「日本が会社だとしたら、融資できるだろうか?」
「日本にお金を貸して、返済できるのか?」
新年度予算のニュースや、予算の使い道に関する報道番組を見て、銀行員の私は考えてしまいました。
国家予算は金額があまりに大きすぎてイメージしにくいですし、何にどのくらい使われ、私たちにどう影響するのかもよくわからないところがあります。
私は一介の銀行員で、経済学者やコメンテーターの人みたいな知識も経験もありませんが「普通の人や普通の会社を数え切れないくらい見て、融資審査をした」経験で
を考えてみました。
元銀行員が「銀行印」を徹底解説! 適したハンコや押し方のコツ、どんな場面で必要なのか説明します。
国家予算とは?
予算とは「1年間の収入と支出の予定を示した計画」のことで、国家予算では収入を「歳入」、支出を「歳出」と呼びます。
政府など公的機関のタイムスケジュールの1年とは「年度」のことで、4月がスタートで3月がゴールになる、学校と同じイメージです。
最近(2023年3月)成立したのは「令和5年度(2023年4月〜2024年3月)」の予算で、これからの1年間にわたる日本の予算ということになります。
国家予算があれば「(国家)決算」もある
「予算」があればその結果として「決算」もあります。
決算とは「予算に対して実際にお金がどのように使われたか」をまとめたもので、こちらも予算と同じように毎年公表されています。
予算に比べて決算があまりクローズアップされないのも少し不思議ですが、これも「もう結果が出たあとでは遅いので、それよりもこれから何に使うかをしっかり見極めよう!」と前向きにとらえてみました。
市町村の予算も国家予算と仕組みは同じ
たとえば「市や町が予算を消化するため、ムダな水道工事や不要不急の設備を急ピッチで作った」など、耳にすることがあります。
私は自分の住んでいる街で、なぜか毎年3月になると道路の同じ場所ばかり掘り返しては埋めている工事に出くわします。
この工事も「予算」を通して決まり、「決算」にどのように使われたかをまとめられています。
国家予算、金額のレベル感〜国家予算を銀行預金に預けたときの利息
国家予算があまり身近に感じられない理由の一つは、その金額が庶民感覚ではイメージしづらいくらい大きいからです。
たとえば1年間の国家予算・歳出(支出のこと・前出)は110.3兆円(110,300,000,000,000円)とゼロが並んでいます。
私はこれでも銀行員という仕事柄、結構大きな金額にもなれていて「百万円はゼロが6桁、ゼロが9桁なら10億円」と暗記しているのですが、それでも自信がなくて指折り数えたので、まちがってはいないと思いますが…
さてこの100.3兆円を1年間定期預金(金利・年0.002%)に預けると、税引き後の利息は以下のようになります。
- 110,300,000,000,000円×0.002%×=2,206,000,000円(22億600万円)⇒A
- A×20%(預金利子税)=441,200,000円(4億4,120万円)B
- 税引き後利息額(A-B)=1,764,800,000円(17億6,480万円)
国家予算100.3兆円を1年定期に預けると17億円以上も利息が(税金4億もすごいですが)受け取れるんですね。
今も低金利が続く銀行預金ですが、それでもこれほどの利息がつくほど国家予算が大きいと感じてください。
利率参照:ゆうちょ銀行
*定期貯金には金額など預け入れ条件があり、あくまで金利のみ参考としたもの
日本は「借金大国」なのか
報道や記事で「日本は借金大国」と見聞きします。
これは、国家予算を税金などの歳入(収入)ではまかないきれないので、国債を発行して不足分を補っている状態を表現しているのです。
国家予算の借金依存度
国家予算ではどのくらい国債という借金に依存しているのでしょうか。
2022年度予算・110.3兆円の内訳は①税収等の歳入で約3分の2しかカバーできておらず、残り3分の1の不足分(約35.9兆円)が国債などの「公債等」、つまり借金になっています。
銀行員が考える「国債は国の借金」
国債の「債」という字は負い目があること、借入・借金などを表します。
「債務」や「債権」といった借金に通じるもの、そして「社債」「国債」といった債券を意味するものも「期日が来たら返還を約束する」という意味で共通しています。
しかし「社債」や「転換社債」を銀行員は借金とイメージはしません。
事業資金融資などに比べて、会社の規模や信用度が高いので金融市場などから社債で資金調達できると評価が上がります。
事業資金融資とは、銀行を通して資金調達する借金で「間接金融」とも呼びます。
社債などは市場から直接調達する「直接金融」と呼ばれます。
私は銀行員として国債が単に「国の借金」とは言い切れないと考えています。
その一方で、未来の国民に債務を先送りしている点も否定はできません。
銀行員は日本に融資すると判断できるか?
