が増えるのです。
その理由として老齢基礎年金の財源は、2分の1が国庫負担(国の税金)になるため、この分だけは年金額に反映されるからです。
他の免除にも国庫負担はありますが、納付猶予には国庫負担がないため、追納(10年以内に実施できる保険料の後払い)するなら、納付猶予の期間を優先した方が良いのです。
納付期間の5年延長は低所得者にメリットがある
国民年金の保険料を納付する上限を60歳から65歳に引き上げして、5年延長するという改正案があります。
2025年の年金改正で実現する可能性が高まったのですが、厚生労働省は2024年7月頃に改正の見送りを発表しました。
5年分の保険料の追加納付で、10万2,000円(1,700円×12月×5年)ほど老齢基礎年金が増えると、その分の国庫負担も増えるため、財源の問題に直面したと推測します。
ただ高所得者の年金が停止され、その方々に対する国庫負担が不要になると、現在よりも財政に余裕ができるため、5年延長を実現しやすくなるのです。
もし納付期間の5年延長が実現した場合、例えば第1号被保険者は約101万円(1万6,980円×12月×5年)ほど保険料の負担が増えるため、納付が難しい方は免除申請します。
こういった点から国民年金の納付期間5年延長は、低所得者にとってメリットのある改正だと思います。