7月の政策決定会合で日銀の政策金利追加利上げが決定し、8月には政策金利が0.25%に引き上げられました。その背景にはどんな事情があったのでしょうか。今回の利上げが日本の経済やわたしたちの生活にどんな影響が及ぶのかも気になるところです。
そこで、今回は東京スター銀行のシニアファイナンシャルプランナー 大塚健氏にインタビューを行い、追加利上げの背景および日本の経済や生活に及ぶ影響についてわかりやすく説明していただきました。
金利が上がったことで日本の経済や生活にどんな影響が及ぶのか?
Q1:今回、日銀が7月の政策決定会合で追加利上げを行った背景は?
今回、日銀が追加の利上げを行ったのは、経済と物価が日銀の見通しに沿った形で推移し、2%の物価目標に近づいたと判断したからです。景気については、企業収益の改善、設備投資のゆるやかな増加がみられています。また、家計においても、賃金面では春季労使交渉で前年を大きく上回る賃上げが実現した大企業だけでなく、幅広い地域・業種・企業規模において賃上げの動きに広がりがみられます。また、個人消費は底堅く、景気はゆるやかに回復していると判断されました。
物価については、賃金の上昇を販売価格に反映する動きが強まってきており、サービス価格のゆるやかな上昇が続いています。企業や家計の予想物価上昇率もゆるやかに上昇しており、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、2024年度に2%台半ばとなった後、25年度および26年度は、おおむね2%程度で推移すると予想されています。
また、過去に比べて為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面があります。為替の変動によって輸入物価のさらなる上昇、物価が上振れるリスクを考慮し、利上げの判断を行ったようです。
Q2:追加利上げはいつ行われたのでしょうか?
政策決定会合で追加利上げが決定した翌日の8月1日より、日本銀行は政策金利をそれまでの0~0.1%から0.25%に引き上げています。
Q3:利上げをすると一般の生活者にどのような影響が及びますか?
金融機関の預金金利やローンの借入金利の上昇による影響などが一般の生活者に及びます。
すでに多くの銀行が、普通預金の金利をそれまでの0.02%から0.1%に引き上げるなど、定期預金も含めて預金金利を引き上げています。これにより、銀行の預金口座にお金を預けている人にとっては、利子所得が増えるメリットがあります。
その一方で、たとえば変動金利型の住宅ローンを利用している人にとっては、変動金利の基準となる短期プライムレートが引き上がるため、借入利息の負担が増加するデメリットがあります。
Q4:利上げによって物価にどのような影響が及ぶでしょうか?その理由は?
金利が上がると金融機関からお金を借りて買い物をする人が減り、消費に回るお金が減ることで物価の上昇が抑制されます。また、現在は為替の変動が物価に及ぼす影響も大きくなっており、過度の円安が是正されることで物価の上昇が抑えられることが期待されます。
Q5:利上げで住宅ローンにどんな影響が出るでしょうか?その理由は?
変動金利の基準となる短期プライムレート(※1)が引き上がり、変動金利型の住宅ローン(※2)を利用している人の借入利息の負担が大きくなります。日本では変動金利型の住宅ローンを選んでいる人が多いので、利上げによる住宅ローンへの影響は大きくなることが想定されます。
※1 金融機関が優良企業向けの短期貸出(1年未満の期間の貸出)に適用する最優遇金利です。
※2 定期的に借入利息の金利の見直しが行われる住宅ローン。年2回、毎月など、住宅ローンの種類によって金利見直しのサイクルは異なります。
Q6:利上げは株価にどんな影響を及ぼすのでしょうか?
一般的に、利上げは株価にマイナスに影響します。利上げによって新規事業への投資や新たな設備投資など、企業がより成長するための選択をしにくくなるためです。利上げによって企業の借入利息の負担が大きくなると、金融機関から融資を受けて設備投資を行うことに消極的になる企業が増えることが、その理由として挙げられます。
Q7:欧米各国は利下げをした、またはする予定ですが、なぜ日本だけ金利のサイクルが違うのですか?
