地震で家が燃えた場合に使えるのは火災保険? 地震保険?
住宅ローンを借りている人の団体信用生命保険は地震の時も大丈夫?
今回は、大地震のとき自宅の火災保険や地震保険、そして利用している人に万一のことがあった時に団体信用生命保険はどうなるのかなどを、銀行員が解説していきます。
執筆現在・2024年2月、公的な情報を中心に構成していますので、具体的な内容や個別のケースについては参考サイトや、各種保険契約書類、保険会社等にご自身で確認するようにしてください。
地震と保険1. 火災保険と地震保険
地震などの大災害時に金融機関が取るべき対応などは、その基本事項があらかじめ決められています。
令和6年能登半島地震など、実際に発生した災害の状況などにより、基本事項にその現地状況などを踏まえて、災害発生後に時間を置かず政府(財務省、金融庁、日本銀行などが中心)より金融機関に対し特段の対応が指示されます。
火災保険の基本知識をブラッシュアップ
火災保険は住宅の火災を保障し、損害の状況に応じて保険金が支払われることで自宅を再建築する保険です。
地震、噴火及び、これらによる津波を原因とする損害(火災・損壊・埋没・流失)については、火災保険では補償されません。そのため、地震損害に備えるなら地震保険に加入する必要があります。
火災以外にも風水害や、盗難・個人賠償まで保障してくれるなど、火災保険にはさまざまな種類があります。
火災保険で保険金支払いの対象となる主な損害や費用は、主に次のとおりです。
(1) 火災、落雷、爆発、風災、水災、外部からの飛来物、水漏れ、盗難などの直接的な損害
(2) 上記した損害が発生したとき、発生する付随費用
(3) 消火活動の費用、焼け跡の片付け費用、失火による近所へのお詫び費用
火災保険は補償の内容や範囲、保険金額の設定方法や保険金の計算方法、保険料の払い込み方法など、各保険会社によって違いがあります。
火災保険保険金支払額は、加入時に計算した建物の価値(保険価額)が上限になります。
したがって、ひとつの家に複数の火災保険をかけたり、建物の価値をはるかに超える保険に加入したりして、損害額や建物の価値より多く保険金を不当に受け取る(俗に「焼け太り」と呼びます)ことはできません。
原則として、建物が全焼した結果、保険金額の全部が支払われた場合には、その火災保険契約は終了となります(例外もあり)します。
住宅ローンを借りている場合、銀行などの金融機関から火災保険の加入を求められます。
なぜかというと、建物が火災で焼失すると建物価値はゼロになり、金融機関は住宅ローンの融資(債権)に対する担保が減少してしまう(「保全が劣化する」と表現)からです。火災保険と共に地震保険への加入も依頼されます。
もちろん火災保険への加入は本人の自由意志ではあるのですが、銀行によっては火災保険への加入を住宅ローンの条件としているところが多く、条件どおりにしなければ住宅ローンを借りることができないので、住宅ローンを借りるなら火災保険加入は必須と言えます。
金融機関によっては、火災保険契約を必須としていないところもあります。
地震保険の基本知識をブラッシュアップ
地震保険は、地震、噴火、またはこれらによる津波を原因とする損害(火災・損壊・埋没・流失)を補償する保険です。
地震保険単独では加入できず、火災保険にセットして加入しなければなりません。
現在加入している火災保険に地震保険をセットしていない場合、途中から地震保険に加入することが可能です。
地震保険の保険金額は、火災保険の保険金額に対して、30%から50%の範囲内です。
ただし建物は5,000万円、家財は1,000万円が上限。
地震保険は保険会社による保険金額の違いはなく一律です。
いっぽう建物の所在地(都道府県)と建物の構造によって金額が変わってきます。
これは、建物の構造によって強度が違うことと、一般に地震発生の可能性が高いとされている地域ほど保険料も高くなる原則なので、「南海トラフ巨大地震」が懸念されている千葉県・東京都・神奈川県・静岡県が最も高い水準になっています(筆者調べ・2021年時点)。
