年金手帳は2022年3月をもって廃止されたので、同年4月1日以降に公的年金に加入する方や年金手帳を紛失した方には、基礎年金番号通知書が交付されます。
政府はマイナ保険証(健康保険証の利用登録を済ませたマイナンバーカード)に原則一本化するため、2024年12月2日に健康保険証を廃止します。
原則一本化といっても、マイナンバーカードを取得するのは義務ではないため、廃止日以降にマイナ保険証を使えない方もいるのです。
こういった方には健康保険証の代わりとして、資格確認書が交付される予定のため、引き続き1割~3割の自己負担で診療を受けられます。
年金手帳と健康保険証の廃止を比較してみると、年金手帳は廃止になっても返却する必要はないのです。
一方で健康保険証は次のように、廃止日以降に返却する物と返却しない物に分かれるため、当面は取り扱いに困るかもしれません。
マイナ保険証は利用率の低迷が続いている
総務省が発表しているマイナンバーカードの保有枚数は、「交付枚数-有効期限切れや死亡などで廃止されたカードの枚数」で算出するため、もっとも実態に近いのです。
2024年9月末時点のマイナンバーカードの保有枚数は約9,388万枚、人口に対する割合(保有率)は75.2%になります。
デジタル庁は「有効登録数/マイナンバーカード保有枚数」で算出する、有効登録率を発表しています。
これを見るとマイナンバーカードの保有者が健康保険証の利用登録を、どのくらい済ませているのかがわかりますが、2024年8月末時点は80.6%でした。
保有者の約8割はマイナ保険証を使えますが、マイナンバーカードを保有していない方も含めた国民全体でみると、マイナ保険証を使えるのは約6割のようです。
いずれも過半数に達しているのに、厚生労働省が発表しているマイナ保険証の利用率は、2024年9月時点で13.87%にとどまっています。
また同年8月時点は12.43%であり、1か月が経過しても僅かしか伸びていないため、このままだと利用率が低迷したまま廃止日を迎えるかもしれません。
公的医療保険ごとの実質的な健康保険証の廃止日
健康保険証の廃止日(2024年12月2日)とは、この新規発行や再発行が停止される日になるため、保有している健康保険証が使えなくなる日ではないのです。
実際に健康保険証が使えなくなる実質的な廃止日は、廃止日から最長1年に設定された、経過措置期間(経過措置で健康保険証を使える期間)が終わる日の翌日です。
この経過措置期間は加入している公的医療保険の種類によって、次のような違いがあります。
国民健康保険
自営業者やフリーランスなどが加入する国民健康保険は、自治体(市区町村、都道府県)と国民健康保険組合が運営しています。
いずれの制度も健康保険証に記載された有効期限(2025年7月末~11月末頃)までを、経過措置期間に設定している場合が多いようです。
健康保険
会社員とその被扶養者が加入する健康保険は、全国健康保険協会が運営する協会けんぽと、健康保険組合が運営する組合健保があります。
いずれの制度も2025年12月1日までを、経過措置期間に設定している場合が多いようです。
後期高齢者医療制度
75歳以上の方などが加入する後期高齢者医療制度は、保険証に記載された有効期限(原則的に2025年7月末)までを、経過措置期間に設定している場合が多いようです。
このように加入する公的医療保険によっては、実質的な廃止日を迎えるまでに1年以上の期間が残されています。
実質的な廃止日を迎えるまでは、医療機関の窓口にある顔認証付きカードリーダーが何らかの理由で使えなかった時などに、健康保険証を代わりに使えます。
これにより医療費の10割負担を回避できるため、2024年12月2日よりも実質な廃止日の方が大切だと思います。
■返却する物と返却しない物に分かれる理由
健康保険証の廃止日以降も上記のように、公的医療保険ごとの実質的な廃止日を迎えるまでは、今まで通りに健康保険証を使えます。
そのため実質的な廃止日までに健康保険の加入者が退職、または自治体が運営する国民健康保険の加入者が別の市区町村に移住した時は、健康保険証を返却します。
一方で実質的な廃止日を迎えると健康保険証は使えなくなるので、返却する必要はないのです。
このような取り扱いの公的医療保険が多いため、廃止日から実質的な廃止日までは退職(移住)するか否かで、健康保険証は返却する物と返却しない物に分かれます。
例えば廃止日以降は使えないと勘違いして、実質的な廃止日を迎える前に健康保険証を破棄すると、退職(移住)する時に返却できなくなるのです。
そうなるとトラブルになる可能性があるため、退職(移住)する予定がある方は特に、実質的な廃止日を把握しておいた方が良いのです。
健康保険証の中で重要なのは「記号・番号」
退職前に健康保険の加入期間が継続して1年以上ある時は、退職後に次のような保険給付を受給できる場合があります。
(1)傷病手当金と出産手当金
傷病手当金とは業務外の病気やケガで仕事を休んだ時、出産手当金とは出産で仕事を休んだ時に、健康保険から支給される保険給付です。
退職時に傷病手当金や出産手当金を受給していた、または受給できる要件を満たしていた場合には、退職後も引き続き受給できるのです。
(2)出産育児一時金
出産した時に支給される保険給付になりますが、退職から6か月以内に出産した場合、退職前に加入していた健康保険の支給対象に含まれます。
(3)埋葬料(費)
死亡した時に支給される保険給付になりますが、退職から3か月以内に死亡した場合、退職前の加入期間が1年以上なくても、退職前に加入していた健康保険の支給対象に含まれます。
退職後に傷病手当金や出産手当金を受給している間、または受給しなくなってから3か月以内に死亡した場合も同様の取り扱いです。
また退職前に健康保険の加入期間が2か月以上ある場合、退職日の翌日から20日以内に手続きすると、退職前の健康保険に最長2年間に渡って加入できます。
こういった任意継続を利用する時や、上記のような退職後の継続給付を請求する時は、健康保険証に記載された「記号・番号」を書類の中に記入するのです。
書類にマイナンバーを記入すると「記号・番号」の記入を省ける場合がありますが、このような対応をしていない健康保険組合もあります。
そのため健康保険に加入する会社員は特に、健康保険証を返却する前にコピーをとったり、撮影して写真に残したりした方が良いのです。
なお原則的にはマイナ保険証が使える方を対象にして、2024年9月頃から「資格情報のお知らせ」という書類が送付されています。
この中にも「記号・番号」などが記載されているため、任意継続や退職後の継続給付の書類を記入する時に役立つと思います。