健康保険加入者が医師より労務不能と診断があった場合に活用できる制度として、傷病手当金があります。
傷病手当金は病気や怪我によって働けない間の被保険者の生活を保障するために設けられた健康保険の制度であり、「業務外」の理由によって病気や怪我をして、そのために仕事を休み、会社から給与を受けられない場合に支給されます。
今回は傷病手当金について解説します。
傷病手当金はどの程度の期間受給できるのか?
傷病手当金が支給される要件として、同一傷病について、通算して1年6か月経過時点まで支給されます。
途中で復職したとしても、1年6か月の期間中に傷病手当金の支給要件を満たした日についてのみ支給されるため、「1年6か月分」との理解になります。
これは2022年の法改正によって支給できる期間のみを通算化できることとなったため、改正後はより長い期間、傷病手当金を受給できるようになりました。
退職後の傷病手当金
医師より労務不能と診断される程度の病気や負傷を負ったため、会社を辞めるという決断に至ることもあり得ます。
そのような場合、傷病手当金は
退職日以前に1年間の被保険者期間があること、
退職日の前日までに連続して3日以上仕事を休み、かつ退職日も休んでいる場合
は、「資格喪失後の継続給付」として受給可能です。
退職日当日に挨拶に行く程度であれば出勤扱いとはなりませんが、この点は留意が必要です。
もちろん、退職後に働けるような状態になった場合は、当然その時点で打ち切りとなります。
複数の関連性のない疾病時の取り扱いは
傷病手当金は傷病ごとに受給期間が決定しますので、複数の傷病で同期間内に傷病手当金の支給が行われ得るとなっても、日額の高い傷病の金額で支給されます。
言い換えると複数の傷病で傷病手当金を申請したとしても、傷病手当金を2重で受給できるというわけではありません。
また、傷病名が複数であっても、関連のある傷病と判断された場合は同じ疾病とみなされることがあります。
その場合は、傷病手当金の支給可能期間は同じ期間として整理されます。
傷病手当金の減額されるケースとは
給与が全額払われるケースは当然、支給されません。
ただし、傷病手当金の日額よりも支払われた給与が低い場合は差額分を受給できます。
年金受給者の場合
退職によって資格喪失をした後に傷病手当金の継続給付を受けており、かつ、老齢年金も受給となる場合は、傷病手当金は支給されません。
ただし、年金の日額が傷病手当金の日額より低い場合は、その差額が支給されます。
次に同じ病気や怪我で障害年金を受給の場合、傷病手当金は支給されません。
ただし、年金の日額が傷病手当金の日額より低い場合は、その差額が支給されます。
また、傷病手当金と重複する期間について遡って年金を受給することとなった場合は、傷病手当金の返還が起こり得ることが考えられますので、注意が必要です。
傷病手当金の申請タイミング
書式の構造上、給与支払い有無の記載欄があることからも事業主の証明が必要となります。
実務上は給与の締めもあることから、1か月単位のサイクルで申請されるケースが多いです。
労災保険との違いや、3日間の待機期間に注意しよう
業務上の理由での病気や怪我の場合には労災保険の範疇となり、健康保険上の傷病手当金を活用することはできません。
また、傷病手当金の待期期間は誤解が多く、通算ではなく、連続して3日の待機期間が必要ですので、途中で出勤した場合(例えば飛び石欠勤)も待期期間を満たさないこととなるため、傷病手当金の支給対象外となる点をおさえておく必要があります。
コロナも終息に向かっているとはいえ、病気や怪我はいつ起こっても不思議ではありませんので、制度上活用できる制度は知っておくことが重要です。