年金制度とは逆行するものとして、近年上昇を続けるものに最低賃金があります。
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最低賃金は賃金の時間給あたりの「最低限度」を定め、会社はその最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない制度です。
特に都心部では1,000円を超えているところも増えており、来年以降もさらに上昇曲線を辿る想定です。
そこで、今回は最低賃金に実務上の注意点も盛り込み、解説します。
最低賃金とは
最低賃金といっても厳密には2種類の最低賃金があります。
1つは地域別最低賃金と呼ばれ、
もう1つは特定最低賃金と呼ばれます。
もし、地域別最低賃金特定最低賃金の両方が同時に適用される場合には、会社は高い方の最低賃金額以上の賃金を支払う必要があります。
なお、
「地域別最低賃金」は、産業や職種に関わりなくいずれかの都道府県内の会社で働くすべての労働者とその会社に対して適用されるもので、
「特定最低賃金」は特定の産業について設定されている最低賃金のことを指します。
テレワークの場合
徐々に少なくなってきた業種もあるものの、テレワークを継続して実施する企業は相当数あります。
この場合、最低賃金については、テレワークを行う労働者の所属する会社がある都道府県の最低賃金が適用されます。
例えば東京に会社があり、その会社に属する労働者が千葉県の自宅でテレワークを行っていた場合は、千葉県ではなく、東京都の最低賃金が適用されます。
複数の支店などがある場合
実際にどこで働くかが基準となります。
例えば本社が東京都で職場が千葉県の支店と言う場合は、働いている場所は千葉県ですので、千葉県の最低賃金が適用されます。
最低賃金に含めることができないもの
原則として、労働の対価とは言えないものは当然含めることはできません。
例えば通勤手当や単なる経費精算、結婚祝い金などが挙げられます。
また、労働の対価ではあっても残業代も含めることはできません。
実務上の注意点
毎年10月頃に改正が行われますが、最低賃金と同じ額で働いている労働者で、かつ、賃金の締め日が15日や20日となっている場合は同じ給与計算期間で時給を変える(改正後の最低賃金にする)対応をしなければなりません。
当然、時給が上がれば残業代の単価も上がることとなりますので、影響範囲は一定の範囲にまで及びます。
控除項目についても時間給が上がることで必然的に雇用保険料も上がりますし、場合によっては社会保険の標準報酬月額の改定にも影響が及ぶことも想定されます。
これは月額変更届と呼ばれ、
固定的賃金の変動(今回で言えば時間給の上昇)があり、
3か月の平均額が従前の標準報酬月額に対して2等級以上の変動があり、
各月の給与の支払基礎日数が17日以上であること
の3つの要件を全て満たした場合に対象となります。
パートやアルバイトの場合、いずれかの月で17日以上の出勤がないこともありますので、全ての要件を満たしているかの精査は重要です(毎月の保険料額と将来の年金額にも影響を及ぼすため)。
業務改善助成金
業務改善助成金とは会社内の最も賃金が低い労働者の時給を引き上げた際に、生産性向上のための設備投資(例えばPOSシステム等の導入)等を行い、その設備投資等にかかった費用の一部を助成される制度です。
最低賃金は今後も上昇傾向が見込まれ、生産性向上のための設備投資を予定している場合は特に積極的に活用したい制度です。
「働く場所」の多様化でルールには注意が必要
最低賃金は上昇傾向にあるだけでなく、他の要因として、近年は働き方改革やコロナの影響もあり、「働く場所」の多様化が見られます。
会社、テレワークの場所などの都道府県が複数にまたがっている場合はどの都道府県の最低賃金が適用されるのか不明瞭なことも想定されますが、ルールとしては決まっていますので、実務上は注意しなければなりません。