医療費に該当する範囲は何となくイメージできるかもしれませんが、意外な費用が医療費になる場合や、支出した目的によっては医療費として認められないものもあるので注意が必要です。
また、支払った医療費はそのまま所得税から差し引かれるわけではありませんので、今回は医療費控除の対象範囲と計算方法について解説します。
医療費控除の対象になる医療費とは
医療費控除の対象となる医療費は、次の2つの要件を満たしているものをいいます。
納税者が自己または、自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払った医療費
対象年分の1月1日から12月31日までの間に支払った医療費
納税者本人が病院等で支払った費用はもちろんのこと、生計を一にする配偶者や親族のために支払った費用も医療費に含まれます。
一方で、家族自身が支払っていた医療費については、納税者の医療費控除には含まれません。
医療費控除は、1月1日から12月31日までに支払った医療費の合計額をベースに計算しますが、治療を受けた年と医療費を支払った年が異なるときは注意が必要です。
たとえば、令和6年12月に入院し、入院費等を支払ったのが令和7年1月の場合、入院費等は令和7年分の医療費控除の対象となります。
医療費控除の対象になる費用の範囲
医療費に該当する主な種類は次の通りですが、目的等によっては医療費の対象外となるものもあるので気を付けてください。
医師による診療料や治療費
治療するために必要になる医薬品の購入費
病院や介護施設の費用
治療に必要な施術費
助産師による分娩の介助の対価
病院関連の支出で医療費に該当するもの
病院での診察料は医療費控除の対象になりますし、入院費も医療費控除の対象です。
しかし、個室を指定した際に生じた差額ベッド代は、医療費控除の対象外です。
入院費のうち医療費控除の対象になるのは、医師等の診療等を受けるために直接かつ通常必要なものをいいます。
入院時に4人部屋があてがわれるのが一般的なケースにおいて、自己都合で個室を使用した際に支払う差額ベッド代は、通常必要なものには該当しないため医療費控除の対象にはなりません。
歯の治療関係で医療費に該当するもの
歯の噛み合わせを治す歯列矯正に関しては、治療目的であれば医療費控除に該当しますが、歯列矯正でも美容目的で行われたものは医療費控除の対象外です。
治療目的の歯列矯正は、子どもの成長阻害を妨げる不正咬合を防ぐための矯正などをいい、歯列矯正でも目的によっては医療費控除の対象から除かれる場合があるので注意してください。
出産関連の支出で医療費に該当するもの
産前産後の通院費用は、医療費控除の対象です。
出産に伴う費用だけでなく、妊娠と診断されてからの定期検診や検査費用、通院費用も医療費控除に該当する医療費です。
ただし、出産のために実家に帰省する際に生じた交通費やホテル代は、医療費控除の対象から除かれますので、医療費の合計額を計算する際は注意してください。
予防接種・健康診断の費用は原則医療費控除の対象外
病気の予防や健康増進を目的とする支出は、原則医療費控除の対象外です。
インフルエンザなどの予防接種は病気の予防を目的としますし、健康診断や人間ドックの費用、ビタミン剤の購入費用も基本的に医療費控除の計算に含めることはできません。
なお、健康診断等の検査結果で重大な疾病が確認され、継続的に治療を行った場合には、健康診断等に関する費用も医療費控除の対象となります。
医療費控除の計算方法
医療費控除の額は、次の計算式で求めます。
<医療費の控除金額の計算式>
医療費-保険金等の補填(ほてん)金額-A=医療費控除額
A = 次のいずれか低い金額
10万円
総所得金額等 × 5%
納税者の総所得金額等が200万円を超える場合には、医療費から10万円を差し引いた額が医療費控除となりますので、1年間で支払った医療費が10万円を超えていないと、医療費控除を適用することはできません。
また、保険金等による補填金があるときは、医療費から差し引くことになります。
出産時には出産一時金の支給を受けますが、出産一時金も補填金額に含まれますので、出産一時金を差し引いた額が10万円を超えていないと、医療費控除を適用できません。
医療費控除の対象となる交通費の範囲
治療等を受けるためにかかった交通費も医療費控除の対象となりますが、対象となる交通費は、原則公共交通機関を利用した際に発生した費用に限られます。
怪我や病気により、公共交通機関を使えない状況下で利用したタクシーの代金は例外的に交通費として認められますが、自家用車で通院した際のガソリン代や駐車料金は、医療費控除の対象にはなりません。
病気等で保険金を受け取った際の医療費控除の計算
医療費控除を計算する場合、病気等が原因として受け取った保険金や出産の一時金は、医療費から差し引かなければなりません。
出産費用として合計70万円の支出があったとしても、自治体から50万円の出産一時金を受け取った場合、医療費控除の対象となるのは差額の20万円です。
なお、医療費から差し引く保険金等の補填金額は、保険金等を受け取ることとなった医療費を限度としますので、保険金等の額が原因となった医療費を超えたとしても、超過部分を他の医療費から差し引くことはありません。
医療費控除で戻ってくる税金は意外と少ない?
医療費控除は所得控除なので、算出された医療費控除の額が還付金としてそのまま戻ってくることはないです。
納税者に適用される所得税の税率が10%の場合、医療費控除の額が1万円のケースにおいて還付される所得税額は1,000円です。(所得税の他に復興特別所得税、住民税も還付されます。)
医療費控除を適用するためには確定申告が必須ですが、還付金の額が少額であれば、手続きするための費用の方が高くなることも考えられます。
税金が戻ってくるのは嬉しい反面、還付金を受け取るために還付金以上の費用を支出するのは本末転倒ですので、医療費控除を適用できる場合でも、状況によってはあえて申告しないのも選択肢です。
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