賃金の支払方法は労働基準法で賃金支払いの5原則として、厳格に定められています。
賃金は労働者の生活に密接に関連する重要なものであるためです。
現行の法律でも、労働者の同意を得た場合に限り、銀行その他の金融機関の預金もしくは貯金の口座への振込み等によることができることとされています。
また、時代背景上もキャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進んでおり、賃金受取に活用するニーズも一定程度見られます。
そこで、会社が労働者の同意を得た場合に限り、「一定の要件」を満たす場合において厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の賃金のデジタル払いが可能となりました。
今回は賃金のデジタル払いについて解説します。
実務上多い論点
賃金のデジタル払いについて、実務上多い論点を解説します。
強制されるのか?
賃金のデジタル払いは、あくまで選択肢の1つです。
よって、労働者自身が希望しない場合は、旧来通り銀行口座等で賃金を受け取ることが可能です。
また、会社側が希望しない労働者に対して強要することはできません。
また、
賃金の一部のみを資金移動業者口座で受け取り、
残りを銀行口座等で受け取ることも可能
とされています。
また、会社がデジタル払いの導入を強制されることもありません。
ポイントや仮想通貨も選択肢に含まれているのか?
賃金のデジタル払いを選択した場合であっても、「ポイント」や「仮想通貨」など現金化できない支払方法は認められていません。
いつから開始されているのか?
2023年4月1日以降、資金移動業者が厚生労働大臣に対して指定申請を行うことができるようになりました。
厚生労働省にて申請を受け付けた後、厚生労働省内で審査を行い、基準を満たしている場合にその事業者を指定することとされています。
指定された資金移動業者が破綻した場合は?
万が一、厚生労働大臣の指定する資金移動業者が破綻した場合にはどのような取り扱いとなるのでしょうか。
もし、そのような緊急事態となった場合は、口座の残高が保証機関から速やかに弁済されることとなります。
資金移動業者により具体的な弁済方法は異なりますので、検討材料として加えることが望まれます。
会社と労働者の手続き
労働者の過半数で組織する労働組合がある場合は、その当該労働組合と(ない場合は労働者の過半数を代表する労働者代表)との間で、対象となる労働者の範囲や取扱指定資金移動業者の範囲等を記載した労使協定を締結しなければなりません。
その上で賃金のデジタル払いを希望する労働者は、注意事項等の説明受け、制度を十分理解した上で、
賃金のデジタル払いで受け取る賃金額、
資金移動業者口座番号、
代替口座情報等
を同意書に記載し、会社に提出することとなります。
メリットとデメリット
近年は銀行の店舗数も軒並み減少しており、また、外国人労働者の場合は銀行口座の開設に時間を要することがあります。
そのような労働者にとってはメリットとなるでしょう。
また、QRコード決裁や電子マネー決裁が普及すると、ポイント還元の面でより多くの恩恵を享受でき、労働者としてのメリットは決して小さくないでしょう。
また、会社としては一部をデジタル払い、残りを給与口座への振り込みと指定される場合には二重で管理しなければならず、運用を進めていくにあたり相当な手間が予想されます。
もちろん仕組化してしまえば徐々に手間は少なくなるでしょうが、そこにいきつくまでは一定の労力は要するでしょう。
賃金の確実な支払いによって労働者保護が図られる
最重要論点として、賃金等の確実な支払によって労働者保護が図られることです。
万が一、資金移動業者が破綻した場合にも弁済が図られる等の取り決めがあるものの、多くの企業で導入に至るには一定の時間が要すると考えます。
また、あくまで労働者が希望する場合に限るという点もおさえておきましょう。