日本だけが長期間デフレであったことが一番大きな要因です。欧米各国では、コロナ禍に対応した景気刺激策として金融緩和を行ってきました。しかし、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を機にエネルギーや穀物など資源の価格が上がって世界的な物価高となったのを受け、
米国では2022年3月
EUでは2022年7月
から段階的に政策金利の引き上げが始まりました。
その影響で、米国やEUではインフレの鈍化が見られ始めたため、EUは2024年6月から利下げを実施、米国でも9月から利下げを実施しています。年内のさらなる利下げも予想されています。
2022年のピーク時に米国の消費者物価指数の上昇率が前年と比べて10%近くまで上昇するなか、日本の上昇率は3~4%程度にとどまりました。そのため、日銀はあくまで「一時的な物価の上昇」であると判断し、政策金利を上げませんでした。
実際、日本の経済成長力は弱く、世界的な物価高の状況においても、その後においてもそれほど物価は上昇しなかったため、欧米各国と利上げのサイクルが異なる状況になりました。
Q8:利上げによる一般企業への影響は?
利上げにより企業の借入利息の負担が大きくなるため、設備投資も消極的になることが想定されます。それにより新規事業への投資や新たな設備投資など、企業がより成長するための選択をしにくくなることが想定されます。
Q9:生活者の資産運用についてのアドバイスをお願いします
インフレの環境では、ただ資産を保有しているだけでは相対的に資産が目減りする状態になります。その一方で、今回の利上げで元本保証の定期預金はこれまでより高い金利で預け入れできる環境になってきました。
東京スター銀行では、「スターワン円定期預金プラス」(預け入れ期間3年で年利0.50%・税引後0.398%)(※1)や、給与・年金受け取り口座指定などのご利用条件に応じて最大年利0.50%(税引後0.3984%)の優遇金利(※2)を適用する「スターワン普通預金」など、お得な金利の商品・サービスを用意しています。
(※1)(※2)ともに 2024年10月1日時点の金利。各商品・サービスの詳細は東京スター銀行の店頭、ホームページにてご確認ください。
・「スターワン円定期預金プラス」について
・「スターワン円普通預金 金利優遇プログラム」について
NISAなどを利用した資産運用については、お客さまの投資目的やリスク許容度に応じて運用していただきつつ、リスクを取らない資産についても金利上昇局面を迎えた定期預金を活用し、保有資産全体をより効率的に運用していただければと思います。
利上げによるメリット・デメリットを理解して今後の生活に生かそう
今回のインタビューでは、
日銀政策金利の追加利上げの背景や日本経済への影響
生活者へのよい影響や悪い影響
についてもわかりやすく解説していただきました。
利上げで生じる物価の抑制、預金金利の上昇は多くの生活者にとってメリットになる反面、住宅ローンの借入利息が増えるのは大きなデメリットとなります。そのことから、これまでとは生活費や資産の運用、負債の返済についてこれまでとは異なる対処や対策が必要となるでしょう。
そのヒントとなる情報が東京スター銀行の回答には多数含まれているので、ぜひ自分にとって身近な情報からお読みになってご自身の生活にお役立てください。
変動金利型住宅ローンが利用者に及ぼす影響について
今後変動金利型住宅ローンの利用者に及ぼす影響について、補足で説明します。
短期で変動金利が急激に上がる可能性は低い
現時点では、短期で変動金利が急激に上がる可能性は低いでしょう。今回の追加利上げで短期プライムレートは1.625%になりましたが、歴史的に見るとこの金利はかなり低い水準です。日銀の利上げへの慎重な姿勢もあり、今後しばらくは短期プライムレートが低水準の状態でゆるやかに推移すると思われます。
金融機関によっては変動金利の大きな上昇に伴い、毎月の返済額が急に増えないようにする「5年ルール」や「125%ルール」があります。それらのルールの適用で当面は返済額の負担を軽減できます。
※ルールの有無については各金融機関にご確認ください。
長期的に見ると返済計画の見直しが必要になる可能性が高い
長期的に見ると、将来変動金利が大きく上昇する可能性がまったくないとは言えません。少しでも金利が上がれば利息の負担も返済総額も増えるので、いずれは返済計画の見直しが必要となる可能性が高いでしょう。
・家計に無理が生じない範囲で毎月の返済額を決める
・一括返済や繰り上げ返済も視野に入れる
・返済期間の延長やローンの借り換えも検討する
それによって、無理なくローンを完済できる形で返済計画を見直せるでしょう。