大規模地震など「警戒宣言」が発令された場合には、原則として地震保険の新規契約や増額はできないと法律で制限されていますになっています。
なぜかというと、まず地震発生の可能性が極めて高くなってくると、地震保険を契約していない人がいわゆる「駆け込み契約」をすることが考えられます。
しかしこれを認めてしまうと、前から地震保険に加入して保険料を払っていた人とのあいだで、保険料負担などの不公平が生じるので、法律で規制しています。
たとえば私も銀行から住宅ローンを借り返済中、そして火災保険と地震保険にも加入しています。
火災も地震も保険が役に立つことは無く過ごしてこれましたが、当然ながらそれまでに支払った保険料はある意味で「役に立たなかった保険料を無駄に払った」ことにもなります。
もし警戒宣言発令後に地震保険の駆け込み契約ができるなら、私もそのときまで地震保険に加入しないでしょう。
地震保険の対象となるのは「居住用建物」と「家財」に限られています。
居住用建物とは一般的な住宅(居宅・マンションなど)のことで店舗・事務所(併用住宅は対象になる場合も)は対象外になります。
「家財」(「生活用動産」とも)とは、家具家電など生活に使用するモノのことで、以下は家財に含まれないとされています。
(1) 現金(通貨、有価証券も含む)
(2) 預貯金の通帳や証書
(3) 印紙や切手
(4) 自家用自動車
(5) 貴金属、宝石、書画、骨とう品で1個(1組)30万円を超えるもの
建物や家財に対し「全損」「大半損」「小半損」「一部損」のという4段階の損害状況に応じて保険金が支払われます。
(1) 「全損」は契約金額の100%
(2) 「大半損」は契約金額の60%
(3) 「小半損」は契約金額の30%
(4) 「一部損」は契約金額の5%
損害状況の定義については誤解を生じる恐れがあるので記事では触れません。
具体的な事例については、保険会社等に問い合わせるなど、必ずご自身で確認をしてください。
能登半島地震と地震保険の情報
大規模地震で被害が甚大な場合、地震保険で損害を保障しきれない場合には保険金が削減されることも理論的にはあり得ます。
関東大震災級(損害額として11.7兆円・2019年時点)の地震であっても地震保険が全額支払われる、という設定になっているそうです。
筆者が調べによれば、東日本大震災の地震保険金支払額は1兆2,891億円です。
そして記事執筆・2024年2月時点では、能登半島地震において地震保険が削減されるなどの情報はありません。
参照:東京海上日動火災
地震保険では、保険金請求をするためには写真の撮影が必要
建物が被害を受けたなら複数の方向から撮影し、家財は被災前後の違いがわかるような写真が必要など「ビフォーアフター」を証明する写真が必要になります。
Q.地震の被害状況を撮影する必要がある場合、写真はどのように撮影したらよいですか
A.以下を参考に写真撮影を行ってください。
写真は、家庭用プリンターなどで印刷のうえ郵送するか、画像データをウェブ上で提出します。
≪画像元:ソニー損保≫
【建物の写真】
■建物の全景
建物の全景を別方向から2~3枚撮影してください。
■損傷箇所の詳細
損傷状況が分かりやすいように複数の角度・方向から撮影してください。
※屋根の上など、危険な足場で撮影する必要がある場合は、修理業者様にご相談いただくなど、安全を確保したうえで撮影してください。
【家財の写真】
■家財の被害状況
片付け前の転倒・落下・飛散状況などが分かるよう撮影してください。
■損傷箇所の詳細
衣類の汚損、食器の破損、電化製品や家具の落下・転倒時の外観の傷など、家財の品目ごとに損傷状況が分かるよう撮影してください。
このように地震保険(火災保険も流れは同じ)の保険金請求では写真や資料の準備が必要になりますが、大規模地震では生活自体が困難でこうした写真撮影などできないことも、充分考えられます。
