正社員、契約社員、パートタイマーなどの、雇用されて働いている方に課税される所得税は、次のような手順で勤務先が計算する場合が多いのです。
(A) 1月~12月に勤務先が支払った給与(通勤手当のうち非課税になる分などは除く)の合計-給与所得控除=給与所得
(B) 給与所得-所得控除(配偶者控除、扶養控除、生命保険料控除、地震保険料控除、ひとり親控除など現在は15種類)の合計=課税所得
(C) 課税所得×5~45%の税率(課税所得の金額に応じて段階的に上昇)-税額控除(配当控除、住宅ローン控除など)の合計=所得税
以上のようになりますが、 (A) を見るとわかるように所得税は、「1月~12月に勤務先が支払った給与の合計」が確定するまで、正確な金額を計算できないのです。
そのため勤務先は1月以降に支払う給与から、扶養親族の人数などを元にして計算した、概算の所得税を天引きしていきます。
また年末を迎える頃になると、「1月~12月に勤務先が支払った給与の合計」が確定するため、勤務先は正確な金額の所得税を計算します。
この正確な金額の所得税と、1月以降の給与から天引きした概算の所得税の合計を比較し、前者の方が多かった場合には、勤務先は足りない分を従業員から徴収します。
一方で後者の方が多かった場合には、勤務先は取り過ぎた分を従業員に還付するのです。
こういった年末調整の手続きによって、所得税の過不足が精算されるため、年収が2,000万円超などの一部の方を除き、確定申告は必要ありません。
また年末調整の際に計算された年収などのデータは、各従業員が住んでいる自治体に送付され、それを元にして翌年6月以降の給与から天引きされる、1年分の住民税が決定されます。
ここ最近の年末調整は昔と比べると、大変になったという印象がありますが、その理由は主に次のような3つだと推測するのです。
会社員に扶養されている方の年収目標は、2025年までは150万円になる
理由1:配偶者控除や配偶者特別控除が複雑になった
(B) に登場する所得控除の中で、多くの方が名称を知っているのは、年収103万円以下などの要件を満たす配偶者を対象にした、配偶者控除ではないかと思います。
例えば年収のすべてが給与収入の会社員の夫が、要件を満たす妻を対象にして配偶者控除を受ける場合、昔は夫の年収にかかわらず、配偶者控除の金額は一律でした。
しかし現在は次のように、夫の年収によって受けられる配偶者控除の金額が変わるだけでなく、夫の年収が1,195万円を超えると、配偶者控除を受けられなくなるのです。
・ 年収が1,095万円以下:38万円
・ 年収が1,095万円超~1,145万円以下:26万円
・ 年収が1,145万円超~1,195万円以下:13万円
・ 年収が1,195万円超:0円
妻の年収が103万円を超えると、配偶者控除を受けられなくなりますが、年収が103万円超~201万5,999円以下の範囲内にあれば、配偶者特別控除を受けられます。
昔は妻の年収だけで、受けられる配偶者特別控除の金額が決まったのですが、現在は夫の年収も判断材料になっています。
そのため現在の配偶者特別控除の金額は、夫と妻の年収の組み合わせによって、1万円~38万円に細かく分かれているのです。
このように配偶者控除や配偶者特別控除が複雑になったため、年末調整が昔より大変になったのです。
なお夫の年収が1,095万円以下、妻の年収が103万円超~150万円以下という組み合わせの場合、配偶者特別控除の金額は38万円になるため、配偶者控除と同程度の節税効果があります。
理由2:扶養控除の対象者などが改正された
年収103万円以下などの要件を満たす、配偶者以外の所定の親族を対象にした、扶養控除という所得控除もあります。
昔は子供の年齢にかかわらず扶養控除を受けられたのですが、こども手当(現在は児童手当)が創設されたタイミングで、その年の12月31日時点で16歳以上の子供に限定されました。
扶養控除の金額は配偶者控除と違って、親の年収にかわわらず38万円になります。
ただ扶養する子供の年齢が、その年の12月31日時点で19歳以上23歳未満の場合、25万円の上乗せがある特定扶養親族に該当するため、扶養控除の金額は63万円(38万円+25万円)になります。
特定扶養親族に該当する場合の上乗せは昔からあったのですが、かつては16歳から18歳までの子供を対象にした上乗せもあったので、特定扶養親族の範囲は縮小しています。
これらの改正によって16歳未満の子供は、税金の計算に影響を与えなくなったのかと思ったら、住民税が非課税になるか否かを判定する際には、16歳未満の子供を含めても良いのです。
つまり16歳未満の子供が多い親の方が、住民税が非課税になりやすいため、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の「住民税に関する事項」に、16歳未満の扶養親族を記入する欄が設けられました。
23歳未満の子供がいる方は特に、こういった扶養控除の改正に対応する必要があるため、年末調整が大変になったのです。
理由3:所得控除の種類が増えた
一定の要件を満たす生命保険に加入している方は、生命保険料控除という所得控除を受けられます。
昔の生命保険料控除は2つの区分(一般の生命保険料控除、個人年金保険料控除)でしたが、介護医療保険料控除が新設されたため、現在の生命保険料控除は3つの区分になっているのです。
また3つの区分になった時に、控除できる上限額などが改正されたのですが、昔(2011年12月31日以前)に契約したものは、改正前の上限額などが適用されます。
ただ2012年1月1日以降に契約を更新、特約を付加、転換を実施した場合は原則的に、3つの区分になった後の上限額などが適用されるため、かなり複雑になったのです。
損害保険の分野に関しては、損害保険料控除が廃止されると共に、地震保険料控除という所得控除が新設されました。
ただ一定の要件を満たす長期損害保険契約の保険料は、地震保険料控除の対象になるという経過措置があるため、こちらも複雑になったのです。
その他にシングルマザーやシングルファザーなどが受けられる、ひとり親控除という所得控除が新設されています。
このように所得控除の種類が増えると共に、経過措置で内容が複雑になったというのも、年末調整が大変になった理由のひとつです。
e-Taxで確定申告を行うという新しい対処法
年末調整が昔より大変になったのは、理由1~3に記載したように、(B) で給与所得から控除する所得控除が複雑になったからだと思います。
そのため年末調整の書類を記入する際には、国税庁のウェブサイトなどを見て、それぞれの所得控除を受けられる要件を満たしているのかを、改めて確認したいところです。
本来は対象外の所得控除を受けた場合や、本来は受けられる所得控除の漏れがあった場合には、勤務先に年末調整のやり直しをお願いしたり、自分で確定申告を行ったりするという対処法があります。
自分で確定申告を行う際は、紙の書類に記入して税務署などに提出するより、スマホ(パソコン)とマイナンバーカードを使って、e-Taxで確定申告を行うという、新しい対処法の方が良いと思います。
その理由としてマイナポイント事業の影響などにより、マイナンバーカードの人口に対する交付枚数率が8割近くに達したため、昔よりもe-Taxを利用しやすくなったからです。
また年末調整の後に勤務先から配布される「給与所得の源泉徴収票」を、スマホのカメラで撮影すると、この中のデータが自動入力されるので、所得税の知識が少ない方でも取り組みやすいと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)
【年末調整】生命保険料控除は自分だけでなく「家族名義」の保険料も対象になる