相続の仕事を長年していて分かったことがあります。
税金以外で相続の相談にいらっしゃるのは、子供のいない夫婦からの相談が意外に多かったことです。
そしてその相談は、配偶者のどちらかが亡くなられて、問題に気づいてからの駆け込みです。
筆者も、相談を受けて、初めて子供のいない方の相続の問題点が見えてきました。
子供のいない夫婦で、相続が発生した場合、相続人は、配偶者だけでなく、亡くなられた本人の直系尊属(両親等)または、直系尊属が亡くなっていれば、きょうだい(甥姪)も相続人となります。
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遺言書の作成を検討すべきケース
遺言書は、自分のために作るのではありません。
あくまで自分が亡くなった後、残された方のために作るものです。
筆者が、ある資産家の子供のいない夫婦の相続を担当した時の実話です。
たまさか、信託銀行さんのセミナーに誘われ田中尚子(仮名)さんは、自身の夫 田中 眞一(仮名)が亡くなった時、相続人が自分だけでなく、夫のきょうだいと姪と遺産分割について話し合い、相続人全員の合意がないと預金を下ろせないことを知りました。
そしてその問題を解決するのには、夫が遺言書を作成する事であることを知りました。
問題は、遺言作成者の理解
遺言書を作成しておいても、一般には、相続人が、遺留分を請求することができ、後日の火種となる事もありますが、きょうだい、甥姪には、遺留分がありません。
遺言書の作成さえしてあれば、田中家の問題は解決することが分かり、妻の尚子さんはさっそく、夫に遺言書を作るように言ったところ、
「俺の、きょうだいには相続時に気持ちよく判を押すように話をしてあるから、不要だ」
といいます。
確かに、きょうだいに話をして、了解をしていただいているのに、あえて作成するのは、きょうだいを信用していないようで、筆者も、その気持ちが理解できないわけではありません。
あとに残される、妻の立場
これは、筆者が長年相続実務をやらせていただいた、実感です。
特に、きょうだいに、子供のいる方とそうでない方がいることで、考え方は二分されます。
夫が亡くなった時、妻は自分のきょうだいでなく、夫のきょうだいと、夫婦で作り上げてきた財産について、話し合いをすることがいかに大変か、そして関係性が悪ければ、なおさらです。
筆者は、途方に暮れた妻を何人もみてきました。
田中家に相続が発生した後に、判明したこと
実際、尚子(仮名)の夫 眞一(仮名)さんが亡くなった時に、大半の相続人は、妻 尚子さんに遺産を譲ることで合意されました。
ところが、問題は、相続人の調査をしたところ、夫 眞一(仮名)の姉は、すでに亡くなっており、その姉には、生後間もなく他家に養子に出された子(姪)がいることが判明しました。
養子に出ても、普通養子であれば、相続人である地位は変わりません。
その姪が相続人として、遺産分割に参加することが判明しました。
姪に連絡したところ
姪に手紙を出したところ、「法定相続分を希望する」と、姪の依頼した弁護士さんより手紙がきました。
要求されたら、権利としては確かにあるため、姪に、法定割合を渡すことで、分割協議書は完成いたしました。
眞一さんも、その事情を知っていれば、あらかじめ事情のある姪に遺産の一部をあげる遺言書を作成してもいいわけです。
遺言書作成の前に、さまざまな相続人の確認
遺言書は、残された人が、手続きで苦労しないために作成するものです。
自分が亡くなった時に、誰が相続人となるかを確認したうえで内容を検討してください。
そういった意味で、遺言書作成前に、推定相続人を戸籍で確認することがポイントです。
また、想定した相続人が、先に亡くなっていることもあり、そこは、また別の機会に書きます。(執筆者:FP1級、相続一筋20年 橋本 玄也)
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