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扶養や税金に関する「年収の壁」を超えると、年末調整が難しくなる理由


社会保険(健康保険、厚生年金保険)の加入者に扶養されている、年収130万円未満などの要件を満たす配偶者は、次のような保険者(運営主体)の認定を受けると、健康保険の被扶養者になります。

健康保険組合

大企業に勤務する会社員と、その被扶養者が主に加入している組合健保の保険者であり、企業が単独または共同で設立します。

全国健康保険協会

健康保険組合が設立されていない中小企業に勤務する会社員と、その被扶養者が主に加入している、協会けんぽの保険者になります。

これにより健康保険の被扶養者が保険料を納付しなくても、病気やケガになった時、出産した時、死亡した時などに、健康保険から保険給付が支給されるのです。

健康保険の被扶養者になれる要件を満たす配偶者のうち、20歳以上60歳未満の方は、社会保険の加入者の勤務先を経由して届出を行うと、国民年金の第3号被保険者になります。

第3号被保険者であった期間は、国民年金の保険料を納付しなくても、保険料を納付した期間と同様の取り扱いになるのです。

こういったメリットのある健康保険の被扶養者になったり、国民年金の第3号被保険者になったりすることを、社会保険の扶養に入ると表現する場合があります。

また130万円などの扶養や税金に関する年収の基準額を、「〇〇の壁」と表現する場合があります。

扶養や税金に関する 「年収の壁」を超えると150万円の壁を超えると年末調整が難しくなる

130万円の壁はなくなる?「2年間だけの時限措置」経過後はどうなるのか 社労士が解説

一時的な増収なら2年連続まで社会保険の扶養にとどまれる

2023年10月以降に適用される、都道府県別の最低賃金(企業が支払わなければならない賃金の最低額)の全国加重平均が1,004円(時給)になったため、初めて1,000円を超えたのです。

最低賃金の引き上げが加速しているのは、ここ最近の急減な物価上昇の影響が大きいようです。

実際に各人の時給が上がった場合には、従来よりも労働時間を調整しないと、130万円の壁を超えてしまう可能性があります。

また労働時間の調整が増えると、企業の人手不足の問題が従来よりも深刻になるのです。

この問題に対して政府は、どのように対応するのかと思っていたら、一時的な増収(例えば残業代の増加)で130万円の壁を超えた場合、2年連続までなら社会保険の扶養にとどまれる方針を決めました。

2023年10月から開始されるので、2023年と2024年に130万円の壁を超えても、2025年に超えないようにすれば、社会保険の扶養にとどまれるのです。

ただ一時的な増収であることの企業の証明が必要になり、また健康保険の被扶養者の認定に関しては、健康保険組合などが個別に判断するようです。

103万円の壁を超えると所得税が発生する

正社員、パート、アルバイトなどに課税される所得税は、大まかに表現すると次のような手順で、勤務先の企業などが計算するのです。

(A) 年収(1~12月の給与を合計した金額)-給与所得控除(概算の必要経費であり最低額は55万円)=給与所得

(B) 給与所得-所得控除(基礎控除、勤労学生控除、配偶者控除、配偶者特別控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除など全部で15種類)の合計額=課税所得

(C) 課税所得×5~45%(課税所得に応じて段階的に税率が上がる)-税額控除(住宅ローン控除など)の合計額=所得税

例えば年収が103万円だった場合、ここから (A) に記載した給与所得控除の55万円を差し引くと、給与所得は48万円になります。

また給与所得の48万円から (B) に記載した基礎控除の48万円を差し引くと、課税所得はゼロになります。

そのため年収を103万円以下に抑えれば、所得税を負担しなくても良いのです。

103万円が代表的な年収の壁になっている理由のひとつ目は、このように103万円の壁を超えると、所得税が発生する可能性があるからです。

所得税の負担を軽減してくれる所得控除

103万円の壁を超えて、例えば130万円まで働いた時に、基礎控除以外の所得控除がなかった場合、次のように課税所得はゼロにならないため、所得税を負担する必要があります。

130万円-55万円-48万円=27万円

この負担を軽減するためには、受けられる所得控除がないのかを調べ、見つかったら年末調整の書類に、必要な事項を記入するのです。

例えば勤労学生控除という、働く学生を対象にした所得控除を受けられるとわかり、必要な事項を年末調整の書類に記入した場合、次のように課税所得はゼロになるため、所得税の負担はなくなります。

130万円-55万円-48万円-27万円(勤労学生控除)=0

また免除を受けていた国民年金の保険料を追納する、家族が加入する後期高齢者医療の保険料を代わりに納付する、iDeCoに加入して掛金を拠出すると、所得税の負担を軽減できる場合があります。

その理由として国民年金や後期高齢者医療の保険料は社会保険料控除、iDeCoの掛金は小規模企業共済等掛金控除という所得控除になるからです。

こういった所得控除を受けるには勤労学生控除と同じように、年末調整の書類に必要な事項を記入する必要があるため、その分だけ年末調整が難しくなるのです。

150万円の壁を超えると年末調整が難しくなる

給与収入のみで年収が1,095万円以下の会社員の夫が、給与収入のみの妻を対象にして、38万円の配偶者控除を受けられるのは、妻の年収が103万円以下の場合です。

103万円が代表的な年収の壁になっている理由のふたつ目は、このように配偶者控除を受けられる基準額になっているからです。

年収が103万円を超えると配偶者控除を受けられなくなりますが、103万円超~201万5,999円以下であれば、控除額が段階的に縮小する配偶者特別控除を受けられます。

また妻の年収と夫が受けられる配偶者特別控除の関係は、次のようになっています。

・ 103万円超~150万円以下:38万円

・ 150万円超~155万円以下:36万円

・ 155万円超~160万円以下:31万円

・ 160万円超~166万7,999円以下:26万円

・ 166万7,999円超~175万1,999円以下:21万円

・ 175万1,999円超~183万1,999円以下:16万円

・ 183万1,999円超~190万3,999円以下:11万円

・ 190万3,999円超~197万1,999円以下:6万円

・ 197万1,999円超~201万5,999円以下:3万円

・ 201万5,999円超:0円

妻の年収が201万5,999円を超えると、夫は配偶者控除と配偶者特別控除の両者を受けられなくなるので、税法上の扶養から外れると表現する場合があります。

一方で年収が103万円超~150万円以下であれば、配偶者控除と同じように38万円の控除を受けられるため、150万円も年収の壁として意識されているのです。

夫が配偶者特別控除を受けるためには、次のような名称の年末調整の書類に、妻の年収の見積額などを記入して、勤務先に提出する必要があります

「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」

このように実際の金額ではなく見積額を記入するのは、妻の年収が確定する前の11月頃に、年末調整の書類を提出する場合が多いからです。

妻の年収が150万円超~201万5,999円以下の場合、年収の見積額と実際の金額が掛け離れてしまうと、夫が受けられる配偶者特別控除の金額が変わってしまう可能性があります。

そのため150万円の壁を超えると、年末調整が難しくなるだけでなく、間違いが起きやすくなります。

どのくらいの年収まで働くのかを決める際には、こういった年末調整の書類を書く時の難易度も、参考にした方が良いと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)

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