国家予算の部分的な特徴をいくつかとらえ、それを普通の会社に置き換えたら、融資をするのはむずかしいかもしれません。
日本がダメと結論づけず、予算や政府をしっかりと見つめていかなければいけません。
≪画像元:財務省≫
「財政危機に陥った場合にどうなるか?」との問いに対しなんともふんわりとした答えだなあと私には感じられてしまいます。
この答えを「日本株式会社の社長の言葉」として、この会社が私の融資窓口に借入の相談に来たら、どのように判断するか?
日本が会社なら融資するか?
これを審査のチェックポイントと共に解説します。
チェックポイント1:経営に対する熱意はあるか?
銀行員の見解:財政危機に陥った場合の国民に及ぼす影響を考えている点から、日本をこれからも存続させようという熱意は感じられます。
1つ目のチェックポイントは「経営に対する熱意には懸念なし」で通過、次のチェックへ。
チェックポイント2:経営改善への取組姿勢は?
銀行の見解:財政の健全化を目指すとの表現から、経営改善の取り組みをする姿勢は感じられます。
そのいっぽう「なにを、いつまでに、だれが、どのくらいの水準まで、どう改善するか」という5W1Hの具体的な経営改善計画を簡潔にまとめ語ってほしかった、という課題は残ります。
第二のチェックポイントも「具体的な計画を簡潔に表現できていないという課題はあるが、経営改善の必要性は認識しているので、改善への取組姿勢も問題はない」とこちらも通過して、最後のチェックポイントへ。
チェックポイント3:危機管理意識はあるか?
財政状態を改善するには「がんばります」という熱意も必要だが、それに伴う計画性も求められます。
「失敗しないように気をつけます」という意思表示だけでは、財政状態に問題を抱えているという、ある意味「もう失敗している」ことに気づいていないと感じられてしまう場合もあります。
しかし「ダメだったらこうなる」と想定されるリスクはしっかりと把握できていることがわかります。
そのため「危機管理意識もある」と判断して最後のチェックポイントも通過。
銀行員としての審査結果
わたしが日本という会社の社長と面談してチェックした結果は、
- 具体的な数値計画などに課題は残すが、財政を健全化したいという熱意はある
- 熱意だけでなく財政破綻したときのリスクも把握しており、地に足をつけしっかりとした改善を進められる
と思われます。
なにより
日本を未来に存続させていという意思も感じられるので、計画作成などサポートしたうえで融資をしたい
として、若干の課題はありますが、熱意と計画があると判断して審査は通過させます。
国家予算は金額が大きくて、イメージもあまりよくありませんが、銀行員として融資審査の視点で見る限り、日本と言う会社は熱意ある健全な経営を行っているように感じました。
この会社になら、銀行員として融資しても大丈夫だと思います。
堅苦しい国家予算の話題も、銀行員が融資審査の視点で見たように、皆さんも自分がイメージしやすいよう、何かに落とし込んで考えて見るのも良いと思います。
なぜなら、どんなに堅苦しくても、皆さんの税金が使われているんですから!(執筆者:銀行員一筋30年 加藤 隆二)