2024年7月3日に公的年金制度の財政検証結果が公表されました。
これは5年に一度の割合で公的年金(国民年金・厚生年金)の財政状況をチェックするものです。
今後の経済成長や人口・運用状況などを仮定した上で、今後の公的年金の見通しも公表されます。
今回発表された中で「今後の被用者保険(厚生年金保険)の対象者拡大」がオプション試算の中に含まれている部分に注目してみました。
今後の年金の全体像は?
2024年度の所得代替率は61.2%でした。
2019年度は61.7%でしたので若干の減少になりました。
この所得代替率とは、公的年金の受給開始(65歳)時点での年金額が現役世代の賞与込みの手取り収入額と比較して、どのぐらいの割合になるのかを示したものです。
そして、今回の財政検証では今後について4つのケースが示されています。
・高成長ケースの場合の所得代替率は56.9%:2039年度(2024年度比較・約−7%)
・成長ケースの場合の所得代替率は57.6%:2037年度(2024年度比較・約−6%)
・過去30年投影(横ばい)ケースの場合の所得代替率は50.4%:2057年度(2024年度比較・約−18%)
・成長ケースの場合:2059年度に国民年金の積立金が枯渇する(破綻)
年金財政は2019年度の財政検証と比較すると改善はされているようですが、いずれのケースの場合でも所得代替率は減少しています。
そして、最悪のケースの場合には国民年金の積立金が枯渇するといった予測もされています。
オプション試算では厚生年金保険の加入者拡大も提示
今回の財政検証でもオプション試算といった財政検証に加え、年金制度の今後の課題検討に役立てるための検証作業も行われています。
その中のうちの一つに、被用者保険の更なる適用拡大(厚生年金保険の加入者拡大)も含まれています。
→ 所得代替率の変化:成長ケース+1.0% … 横ばいケース+0.9%
2:1に加え、短時間労働者の賃金要件の撤廃又は最低賃金の引上げにより同等の効果が得られる場合 (約200万人)
→ 所得代替率の変化:成長ケース+1.7% … 横ばいケース+1.4%
3:2に加え、 5人未満の個人事業所も適用事業所とする場合 (約270万人)
→ 所得代替率の変化:成長ケース+3.1% … 横ばいケース+2.7%
4:所定労働時間が週10時間以上の全ての被用者を適用する場合 (約860万人)
→ 所得代替率の変化:成長ケース+3.6% … 横ばいケース+5.9%
参照:令和6(2024)年財政検証結果の概要(第16回社会保障審議会年金部会より )pdf
適用拡大された時の影響は?
現在は扶養とはならずに社会保険に加入する必要がある要件は、年収130万円を超えるまたは1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が正社員の4分の3以上ある労働者となっています。
下記の条件をすべて満たした場合、社会保険に加入する必要があります(106万円の壁)。
・週の所定労働時間が20時間以上
・賃金が月額8.8万円以上
・雇用期間の見込みが2カ月以上
・学生ではない
・事業所の従業員数が101人以上(2024年10月以降は51人以上)
社会保険(厚生年金保険、健康保険)の保険料は労使折半です。
したがって、被用者保険の適用を拡大させればさせるほど、社会保険料の負担が発生する人が増えるだけでなく、企業側にも同じことが言えます。
企業規模の要件撤廃は零細企業や規模が小さいところが多い個人事業所の負担増を意味し、経営を圧迫することにも繋がるでしょう。
ご本人も将来の年金給付が増加するとはいえ、目先の手取額は減少し、家計管理やライフプランに影響を及ぼすことになります。
被用者保険の更なる適用拡大の1.~4.が適用されるとなると、一度に同時に実施されるのではなく数年かけて実施されていくことになるでしょう。
その時には、扶養の範囲内で働くといった選択肢が現実的でなくなる日も来るかもしれません。
考え方を「収入をしっかりと稼ぐ」へシフトしていく必要性もあります。
被用者保険の更なる適用拡大を実施させるとなると紆余曲折を経ることになるでしょうが、家計にも影響することですので今後のニュース・報道などに注意を払っておく必要があります。
これにより、ライフプランニングだけでなくキャリアプランニングの考え方も変化せざるを得ないかもしれません。