年金制度に限らずどの制度にも言えることですが、制度を作り、維持していくにはどこかで一定の線引きをしなければなりません。
青天井に給付財源があるわけではなく、一定のルールの元に給付をおこなう必要があるからです。
今回は、年金制度において法改正が望まれるものの、現行制度では線引きが行われている部分を見ていきましょう。
1. 同年齢夫婦の加給年金
まず加給年金とは、厚生年金に20年以上加入していることが必要で、その方が65歳になった時に生計を維持する65歳未満の配偶者や18歳年度末前の子(障害を有する場合は20歳未満)がいる場合、2階部分である厚生年金からもらえる老齢厚生年金に一定の加算として、年金版「扶養手当」のような給付のことを指します。
「生計を維持する」の判断にあたっては、
- 生計を同じくしていること(同居していることや別居していても仕送りをしていること、あるいは健康保険の扶養親族等であること)と、
- 生計を維持されている者の前年の収入が850万円未満であること、または所得が655万5千円未満であること
です。
加給年金の金額は、
- 配偶者については22万8,700円(令和5年度)、
- 1~2人までの子については22万8,700円(令和5年度)、
- 3人目以降の子については7万6,200円(令和5年度)です。
また配偶者の加給年金には、生年月日に応じて3万3,800円から16万8,800円(令和5年度)の特別加算がつきます。
お察しの通り、例えば65歳の夫と妻が同じ年齢の場合、夫が厚生年金に20年以上加入していたとしても、子供が既に大学を卒業していれば、生計を維持する配偶者がいたとしても「65歳未満」ではありませんので、加給年金はまったくないということになります。
もちろん健康保険上も税法上も扶養していたとしても同じ理屈で「65歳未満」ではないため、加給年金は全くもらえないということです。
夫婦が同年代だからという理由のみで生計維持している状況に、年の差夫婦と比べて決定的な差があるとは考えにくいため、がっかりされる方も少なくありません。
もはや年の差夫婦よりもお互いが高年齢であり、病気にかかる可能性が高いのではという声も少なくありません。
2. 遺族厚生年金の性別の違い
女性がもらう遺族厚生年金は、男性がもらう遺族厚生年金と違い、受給権発生、受給開始の制限がありません。
他方、夫の場合、遺族厚生年金については「55歳以上」でなければそもそも受給資格が発生しません。
それだけでなく、「55歳以上」であっても実際の支給は60歳になる月の翌月からとなります。
- 女性の社会進出が増えてきたこと、
- 男性の方が女性より平均余命は短い(平均余命が短いということは一般的には病気リスクも高くなり得る)点(あわせて経済状況等も)
を勘案すると、今後この点は検討されるのかもしれません。
もう1つ、遺族厚生年金は再婚しない限り、終身でもらえる年金ですが、夫が死亡した当時、「30歳未満の子のない妻」への遺族厚生年金は受給権発生から5年間しかもらえません。
これは5年経つと年金が全く支給されなくなるということです。
また、夫が死亡した当時、「30歳未満の子のある妻」であっても子の死亡によってその妻が30歳未満の間に遺族基礎年金の受給権がなくなったあと、5年経過すると遺族厚生年金の受給権もなくなってしまいます。
この部分については、遺族年金に依存せずとも年齢的にまだ十分に働くことができると考えられているためです。
有効的な制度改革への期待が高まる
今回は同年齢夫婦の加給年金と遺族年金の性別の違いをピックアップしましたが、年金制度は複雑であり、他にも検討が望まれる部分が多くあります。
特に今後は子供の数が減少し、かつ、高齢者が多くなる時代に突入しており、年金の財源問題も避けて通れないため、より公的年金制度とあわせて私的年金制度についても有効的な制度改革への期待が高まっています。(執筆者:社会保険労務士 蓑田 真吾)