そこで能登半島地震地震では、損害保険の業界団体である「日本損害保険協会」により、損害調査・保険金支払対応のために「共同調査」が実施されています。
共同調査とは損害保険会社から派遣された要員などで構成する調査団が、航空写真等で被災地域の状況を確認し、火災による焼失、津波による流失が認められる「全損地域」「一部全損地域」を認定するものです。
そして「全損地域」「一部全損地域」に認定された地域の建物は、現地調査を省略して保険金の支払が可能となります。
参照:日本損害保険協会
令和 6 年能登半島地震にかかる 地震保険金の支払い迅速化の取り組みについて ~航空写真・衛星写真を用いた「共同調査」の実施~(pdf)
令和 6 年能登半島地震にかかる 共同調査の認定結果公表について ~地震保険金の支払迅速化の取り組み~(pdf)
大規模地震では特例的に写真など不要で地震保険を受け取ることもできますが、そういった特例指定がなかったことを考えた私自身(そういえばこれまで自宅や家財の写真など撮影したことも、また撮影しようとも考えてきませんでしたので)も、いざという時のために必要と思い、自宅の外観と各部屋の家財一式を写真に撮りました。
地震と保険2. 団体信用生命保険
団体信用生命保険も、知識のブラッシュアップをしましょう。
団体信用生命保険(略して「団信」とも)は、住宅ローンを利用する人が加入する生命保険で、死亡や高度障害など所定の状態になると保険金が支払われ、住宅ローンが完済される仕組みです。
団体信用生命保険の契約形態は以下の通りです。
(1) 「被保険者」「保険料の支払者」は住宅ローン利用者(債務者)
(2) 「保険契約者」「保険金受取人」は住宅ローンを融資している金融機関(債権者)
(3) 保険料はローン利用者が毎月の支払利息(利息のうち年0.2%相当)で払っていく
この形態を言い換えれば「自分が死んだら住宅ローンがチャラになるから、生命保険の保険料を分割払いしている」とも表現できます。
原則として団体信用生命保険は、たとえば死亡して保険で完済になる場合、その時点のローン残額相当が保険金として住宅ローン残額に支払われるもので、保険金が余ることも、逆に保険金が不足して遺族がローン残額を支払うようなことも原則としてありません。
団体信用生命保険も生命保険の一種ですが、住宅ローンの残額に対する生命保険という特殊な性格から、いわゆる保険証券は発行されません。
団体信用生命保険に加入していることなどは、住宅ローン申込時の契約控えや、団体信用生命保険取り扱い生命保険会社から一定期間ごとに「契約のお知らせ」といった通知がくることで確認できます
これと同様に、保険証券自体が発行されないので、死亡などの場合は住宅ローンを利用している銀行など金融機関に連絡して、案内された手続きをしていくことになります。
団体信用生命保険にもいくつか種類があり、ガンや脳卒中など成人病と診断されたら保険金が支払われるもの(「三大疾病」「五大疾病特約付き」などの名称)や、過去に病気をして一般的な団体信用生命保険に加入できない人向けの、加入条件が緩やかなタイプ(「ワイド団信」など)もあります。
能登半島地震と団体信用生命保険の情報
団体信用生命保険も生命保険の一種ですが、団体信用生命保険を含め生命保険は、戦争などの変乱や大規模災害の時など保険支払が莫大な規模になる場合には、死亡保険金などを減額することもあるといった条項が保険契約の約款などで決められています(これを「免責条項」と呼びます)。
しかし今回、能登半島地震地震ではこの「生命保険の免責条項は適用しない」ことになっています。
そのため、団体信用生命保険も減額されることはないと考えられます。
≪画像元:生命保険協会≫
地震と保険・災害時に注意したいこと
大規模災害ではいろいろな情報が飛び交い、また混乱に乗じて詐欺や違法行為などのトラブルも起きてきます。
能登半島地震では、政府や保険業界などが地震と保険・建物などに関して、さまざまな注意喚起を行なっています。
こうした被害に合わないよう、大変な状況でも気を付けたいものです。