親や祖父母など直系尊属から、自己の居住の用に供する住宅用家屋を取得する資金の贈与を受ける場合、一定の条件を満たせば500万円(省エネ・耐震・バリアフリー住宅1,000万円)まで贈与税が非課税になり、しかもこの特例を使用してもらった贈与は相続税の計算上でも、一切持ち戻しがありません。
来年から、相続税の課税遺産に加算する暦年贈与が3年から7年以内(経過措置あり)と改正されますが、この「住宅取得資金贈与の非課税特例」は、もともと非課税のため対象外です。
さらに、今のところ、今年最後までの特例で、令和5年12月31日までに贈与を受け、令和6年3月15日までに住宅取得資金を全額あてなければ適用できません。
特例の期間の延長は現在未定ですが、親からの贈与にて住宅の取得を計画されている方にとっては、節税面では大変お得な制度で、最後のチャンスかもしれません。
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遺産分割での民法の扱い
「住宅取得資金贈与の非課税贈与特例」による贈与は、贈与税にも相続税にも加算されませんが、遺産分割時にもめごとの種となる可能性があります。
一般に、相続人への住宅資金贈与は遺産の前渡し(特別受益)とみなされ、何年前の贈与であったとしても、遺産に贈与分を加算したうえ、相続分を調整することになります。
もちろん生前贈与は「お互いさま」であったり、それぞれの事情をくみして、特別受益についてあえて主張しなければ、遺産分割はどんな分け方でもいいのです。
しかし、相続人間でもめてしまった場合は、相続税上の持ち戻しとは関係なく、民法上は、何年前の贈与(特別受益)でも対象となります。
住宅資金贈与は、黙っていればわからない?
筆者は会計事務所に長年勤務していたのでわかったのですが、税務署が行う相続税調査において、故人の生前贈与は1番の調査ポイントのようで、故人の通帳の履歴は必ず確認作業が行われていました。
住宅資金贈与がありながら期限内までに無申告だった場合、非課税は適用できず、その贈与は暦年課税の扱いとなり、高い贈与税及び無申告加算税に延滞税がかけられます。
贈与税の無申告は、相続が発生し相続税の調査で発覚していました。
相続税では、3年以上前の暦年贈与なら当然加算対象ですし、形式的に名義を変えただけなら名義預金(課税財産)として何年前のものでも加算対象です。
相続時精算課税を選択していれば、これも必ず加算です。
税務署には、隠せません。
贈与税の内容の開示請求手続きとは
では、「故人から受けた贈与」について、自分(贈与を受けた人)以外の相続人は、税務署に開示請求できるかというと、
- 相続開始前3年以内の贈与
- 相続時精算課税制度適用分
のみ、請求できます。
つまり、暦年贈与であれば3年(改正後~7年)までと、相続時精算課税であれば開示されますが、遺産分割で特別受益の対象になる住宅取得資金贈与、暦年贈でも3年超(~7年超)前の贈与は開示されません。
なぜなら、相続税上は加算対象でないからです。
これからの相続時精算課税は、ここが注意
来年から始まる新・相続時精算課税制度は、毎年110万円の基礎控除があり、こちらを選択される方が多くなるように思います。
しかし前記の「贈与税の開示請求」の対象となるため、相続時精算課税制度適用分については、他の相続人にも確認ができるわけです。
では、言った方がいいのか?
私見ですが、親から贈与を受けた場合、あえて他のきょうだいに言う必要はないと思います。
ただし、聞かれたら正直に話すのがいいかと思います。
ここで隠そうとすると、信頼関係も無くなる上、相続時に発覚する可能性は高いです。
余談ですが、筆者は遺言執行する際ある相続人から、他の相続人の取得分を「あえて言わないでください」と言われたことがあります。
なんとなく、その気持ちわかるような気がしました。(執筆者:FP1級、相続一筋20年 橋本 玄也)
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