日本の公的医療保険としては、会社員とその扶養親族が加入する健康保険や、公務員とその扶養親族が加入する共済組合があります。
また自営業者、フリーランス、年金受給者、無職の方などが加入する国民健康保険や、原則として75歳以上の方が加入する後期高齢者医療があります。
前者の健康保険と共済組合の保険料は、勤務先が給与から天引きして納付するため、基本的には滞納の心配がないのです。
一方で後者の国民健康保険と後期高齢者医療の保険料は、年金からの天引き以外の方法で納付している場合には、何らかの事情で滞納する場合があるのです。
健康保険証は2024年12月2日に廃止され、マイナ保険証(健康保険証として利用するための登録を済ませたマイナンバーカード)に原則一本化されます。
またマイナンバーカードを持っていないなどの理由で、マイナ保険証を使えない方には、健康保険証の代わりになる資格確認書が交付されます。
このような切り替えの後に、保険料を滞納した時のペナルティが厳しくなりますが、その理由は次のようになります。
医療費の負担割合は変わらない短期被保険者証
国民健康保険は自治体(都道府県、市区町村)が運営する制度と、国民健康保険組合が運営する制度があります。
前者の自治体が運営する国民健康保険の場合、有効期間が原則として1年の健康保険証を市区町村が交付するのです。
ただ保険料(保険税の市区町村もある)の滞納が続く時には、有効期間が1か月~6か月くらいの短期被保険者証を、市区町村の窓口で交付する場合があります。
その理由としては次の更新までの期間が短いほど、市区町村の職員が滞納者に自主的な納付を促す機会が増えるからです。
短期被保険者証は一種のペナルティですが、これを医療機関の窓口に提示すると、医療費の2割~3割の自己負担で診療を受けられるため、あまり厳しくはないのです。
医療費の自己負担が10割になる資格証明書
短期被保険者証が交付された後も、保険料の納付状況が改善されず、納期限から1年が経過する場合があります。
こういった時には次のような事情がある場合を除き、市区町村は短期被保険者証を回収して資格証明書を交付します。
・ 世帯主の財産が災害で被害を受けた、または盗難にあった
・ 世帯主や生計を一にする親族が病気にかかった、または負傷した
・ 世帯主が事業を廃止した、または休止した
・ 世帯主の事業に著しい損失を受けた
・ これらに類する事由があった
資格証明書を医療機関の窓口に提示した場合、いったんは医療費の10割を支払う必要があるのです。
また後日に申請すると医療費の7割~8割は払い戻しされますが、払い戻しされた分が滞納していた保険料に充てられる場合があります。
そのため資格証明書は短期被保険者証と比較すると、かなり厳しいペナルティになるのです。
なお資格証明書を交付された世帯でも、18歳未満には有効期間が6か月くらいの短期被保険者証が交付されるため、自己負担は従来と変わらないのです。
保険料を滞納した時のペナルティが厳しくなる理由
健康保険証が廃止され、マイナ保険証(資格確認書)に切り替わるタイミングで、短期被保険者証と資格証明書が廃止されます。
廃止後に保険料を滞納した場合、いったんは医療費の10割を支払い、後日に申請して医療費の7割~8割の払い戻しを受けるため、資格証明書と同様の仕組みです。
そのため現在は「滞納 → 短期被保険者証 → 資格証明書」の場合が多いのですが、今後は「滞納 → 事前通知のうえで資格証明書と同様の仕組みを実施」になるのです。
つまり滞納者が10割負担になるのを、瀬戸際で防いできた短期被保険者証がなくなり、滞納すると10割負担になりやすくなるため、ペナルティが厳しくなるのです。
また短期被保険者証から資格証明書になると外見が変わりますが、マイナ保険証は外見の変化がないため、10割負担になったことに気づかない方がいるかもしれません。
後期高齢者医療も国民健康保険と同じように、「滞納 → 短期被保険者証 → 資格証明書」という仕組みがあります。
こういった点から考えると短期被保険者証と資格証明書の廃止は、後期高齢者医療の加入者にも影響があると思います。
また資格証明書が交付された世帯でも、18歳未満は自己負担が従来と変わらない上記のような仕組みを、今後も維持するのかが気になるところです。
滞納の予防策と10割負担になった時の対策
国民健康保険の保険料を滞納しやすいのは、保険料を納付するだけの十分な収入がない方だと思います。
こういった方が保険料を滞納しないための予防策と、滞納して10割負担になった場合の対策は、次のような3つになります。
(1) 確定申告と住民税申告
国民健康保険の保険料の「医療分、後期高齢者支援金分、介護納付金分」は、それぞれが次のような4つの要素で構成されています。
・ 所得割(世帯に属する加入者の所得に応じて負担)
・ 資産割(世帯に属する加入者の固定資産税額に応じて負担)
・ 均等割(世帯に属する加入者数に応じて負担)
・ 平等割(世帯ごとに負担)
ただ市区町村によっては所得割と均等割だけで構成されているため、地域によって違いがあるのです。
また世帯の所得が一定の基準額以下の場合、均等割と平等割が7割、5割、2割ほど軽減される制度があります。
市区町村が世帯全員の所得を把握しており、かつ世帯の所得が軽減の要件を満たしている場合には、自動的に保険料が軽減されます。
一方で世帯の所得が軽減の要件を満たしても、市区町村が世帯全員の所得を把握していない場合には、保険料が軽減されないのです。
そのため例えば失業で所得がゼロになったため、申告の義務がなかったとしても、確定申告または住民税申告を実施して、市区町村が所得を把握できるようにするのです。
(2) 災害などによる保険料の減免(軽減)
災害で被害を受けた時、または事業の休廃止や失業などで所得が著しく減少した時に、国民健康保険の保険料が減免される場合があります。
また65歳未満の方が倒産や解雇などの非自発的な理由で失業した時に、保険料が軽減される場合があります。
これらは (1) と違って適用を受けるためには、市区町村の窓口などで申請や届出を実施する必要があるのです。
(3) 無料低額診療事業
低所得者などが無料または低額な料金で診療を受けられる無料低額診療事業が、全国各地の医療機関で実施されています。
保険料の滞納で10割負担になった時に、利用を検討したい制度だと思いますが、減免の基準や利用手続きなどは医療機関によって違います。
そのため自治体や全日本民主医療機関連合会のウェブサイトなどで、無料低額診療事業を実施する近くの医療機関を見つけたら、そこに問い合わせてみるのです。
また給与所得の源泉徴収票、給与明細、課税証明書などの、世帯の所得状況を証明できる書類を準備しておくと、手続きの際に役立つと思います。
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