働き方が多様化し、会社員を辞めて個人事業主やフリーランスで働く人が増えています。
給与天引きの厚生年金保険料から、自分で全額を支払う国民年金保険料に切り替わり、年間約20万円という高額な支払額に驚いている人も多いようです。
なかには
「どうせ自分たちが受給する頃には、年金なんてもらえない時代になっている」
と考え、保険料支払いを踏み倒してしまう人もいます。
しかし、国民年金は「老後」だけでないメリットがあります。
今回は、高いけれど支払った方が良い2つの理由と、よくある誤解を詳しく解説します。
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1. 病気やけがをして稼げなくなったときの命綱になるから【障害年金】
国民年金に加入する人は、個人事業主やフリーランスなど「自分だけが頼り」の働き方です。
体も心も元気なときには、ガンガン働いて稼げるメリットがあります。
しかし、人間の体はいつどうなるかわからないものです。
筆者は、ある日突然「椎間板ヘルニア」になりました。
あれよあれよという間に腰が動かなくなり、働くどころか寝ることも立つこともままならなくなったのです。
痛む腰を抱えながら考えたことは、
「このまま寝たきりになったら、収入はどうなるのか」
でした。
国民年金には「障害年金」があります。
障害年金とは、病気やケガをしたときにもらえる年金です。
国民年金には、1級と2級があります。
- 1級は「常に介護がないと日常生活ができない」
- 2級は「日常生活に著しい制限を加える」
です(障害の程度は随時改定される)。
どちらにしても、かなり障害の程度は重くならなければ給付対象にはなりませんが、稼げない体になったときの命綱になります。
国民年金の障害年金は、
- 1級ならば約97万円、
- 2級ならば約78万円
が年間給付額です。
さらに18歳到達年度の年度末までの子どもがいれば加算されます(障害がある子どもは20歳未満まで)。
生活費の全額はまかなえないとしても、かなり頼りになる金額ではないでしょうか。
ただし、障害年金を受給するためには、条件がいくつかあります。
その中でもとくに重要な条件が
です。
期間は、初診日を基準にして考えます。
例えば、体調を崩して2022年10月1日に初めて病院で診察を受けたら、2022年10月1日が初診日になります。
20歳から2022年10月1日までの3分の2以上で、保険料を支払うか免除されているかを確認します。
さらに60歳以上の人は、65歳より前に繰り上げて年金を受給していないことが条件です。
民間の保険会社では「働けなくなったときに備える保険」を売り出しています。
しかし、払わなければならない国民年金でも「働けなくなったとき」に備えることはできるのです。
2. 万が一のときに家族を守れるから【遺族年金】
万が一に備えて、民間の生命保険に加入している人は多いのではないでしょうか。
とくに一家の大黒柱やシングルマザーは、家族や子どものためにいろいろと対策を考えます。
国民年金というと「自分の老後に備える保険」というイメージがあります。
しかし国民年金には民間の生命保険に似た、「遺族年金」というものがあるのです。
遺族年金とは、加入者に万が一のことがあった場合に残された家族がもらえる年金です。
一家の大黒柱ならば配偶者、シングルマザーならば18歳到達年度の年度末の子(障害がある子は20歳未満まで)が受給します。
国民年金の遺族年金受給額は、年間約78万円です。
子どもがいるならば、子2人までは1人あたり約22万円が加算されます。
そのほかにも条件があえば、寡婦年金や一時金を受給できます。
ただし、遺族年金を受給するためにもいくつか条件があるのです。
そして、障害年金と同様に1番のポイントになる条件が
国民年金保険料を納めなければならない期間の「3分の2以上で」保険料を納めている(または免除されている)こと
です。
会社を辞めてフリーランスになった人の中には、民間の収入保障保険に加入する人もいます。
しかし、収入保障保険は掛け捨てであったり、健康診断の必要があったりして、加入できない人もいるでしょう。
国民年金は、ひとつの掛け金で自分の老後と万が一の両方に備えることができます。
国民年金保険料に関する「よくある誤解」と注意点
「年間20万円の保険料は支払えないから踏み倒した」
「国民年金って10年納付すれば受給できるようになったでしょ。だから10年以上納めたら損よ」
という声を聞いたことがあります。
実はこれらの考え方は誤解であり、大きな損につながっています。
ここからは、国民年金保険料に関する「よくある誤解」と注意点をお話しします。
保険料が支払えないときには踏み倒さず「免除」を申請
年間約20万円の保険料は負担が大きいです。
支払えない家庭はたくさんあります。
実際に2022年6月に厚生労働省が発表した納付率は、73.9%です。
ただし、25歳~29歳までの若い人たちは62.1%と低めです。
保険料が支払えないときに「無言で踏み倒す」は、1番やってはいけないことです。
なぜならば、踏み倒すだけでは「未納」になってしまうからです。
紹介した障害年金と遺族年金を受給する条件は、
- 「支払っている」または
- 「免除」
でした。
「未納」は条件に含まれる期間としてカウントされません。
「免除」も「未納」も保険料を支払わないことに変わりはないのですが、中身は全く違うのです。
保険料の支払いができないときには、「保険料免除制度」や「保険料納付猶予制度」を利用しましょう。
申請や相談は、住民登録がある市や区の役所の国民年金担当窓口で行っています。
年金受給資格期間が10年に短縮された!10年以上の納付は損?
年金受給資格期間(年金を受給するために必要な最低保険料納付期間)が10年に短くなり、年金を受給しやすくなりました。
そのため「20歳から30歳まで納めたらOK」と考える人もいるようです。
しかし、年金の基本は「払った保険料の金額に応じて受給額が決まる」です。
つまり、たくさん保険料を支払った人ほど、たくさんの年金を受給できます。
例えば「20歳から30歳までの10年間だけ保険料を納めた人」は、年金額の目安は月1万6,000円程度です。
一方、
- 「20歳から40歳まで20年間保険料を納めた人」の年金額は月3万2,000円程度、
- 「20歳から65歳まで45年間保険料を納めた人」の年金額は月6万5,000円程度(いずれも最高額の場合)
です。
年金受給資格期間が10年に短縮された理由は、多くの人が年金をもらえるようにするためであり、年金の原則は変わっていません。
国民年金保険料の負担は大きいです。
しかもテレビでは「年金が減った」「納付期間5年延長」という言葉が飛び交い、「払いたくない」と思うことがあります。
しかし、国民年金には老後の備えだけではない役割があります。
保険料は払えるときには払い、払えなくなったら踏み倒すのではなく「免除申請」で乗り越えた方が、結果的にお得なのではないでしょうか。(執筆者:美大卒 式部 順子)
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